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第十六話 対等な者との差


 模擬戦はここにいるクラスメイト達全員が行うわけなのだが、俺は自身がやった試合と、怜と沙耶の試合しか覚えていない。なぜこの二つの試合しか覚えていないかというと、それは他の生徒がショボかったわけではなく、二人の試合がとても白熱したためだ。俺と眼鏡君の試合なんてもう雲泥の差だよ。


 いやまぁ比べる対象が低かったが、それでも今日一番の苛烈さだったと誰もが思うだろう。


 二人は模擬戦の開始早々に多種多様な魔法をぶっ放して、闘技場の地面をクレーターだらけにしたのだ。審判である先生も逃げまどっていたし、俺たちにまで被害が及ぶんじゃないかとさえ思った。


 後で聞いたことなのだが、ここのギャラリーは魔法の結界によって守られていて、ちょっとやそっとじゃ壊れないようになっているそうだ。目に見えないから、全然気づかなかったよ……。


 それで、結局白熱はしたがなかなか二人は決着がつかなくて、先生が止めに入るまで続いた。もうね、いつ俺が止めに入ろうかそわそわしながら見ていたから、結構心臓に悪い思いをしたよ。まぁ、怜はしっかりと加減をして沙耶を傷つけないようにしてくれていたからよかったけどね。


 そして今は場所は変わって、教室へと来ている。これから普通に授業を行うそうなのだが、予定よりも模擬戦が早く終わってしまったそうなのだ。だから、次の授業が始まるまで自由時間だとここに来る前に言われた。


 今教室では、クラスメイト達が先程の模擬戦について話し合っていた。そしてその話題のほとんどが怜と沙耶だった。確かに先程の戦いはかなりの見ものだったよなぁ。


 その注目の的になってしまっていた沙耶と怜は、現在クラスメイト達によって囲まれていた。俺の数少ない話せる相手が近くにいないのは、なんか寂しいな。やっぱり模擬戦ですごいことをすると人気者になれるのかな?


 ん、俺か?俺は今誰も話す相手がいないよ。なぜって?そりゃあ俺と話したいと思う物好きがいないからだよ。自分で言ってて悲しくなってくるが、それが現実なんだ……。


 俺も一応、模擬戦では結構すごい魔法を使っていたんだぞ?自覚は全然なかったけどな!まぁ、こんな見た目が恐ろしい人間に近づきたいとは普通は思わないわな……。


 沙耶と怜がいるじゃないかって?ふっ、あの白熱した模擬戦について聞いているクラスメイト達に囲まれているから、なんか話しかけづらいんだよ。


 俺だって話したかったのだが、ずっと二人の近くにいては誰も話しかけようとは思わないだろうと思い、譲ってやったよ。だが、近くに俺がいるということを忘れるんじゃないぞ?もし沙耶に不埒な真似をしてみろ、警察に訴えてやるからな!?……なんか、俺が訴えられそうだな。


 しかし、早く時間が過ぎないもんかね?誰とも話していないし何もすることがないから、この自由時間は暇で暇で仕方がない。男友達もいないっていうのはつらいもんだな……。


 あーいや、何もすることがないなら、寝ればいいか。よし、先生が来るまで寝ていよう!







 ===============







「……きて…、…ねぇ……よ…」


「ん?」


 深いまどろみの中、俺の耳に入ってくる声が聞こえた。声からして女のようだが、俺ではないだろう。


「起きてってば、ねぇ、起きてよ」


 いや、俺だった。なんだなんだ、体を揺すってきて。俺に話しかけるとは酔狂な奴もいるもんだな。……自分で言ってて悲しくなってくるな。


「人が気持ちよく寝てるのに……。授業が始まるのか?」


 もしかしたらただの親切心で起こしてくれたのかもしれないな。そうだったら、起こしてくれた左隣に座っている女子生徒に感謝しなくちゃな。


「先生は来ているけど、まだ授業を始めるまでは時間があるからまだだよ」


 正面を向いてみると、昨日の入学式の後に見たあの胸部にメロンが詰まっているかの如く胸囲が大きい先生がいた。どうやら、女子生徒と楽しく雑談しているようだった。


 あれ、授業が始まっているわけでもないのに、何でこいつは俺を起こしたんだ?


「じゃあ、何の用だ?」


 寝起きだから少々機嫌が悪く見えてしまうかもしれないが、俺はいたって冷静だ。目つきが悪いのは許してくれ。


「君、名前何?」


「いや、こっちが知りたいんだが……」


 怖がった様子も緊張している様子もない。なんだか初対面の女子にそういう反応をされるのは新鮮な感じだな。沙耶は例外だがな!


「僕は織戸結奈(おりどゆな)。で、あなたの名前は?」


 おぉ、こいつ僕っ子か!俺リアルで初めて見た!なんか知らんけど、俺はかなり感動しているぞ!


