第百五十九話 本物の力
どれだけ攻撃を加えても、傷がついた瞬間から治ってしまうほどの再生力。
それはつまり、何度でも攻撃をすることができると捉えることができる。
「じゃあまず———」
無茶な攻撃をしても死なない玩具だと、結奈はそう考えて攻撃に転じる。
「これで様子見」
転移魔法で瞬時に敵の背後に回り、そして何もないところから結奈は武器を取り出して一刀両断する。
恐らくインベントリに収納していたものだろう。
「あれはぁ……剣だよな?」
「剣だね」
結奈が今手に持っているものは、柄と刃の長さが同じという、なんともアンバランスな剣だった。
しかも全長が三メートルを優に超える大きさだった。
「なんであんな剣を使ってるんだろうな?」
あのようにアンバランスな剣を俺は見たことがない。
俺が持っていた武器でも、柄より刃のほうが遥かに長い。
それが長さ半々というのは、どういうメリットがあるのだろうか。
「……ああやって切るだけじゃなくて、ぶん殴るためじゃない?」
「なるほど……」
どう使うのか考えていると、結奈は徐に刃の方を持ち、力任せに頭部を潰した。
普通そのようなことはしないだろうが、結奈はその常識に囚われないのだろう。
「普通の日本刀使おうかな?」
「おう、おかえり」
呆気に取られていると、結奈は一旦休憩と言わんばかりに戻ってきて座りこんだ。
敵は頭部をつぶされようとも直ぐに復活し、だが結奈の攻撃が見えていないため、警戒して迂闊に攻撃することができていない。
「翔夜たちも手伝ってよね」
「あれの中に入る勇気は僕たちにはないかな~」
先程の戦いは結奈だからこそできるのであって、俺たちにできるわけではない。
転移魔法の速度、身体強化魔法の精度、どれをとっても結奈に劣ってしまう。
それがわかっているから俺たちは何もできないのだ。
『今での勝った気になるなよ!』
「うわっ、急に雑魚っぽい発言」
「怜もトゲのある発言するんだな」
この化け物は、確かに強い。
俺と怜でも苦戦を強いられるほどの実力を持っていることは確かだ。
だが、相手が悪かった。相手は神の使徒の中でも最強の結奈だ。
「結奈がいるだけでこんな安心感あるの初めてだな」
「感謝してよね」
何度も言うが、偽物が本物に勝てるはずがないのだ。
ついでに言えば、俺と怜も勝てないわけではない。超広範囲高威力の魔法を放てば消し飛ばせるのだ。
ただそれをしてしまうと、日本という国の地形が変わってしまうためできないのだ。
「魔力が無限にあっても、使い手があれだと余裕だね」
『何が余裕だって?』
化け物は苛立ちからか、感情が以前に比べて抑制できていないようだった。
結奈からの挑発に直ぐに乗ってしまい、転移魔法を使って先程の結奈のように背後に現れた。
俺はその直後攻撃しようと動こうとするも、それは杞憂に終わった。
「余裕だよ」
その動きを結奈は読めていたのだろう。
背後をとられた直後に背後をとり、まるで赤子の手をひねるかのように上空へと蹴り飛ばす。
最初はこちらが遊ばれていたが、今は逆に結奈が遊んでいる。
「僕が本気を出せばこんなもんだよ」
「魔力が実質無限って聞いてヤバいかもって思ったけど、寧ろこっち陣営の方がヤバい奴いたね……」
「これ、俺らいらないんじゃね?」
俺が助けようとしたのは、俺より格上の神の使徒だ。俺の助けは必要なかった。
これならば本当に俺たちはただの傍観者でしかない。
「そんなことないよ、僕も疲れるからバトンタッチしたい時だってある」
「あんな一方的に嬲って息あがってないの凄いな」
「翔夜だってできるでしょ?」
「無茶いうな」
俺だって神の使徒ということだが、それでもあれほど一方的な攻撃はできないだろう。
出来たとして、カウンターを食らわせるか超広範囲攻撃を仕掛けるくらいしかできない。
「翔夜も怜も、頑張ればできるって」
「「無理」」
残念ながら結奈ほどの卓越した技術を俺らは持っていないのだ。
力はあっても、まだ学生であるため技術が身に入っていない。
しかも俺は訳ありであるため、結奈と肩を並べて戦うには実力不足である。
「だけど、結奈がいても打開策がないことにはどうしようもないよね」
「僕が攻撃してる間に見つけて、翔夜」
「俺限定かいっ!」
魔力が常に供給されていて、攻撃された直後に再生する相手に、どうやって勝つというのだ。
もうこの化け物を別の空間に送って、魔力供給を絶つしかないのではないのではないだろうか。
それか宇宙まで飛ばすか。
『俺は最初から本気を出していたわけではない。図に乗るな!』
「キャラ変わってから威勢がいいな」
「力を持つと性格変わる人いるよね~」
「おい結奈、なんで俺を見ながら言ってるんだ? 俺は元々この性格だぞ?」
車を運転していて性格が変わってしまうようなものだろうが、なぜ結奈は俺を見るのだ。
俺は元々こんな性格だ。
あと相手次第ではちゃんとしているぞ。ホントだぞ。
「翔夜、何か作戦ない?」
「お前も考えろ!」
「考えるけどさ、こういうのは翔夜の方が何かずる賢いこと考えそうじゃん?」
「あれぇ馬鹿にしてる?」
「してないしてない」
何か馬鹿にされているような気がしなくもないが、俺は結奈が戦っている間に打開策を考える。
一応いくつか思いつくが、それが本当にこの敵を倒すことに繋がるかわからないのだ。
「ねぇ、飽きてきたから早くして」
「疲れたじゃなくて飽きたんかい!」
無表情であるためわかりにくいが、殺し放題ということにワクワクしていた結奈が飽きてしまっているようだ。
殺し放題に飽きるってどういうことだと思うが、そういうものなのだろう。理解はしても納得はしないがな。
『おやおや、俺の再生速度の方が速くなってきたぞ?』
「飽きると本気でしたくなくなるんだよ」
結奈は気だるげにそう答え、しかしそうは言いつつ、やはり結奈といえども疲れてしまったのだろう。
わかりずらいが息が上がっており、魔力もかなり使ってしまっているのだろう。冷や汗が流れており、これは急いで打開策を考える必要があるな。
「どうするか……」
勿論俺にできないこともない。寧ろ俺にしかできないことだってある。
どれも確実性に欠けるから実行できないのだ。
「クソ女神かぁ……」
「えっ……」
「絶対やだ」
ボソッと口にしてしまったことに、結奈は過剰に反応した。
「なんであのクソ女神の力を借りないといけないの」
「クソ女神なら、一応神なわけだしどうにかできるかなと」
「アイツに頼んだら、絶対ニヤニヤしながら煽ってくるに決まってる」
「そうだよなぁ」
「二人の仲の神様への印象が酷い……」
結奈の言う通りの結果になりそうだから、俺もこの作戦は使いたくないのだ。
だが現実は非情なものだった。
「まぁ呼ばれなくても来るんですけどね」
「首を差し出しに来てくれたんだ」
「ぶっ殺してやるぜ!」
「もーわかってたことですけど、敵あっち! 私じゃない!」
俺と結奈は敵を無視して殴りかかってしまった。
「なんかもう、緊張感ないよね……」