表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
154/193

第百五十四話 主人公、死す


 雪先生は、俺に死ねといったような気がした。


 いやいや、まさかそんなことを言うはずないだろう。


 普段は口汚く罵りあったりしたような気がするが、まさかね。


 仮にも先生という立場にいるやつが、まさか学生であり自身の学校の生徒に対して、死ねなどとそのようなことを言うはずがない。


 俺の聞き違いだろう。


「だから、一回死ねって言ってるんだ」


「……やだよ!?」


 聞き間違いじゃなかったようだ。


 純粋に、何の捻りもなく、只々死ねと、そう言っていた。


「いや、ただ死ねって言っているわけじゃない」


「何が違うんだよ!」


 俺が死ぬ以外に何の意味があるというんだ。


 この現状を打開する方法があるのかと思いきや、まさかまさか、俺に死ねというとは夢にも思わなかった。


「この状況で俺が死んで何になるんだよ!?」


「死なないと会えないやつがいてな……」


 そう気まずそうに答える雪先生は、懐から何やら論文のような紙束を出した。


「理論上、お前なら死なずに行けるだろうけど、死んだ方が手っ取り早いんだ」


「さっきから何言ってるんだ?」


 厚い紙束を何枚か確認するようにめくる。そして俺にその中の一枚を見せてくる。


「これを使って、現状を打開する」


「それは、何かの魔法か?」


 見せられたのは、細部にまで文字が刻まれた魔法陣だった。


 今まで様々な魔法陣は見てきたが、これほど精巧なものは初めて見た。


「アポストロ教は女神について研究をしているところでな。そこで見つけた研究にアタシが改良を加えたものだ」


「お前、それ大丈夫なのか?」


「大丈夫だろ」


 敵組織から拝借したものを改良するというのは、倫理的にも法律的にも大丈夫なのか不安になってしまう。


「んでこれは、お前の精神を肉体から引きはがして、天界に連れていくっていう代物だ」


「おい待て、それってつまり……」


「おうそうだ。アタシたちをここに送り込んだ奴に頼み込むんだ」


「……やだ!」


 何となくは予想していたが、つまりはあのクソ女神に頼み込まなければならないのだ。


 確かに神というのだからどうにかなりそうなことだとは思うが、それでもクソ女神だけは頼りたくないのだ。


「しゃあねぇだろ! アイツくらいしかどうにかできる奴を知らねぇんだから!」


「だからって、あのクソ女神に頼りたくねぇよ!」


 考え付いた答えが、クソ女神を頼るだなんて俺は絶対に嫌だ。


 何が悔しくてあんなクソの権化みたいな女神に頼らなければいけないのだ。


 俺たちはクソ女神を頼るか頼らないかで口論になってしまった。


「というか、早く話し合い終わらせてくれません!?」


 だがそんな俺たちの話に割って入るやつが一人。


 ずっと、結奈と戦っていた怜である。


 先程からずっと、爆発音や金属音などが聞こえていたが、俺たちは話し合っていたため無視していた。


 その間、怜は一人で結奈の攻撃を耐え凌いでいたのだ。


「ごちゃごちゃうるせえ! さぁ翔夜、精神だけあのクソ女神の下へ行くんだ!」


「ノリノリだな!?」


「体はアタシが預かっておく!」


「不安しかないんだけど!?」


 こいつに俺の体を任せるのは、少々、いや相当危機感を覚える。


 何かされそうだなと、雪先生には任せたくない。


「残念ながら、お前の担任が見張っているからなにも出来ねぇよ……」


「アザッス、観月先生!」


 こいつだけではなく、真面目な担任が俺の体を見ていてくれるのであれば安心だ。


「早くお願いします!」


「うるせぇ黙ってろ!」


「あれぇなんで僕が怒られるの!?」


「じゃあ、発動するぞ」


「お、おう……!」


 怜のことはまた無視しつつ、俺たちはクソ女神の下に行くための準備を始める。


「『精神解離』!」


 そう言うと、発動した拍子に紙に書かれていた魔法陣が空中へと浮かび上がり、そして眩い輝きとともに回転する。


 次いでそこから魔法陣に綴られていた文字が螺旋状に俺の体へと伸びてくる。


 それらは俺の全身へと絡みついていき、ついには周りから俺の体が見えなくなってしまうほどだった。


 ただ半透明であるため、俺からは周りが見え、周りからも俺のことが見えているだろう。


 因みに書かれている文字は勉強不足だから読めない!