「……纐纈翔夜(こうけつしょうや)だ」


 いかんいかん、感動してしまって対応に遅れた。しかし、こいつはクラスメイトの名前も覚えていないのか?最初に黒板に可愛らしい字で書きだしてあっただろうに、全く……。あー、ごめん、俺も全然覚えていなかったわ。


「なんて呼べばいい?」


「なんでもいいよ」


 こいつは俺のことをどう読んでほしいのか聞いてきたので、どうせ俺は名字か名前で呼ばれると思ったから何でもいいと答えた。だが、なんでもいいとはいったものの、変なあだ名でもつけられてしまったら少し嫌だな~。


「じゃあヤクザで」


「それはやめてくれ!せめて名字か名前で呼んでくれ、頼む!」


 表情を変えないままに俺が言われたくない呼び名を言いやがった!何でもいいとは言ったが、流石にヤクザはやめてほしい!また良からぬ奴と思われてしまうことになりかねないからな!


「じゃあ翔夜で。僕のことも結奈って呼んで」


「はぁ、わかったよ。それで、用件は何だ?」


 そういえばこいつは結局何で俺を起こしたんだ?自分でいうのもなんだが、俺は女子と全然話したことないからそこまでコミュニケーション能力は高くないぞ?俺にいったい何を求めているのやら?


「暇だから話し相手になって」


「……俺は寝ていたんだが?」


 どうやらこいつも暇人だったらしい。俺に話しかけるんだから、こいつも友達がいないな!


 しかし、こいつは怖いもの知らずだな。普通顔が怖い奴に話しかけようとは思わないぞ?


「どうせ翔夜と話したいと思う物好きもいないんだから感謝してほしい」


「なんだ、喧嘩を売ってるのか?喜んで買ってやるよ」


 おーなんだ、俺と喧嘩をしたかった命知らずか。今では神の使徒なんだ、軽くひねってやろうか?


「態々転生してきたのに、顔が変わってないとか災難だね」


「……ちょっと待て、なんで俺が転生者だって知っているんだ?」


 なんだこいつは、どうして俺が転生者ってことがわかったんだ?見た目では全然わからないだろう。少々警戒する必要がありそうだな。


「だって、僕も君と一緒にあそこにいたもん」


「え、いや、あの場所にいたのは、俺と怜ともう一人の黒髪のイケメンだったぞ?」


 何を突然言っているんだ?あの場に女はあのクソ女神しかいなかったぞ?まさか……!


「その黒髪のイケメンが僕」











「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」











「え、だってお前、え?」


 人目もはばからずに大きな声を上げてしまった。そのせいで周りからの注目を集めてしまったが、俺はもうそれどころではないほど混乱していた。


「一応言っておくけど、転生するときに性転換したわけじゃないからね?」


「は?え、だって、男……」


 何を言っているか全然わからない。性転換をしたわけじゃないなら、こいつは男のままなのか!?見た目女の子の体は男の子っていう。いや、ここでは男の娘と言ったほうがいいか?怜の仲間なのか?


「あの時も女だったんだよ。僕は前世ではよく男に間違えられていたんだ」


「……な、なるほど。じゃあ俺が間違えていたわけだ……」


 謎は解決した。確かに前世でも男に間違われる女は俺の知り合いにもいたな。混乱していたとはいえ、なぜその可能性を考えられなかったのかと、自分が恥ずかしくなるよ。


「そういうこと」


 だが、それを聞いて俺は無意識にある部位へと目線を動かしてしまった。そしてそれを見た後に、先生のある部位を見て、比べてしまった。


 ふむ、世の中っていうのは、残酷なものだな……。


「おいこら、いったい先生と私で何を比べたんだ?」


「……ちょ、ちょっと……まっ……!!」


 素早く、俺の背後をとって俺の首を絞めてきた。身長は俺とさして変わらないほどに長身だからか、難なく俺を締め付けることが出来てしまった。


 ……あれ、ちょっとこれはマズいぞ!?


 いや、背中に胸が当たっているとかそういうことじゃなくて!というか全然感触がないけどな!あれ、なんかさっきより強く締め付けられているような……。じゃなくて!なんでか知らないけど、俺が身体強化魔法を使って振りほどこうとしているのに、全然振りほどくことが出来ない!なんで!?


「なぁにを比べたのかな?」


「きょ、胸部を……み、見ま…した……!!」


 段々と俺の首を絞めつけてくる力に、必死に抗いながら答えた。同じ神の使徒なのになんで振りほどけないんだよ!?このままだと意識が飛んじまう!


「へぇ、そうなんだー」


「だ、だからね……あの、首を絞めるの、を……やめてくれない、かな…!?」


「んー?」


 聞こえているだろうが、聞こえないふりをしていた。なんだ、俺はそんな地雷になるようなことをしてしまったのか!?胸ってそんなに重要だったのか!?


「……ご、ごめん、謝る……から、やめてほしい!」


 声のトーンをさっきから全然変えずに話しているせいか、恐怖が俺を襲ってきている。女って、怒らすと怖いんだな……。


「僕ね、今日お弁当忘れちゃったんだー」


「だ、だか……ら?」


「ここって購買部あったなー」


「わ、わかった……。昼飯、奢ってやる、から……!」


 こいつ、俺がこんな発言をしたことをいいことに、昼食をたかりやがった!


