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第百六十四話 命尽きるまで愛することを誓います


 宴会が終わり、俺は沙耶を誘い二人きりで宿を出た。


 大事な話があるということだけを伝えて連れてきているため、沙耶は少々強張った表情をしている。


 俺も俺でこれからのことを考えて緊張している。


 そしてどこに行くかなど全く考えてはいなかったため、丁度近くに海があるため自ずと浜辺へと向かった。


「月の道か……」


「幻想的だね」


 月明かりが海に反射して、月の道ができている。幻想的で、告白をするにはもってこいだと俺は考えた。


 魔法のある世界でも、こういう景色は胸に来るものがあるな。


「今日はいろいろとありすぎたな~」


「いつものことだけどね」


 浜辺を歩きつつ、俺は他愛もない話をする。


 クライマックスへの雰囲気づくりというやつである。


「そういえば、沙耶は今日安全なところにいたんだよな?」


「うん、危険だからって……」


「そうか……」


 だがしかし、会話が長続きしない。


 元々俺に雰囲気づくりという高等テクニックができるはずもなく。


 また緊張しているため、考えがまとまらず何を言っていいのかさえわからなくなってきているのだ。


「そ、それで……大事な話って、なに?」


「あ、えっと、そのぉ、だなぁ……」


 今までかなり綿密に計画を練ってきた。さらにこの件には多くの人から助言をもらっているのだ。


 だというのに、俺はその内容をすべて忘れてしまった。


「やべぇ……」


「何がやばいの?」


「いや、ただの独り言だから何でもないよ……」


 緊張のし過ぎで頭が真っ白だ。


 今だってなんで浜辺を歩いているかさえもわからないんだから。


 やばい、緊張のし過ぎで気持ち悪くなってきてしまった。


「ぅえっ」


「えっ、ちょ、大丈夫!?」


 沙耶に心配をかけてしまったが、何とか吐いていない!


 逆流してくる間隔はあったが、これから告白するというのにゲロってたまるか。


「大丈夫だ、問題ない……」


「でも……」


「本当に、大丈夫!」


「……ならいいけど」


 少々呼吸が荒いが、どうにか虚勢を張って耐えている。


 ゲロを吐きかけて心配をかけてしまったため、告白の雰囲気など全くない。


 寧ろ病人が付き添いと一緒に、勝手に病院を抜け出して浜辺で散歩しているようにしか見えないだろう。


「ふぅ……」


 深呼吸をすることでなんとか多少落ち着きはしたものの、未だに緊張が解けない。


 それでも今日の日のために色々と尽くしてきたのだ。それを無駄にしたくない。


 忘れている時点で既に手遅れではあるが。


「……よし」


 息を整え、俺は意を決して沙耶へと向き直る。


「沙耶」


「……なに?」


 互いに真剣な面持ちで向かい合う。


 頭真っ白でこれからのことなんて全く考えていないが、ここまで来てしまったのならばすることは一つだ。


 俺はゆで上がったタコのように真っ赤になっていることだろう。しかしそれは沙耶も同じだった。頬を赤く染め、そして真剣な面持ちで俺たちは見つめ合う。


 胸からこみ上がってくるこの強いものを押し殺して、しっかりと沙耶を見つめる。


 あ違うこれゲロだ。こみ上がってくるのゲロだ。


「……すぅ、はぁ……!」


 深呼吸をしてどうにか堪えることに成功しました。


「俺は、お前のことが……」


 ゲロのことなど忘れるように、俺は下手に考えることなく単純に思っていることを伝える。


 この、今まで胸中に秘めていた思いを。



「好きだ」



 何の捻りもない、只々思いを伝えただけだ。


「記憶がなくなってから期間は短いけど、それでも俺は沙耶のことが好きだ」


 後のことなど、雰囲気など考えていない。


「未だに記憶は戻っていないし、それに魔法以外に秀でていることがあるわけでもない」


 ただ、自分の純粋な思いをぶつけているのだ。


「けれども、俺はこれから一生沙耶を守り続けて見せる」


 嘘偽りなく、俺が沙耶のことを好きだという気持ちをわかってもらうため、実直に伝えた。


「だから———」


 もう自分でも何を言っているかさえ分からなくなってきていた。


 だが直後、沙耶が抱き着いてくる。


「……ぅえ?」


 突如のことで何が起きたかわからないが、俺は沙耶を引きはがすことができなかった。


 何をしていいかわからず、行動が停止してしまった。


 どうしたらよいのか回らない頭で考えていると、小さな声で沙耶が話し始める。


「翔夜って、真面目に話そうとすると、話が長くなるよねっ」


「わ、悪い……」


 失敗してしまった。


 もう終わりだと、俺は沙耶見られていないため、悲壮感を隠そうともせず表情に出した。


 これからどうしようかと、死ぬしかないかなと考えた。


 だが、その必要はなかった。


「大丈夫だよっ。逆に翔夜がいつも通りで安心してる」


「そ、そうか……?」


 褒められているのか微妙なところだが、嫌われたわけではないから良しとしよう。


「私ってね、結構不幸体質でね……」


 沙耶の表情が見えないが、抱き着いた体制のまま自身のことを話し始める。


「学校にテロリストが来たり、魔物に襲われたり……」


「あー、あったなそんなこと」


 現実でこんなことが起こりうるのかと当時のことを懐かしむ。


「それで、人より魔力があって狙われることもあってね……」


 沙耶のことを誘拐し、利用しようとした連中もいた。


 勿論その全員が無事ではないが。


「そんな時に、翔夜が助けてくれた」


 沙耶は顔を上げ、俺を見つめる。


「記憶がなくなっても、以前と変わらず助けてくれた」


 嬉しそうに、しかしそれでいて恥ずかしそうに伝えてくる。


「だから———」


 俺から離れ、そして今度は沙耶がしっかりと俺の目を見て、満面の笑みを浮かべて言う。




「私もね、翔夜が好きだよっ」




 今まで、どれほどその言葉を待ちわびたことか。


「えっと、つまり……?」


 しかしだ、この言葉を期待して今までこの世界を生きてきたが、実感がわかない。


 確認するように、再度沙耶に問いかける。


「こんな私でよければ、よろしくお願いしますっ!」


 顔を赤く染め、恥ずかしがりながらも笑顔でしっかりと思いを伝えてきた。




「ぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


 俺はその言葉が嬉しく、雄たけびを上げてしまった。


「っしゃああああああああああああああどんなもんじゃいいいいいいいいいいいいいいいいこんちくしょうめがあああああああああああ!!!!!」


 何言っているのだろうかと思うかもしれない。


 俺だって何言っているかわからない。


「ほ、本当に俺でいいのか!?」


「もう、何度も言わせないでよ……」


 実感がわかなかったが、俺は今日という日を忘れることはないだろう。


「翔夜がいいの……」


 その言葉を、俺は生涯忘れはしない。



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