「これで行ける……多分」


「ボソッと多分とか言うな!」


「前代未聞の行いだからな、確証が持てない」


「じゃあやめよう!?」


「うるせぇ翔夜のくせにグダグダ言ってんじゃねぇ! つーかもう止められねぇし!」


「くそったれ!」


 不安しかなかったが、今はこれしかないと思い覚悟を決める。


 ……いや、やっぱり怖いからこれ解除しよう!


 どうすれば解除できるかな!? ディスペルの魔法とかあるからそれ使えばいいかな!?


「翔夜」


「なんだ!」


 どうするか考えていると、結奈から唐突に声をかけられる。


 いったいなんだというのだ、こっちはどうにか魔法を解除させなければと考えている最中だというのに。


「クソ女神、殴れるチャンス」


「よし行こう!」


「単純だなぁ……」


 怜に馬鹿にされたような気がしたが、気のせいだろう。


 そうだ、クソ女神を殴ることができるんだ。


 ならば多少危険性があっても、行く価値のあるものだろう。


 勿論、結奈のことを頼むことは忘れていないとも。


「おい翔夜、これ持っとけ」


「なんだこれ?」


 俺が持たされたのは、ピンポン玉ほどの黒い球だった。


「精神が体を離れても、ここに戻ってこれるようにする目印みたいなもんだ」


「ほ~ん」


 つまりは直ぐに帰って来れるために必要なものなんだな。


 ならば話さないように持っておかなければない。


 そう思い俺は自身のポケットに仕舞い込む。


「それじゃあ、行ってこい」


「なるべく早くお願いね!」


「殴った時の感想を聞かせてね」


 各々、俺に期待を寄せて送り出してくれる。


「行ってくる!」


 その言葉を最後に、俺の意識は混濁していき、とても心地いい気分になっていった。








 ===============








『ここは……』


 直ぐに俺は意識を取り戻すと、この世界へと転生させられた時と同じ空間にいた。


 周りには何もなく、只々真っ白な空間が地平線まで続いている場所だ。


「なぜ、ここへ?」


 そして辺りを見渡すと、俺の背後にクソ女神が俺のを見下ろす形で立っていた。


『クソ女神……?』


「いいえ、超絶美女の女神様です」


『あぁ、クソ女神だ……』


「なんで!?」


 俺は現在座っていて、クソ女神を見上げている。


 何故が無性に腹が立ってしまったので、立ち上がり俺が見下ろすように形になる。


『意識が定まらないけど、来れたのか……』


「何故来れたのでしょうか……」


 クソ女神も困惑しているようだった。


 それもそうだろう。クソ女神に会いに来る物好き……もとい、神に会うという普通では考えられないことを行う者はいないだろうからな。


『そうだ、俺にはやらなきゃならないことがあったんだ……』


 ふと、俺はここに来たことを思い出した。


 意識が清明ではないため忘れてしまっていたが、ここに来たのには目的があったのだ。


「見ていましたのでわかっています」


『そうか、それじゃあ話が早い……』


 朧気になっている意識を無理やり覚醒させる。


 クソ眠い時にベッドから這い上がるような気だるさがあるがそうは言っていられない。


 いったい何のためにここに来たのか忘れてしまうところだった。


 俺はこの世界へ来た理由を再確認し、このクソ女神へと右手を振りかぶり……。



『死ねぇぇぇぇぇクソ女神ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!』


「えぇそっちぃぃぃぃぃ!?!?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