「教科書も忘れちゃったなー」


 結構図々しいな!だが、ここでいうことを聞かないと、拘束を解いてくれないだろうから言うことを聞くしかない!


「授業中見してやるから!だから……この、拘束を……解いて、ほしい!まじでじぬ!」


 ずっと必死で抗っているのに、どうやってもこの腕から逃れることが出来ない!こんなに細いのに、どこからそんな力が湧いてくるんだよ!というか、それ以前に胸ってそれほどまでに重要なものなのか!?


 あ、やばい。意識が遠のいていく……。


「……今回は大目に見よう」


 やっと俺の願いを聞き届けてくれたのか、拘束を解いてくれた。あー、酸素が美味しい!


「はぁ、はぁ、はぁ……。な、なんて馬鹿力なんだ!マジで死ぬかと思ったわ!」


 こんなところでやったせいで、いい見せもんになっちまったよ!クラスの奴らがなんだなんだと見ているぞ!というか先生よ、見ていただろうになんで俺のことを止めに入らなかったんだよ!生徒が死にかけていたんだぞ?助けてくれよ、入学式のことは謝るからさ!


「魔力操作が雑なんだよ」


 淡々と、結奈は呟くようにそう言ってきた。それはいったいどういうことなんだ?


「え、それってどういう——」


「——ちょっと、翔夜に何しているの!?」


 結奈がちょっと気になることをつぶやいたのだが、それを聞く前に俺のことを心配してやってくる沙耶が来てしまった。遮られてしまったことは残念だけど、来てくれたのは結構嬉しいです!


 俺が締め付けられているときに助けを求めて探したけど、いなかったからトイレにでも言っていたのかな?


「あなたは?」


 結奈は沙耶のことを知らないからなのか、誰なのか尋ねた。模擬戦で白熱した戦いをしていたんだから、顔くらいは覚えていないもんかね?


「翔夜の幼馴染の東雲沙耶。織戸さん、なんで翔夜を苦しめていたの?」


 流石沙耶、顔を見て名前がわかるとはすごいな。でも、その表情は少々お怒りだった。あぁでも、怒っていても沙耶は可愛いな。


「僕のことは結奈でいいよ。うーんと、これはね、翔夜が私に手を出してきたの。だから反撃した」


「俺がいつお前に手を出したよ?」


 おい、俺を犯罪者に仕立て上げるんじゃないよ!俺は決してそんなやましいことをしていないからな。沙耶は信じないでくれよ?


「嘘。翔夜はそんなことしないって信じているもん!」


「沙耶ぁ……!」


 沙耶はやっぱり俺のことを信じてくれるんだな!嬉しくて目から涙がこぼれそうだよ……。


「翔夜はね、女の子に手を出すどころか、声をかけるだけで怯えられているんだよ!?なのに自らそんなことするわけないじゃん!」


「沙耶ぁ、あんまりフォローになってないぞ~?」


 沙耶はそんなこと思っていたのか。俺、さっきとは違う理由で涙がこぼれそうだよ……。


「最近じゃあ、女の子に全然興味ないからもしかしてそっちの気があるんじゃないかって思い始めて、かなり切実に心配しているんだからね!?」


「沙耶さん!?そんなこと思ってたの!?俺はノーマルだよ!?」


 おいおい、まさかそんなことまで思っていたのか!もうびっくりだよ!びっくりしすぎて涙が引っ込んだわ!


「冗談だよ。それにしても翔夜を信じているだなんて、もしかして翔夜のこと好きなの?」


 少々からかった様子で結奈は言った。こいつが沙耶をからかっている事はさておき、これはかなり気になるな。俺のことは嫌いではないはずだが、果たしてどんな回答をするのやら?


「は、はぁ!?ちょ、ちょっといきなり何言ってるの!私はただ翔夜のことを昔から知っているだけで、別にそんなんじゃないから!」


 ……あー、脈なしなんですね、はい……。そんなに否定しなくてもいいのではないのでしょうか?言葉にされると辛いものがあります……。というかこれは俺がただ不憫なだけじゃあ……?


「ふーん。まぁそういうことにしておきましょう」


 結奈はそんなに興味がないのか、無理矢理納得したような、元から納得してないような感じで答えた。なんでこいつはこのタイミングでからかったんだ?


「はーい皆さん、席についてください。これから魔法学の授業を始めますよ」


 そこでちょうど授業を始める時間になったのか、先生がみんなに声をかけた。これから俺は俺はメンタルが崩壊している状態でやらなければいけないな……。


「さっき誤魔化してあげたんだから、あとでアイス奢ってね」


 耳元で沙耶に聞こえないように結奈は言ってきた。なるほど、胸囲について話をそらすためにワザと言ったのか。だが、そのせいで俺はメンタルブレイクしたんだがな……。


「くっ……わかったよ」


 それでも一応話を逸らしてもらったことには変わりないから、仕方がないので渋々了承した。自業自得とは自分でも思うが、それでも俺が傷ついたことは俺のせいではなくこいつのせいなわけで、もう少し慈悲をくれてもいいと思う。


 あぁ、俺の財布の中身が消えていってしまう……。面倒だからしたくはないが、バイトでも始めたほうがいいかな?


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