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第百五十七話 禁忌術


 俺たちは今、怜の別荘近くの浜辺へと来ている。


 転移魔法を使えば、態々飛んで移動する必要はない。そのためシスト隊員を連れてやってきた。


 また海神様もいるようで、全員勢ぞろいの状態だった。


「んで、どこにいるんだ?」


「視たときはいたんだけどね~」


 結奈が千里眼で視たのは海岸にいる時である。


 一瞬で転移したといっても、発動するまでに少し時間が空いた。


 その少しの間にどこかに移動したのだろうか。


「どこにいるかわかるか?」


「……視えない」


「そうか、俺も視えない」


「なぜそれだけのことをして、平然としていられるのでしょう……」


 俺と結奈は再び千里眼を使い、件の男を探した。だがどこを視ても見つからなかった。


 そして転移魔法を使用した後に千里眼も使用して魔力が有り余っていることに、観月先生は素直に驚いていた。


「何処だと思う?」


「転移したか、あるいは……」


 俺の問いかけに、結奈はそこにいるぞと言わんばかりに自身の足元を見ていた。


「ちょっとおびき出す」


 そういうや否や、結奈は両手を地面の砂へと埋め込み、魔力を集めていく。


 その行動に何の意味があるのか全く分からなかったが、その直後俺は理解した。


「『串刺し』」


 高まった魔力を一気に開放し土魔法を発動した。


 地響きが鳴り、魔法名からして地中にいる生物はすべて串刺しとなったのだろう。


 他のみんなは怜を除き訳が分からなそうにしていたが、俺は何となくではあるが理解できた。


「いたのか?」


「多分ね。でも、死んでないと思う」


「今ので死んでないのか……」


 地面に潜んでいた奴を串刺しにするつもりで結奈は発動した。


 だが恐らく手ごたえのようなものがなかったのだろう。


 そもそも、元々結奈は躱されると思っていたのかもしれない。


 空を見上げて結奈は指さす。


「転移魔法だね」


「転移?」


 結奈が指さす方向に目を向けると、何やら魔物のような影が見えた。


「なんだ、あれは?」


「例の男」


「怜の、男……」


「なんでこっちを見るの?」


「冗談だ」


 結奈の言われたことが信じられず、思わず怜の方を見てしまった。


 当然そのようなことはなく。結奈はそのままの意味で言ったのだろう。


「魔物になったんだと思う」


『正解!』


「っ……いつの間に———」


 俺の背後から声がして、直ぐに振り返ると目の前に人間の頭ほどの大きさの『拳』があった。


 直後俺は防ぐことがやっとだったため、大砲の玉のように殴り飛ばされた。


『おやおや、非力だねぇ!?』


「……クソがぁぁぁぁぁぁ!! 急に現れたと思ったら、不意打ちすんじゃねぇよ!」


 砂浜から勢いよく飛び出し、頭や体についた砂を払う。


 しかも口にも入ったため唾を吐き捨てる。


「くっそ、タイミングよく殴れなかったじゃねぇか」


 うまく反応していれば攻撃されなかったため、そう文句をつぶやく。


 その時、初めてその男だったものを視認する。


「総員、こいつから距離をとれ!」


 シスト隊員全員男だった魔物から距離をとり、臨戦態勢をとる。


 その対応からも想像できるように、男はもはや人間だった面影がほとんどなくなっていた。


 足は昆虫のような見た目をしていて、そこからアラクネのように上半身が伸びている。だがその上半身も獣と人間を足したかのような見た目で、且つ筋骨隆々で、全体的にどす黒い色をしていた。


 かろうじて人間だと思えるのが顔面だけだった。


『はっはっは、漸く……漸くですよ!』


 自身の手を開いたり閉じたりして、何かを実感しているようだった。


「この力があれば、目的を達成できる……!」


「何言ってんだ?」


 とりあえず次の行動を待って俺たちは何時でも対処できるようにしていた。


『君は、神の使徒を信じるかい?』


「……どういうことだ?」


 唐突に問われ、俺はできるだけ平静を保ちつつ、どういうことか尋ねた。


 神の使徒を信じるも何も、俺がその神の使徒だからな。


『僕はねぇ、神の使徒へとなることができたんだよ!』


「神の使徒に?」


 何を言っているんだと思った。


 神の使徒は俺たち三人しかいない。転生された人間はいても、使徒は俺たちだけだ。


 だがこいつは、自身が神の使徒だと断言した。何故、この魔物が神の使徒なのだろうか。


『なんだったか……あの、土岐兄妹……だったかな? アイツらのおかげで俺様はここまでの進化を遂げることとなった!』


「おーい、口調が変わってるぞ」


 確かに魔力は以前とは比べ物にならないほど強大になっていた。


 だがそれで人間を辞めてしまっては元も子もないのではないか。


『そしてそれに加えて海神の力を使えば、この通りさ!』


「只のバケモンじゃねぇか」


 魔物としては最高クラスである最上位種に分類されるであろう魔力を放ち、神の使徒である俺たち三人以外は吹き飛ばされてしまった。


 俺たちは本物の神の使徒であるため、その程度では平然としていることができる。


「……っぶねぇ!」


『見たか、この速さを!』


 気を張っていたおかげで、突然の攻撃にも対処することができた。


 だがその攻撃をしっかりと目の当たりにして、俺は少々冷や汗を流した。


「おいおいおいおい、本当のバケモンじゃねぇか」


 転移魔法を使うやつは今までにもいた。


 それに対処できたのは、俺の動体視力が神の使徒ということで常人ならざる力を持っていたためだ。


 だがこいつは、俺の動体視力でも追いつくことが困難と思うほどの速度で動いた。


 反撃などと考えていないで、しっかりと気を引き締めなければいけなくなった。


「これは、神の使徒っていう発言もあながち嘘じゃないかもな……」



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