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第百五十二話 事実確認


 結奈が俺のことが好きだと。


 まさかと、そんなことを認められるはずもなく。


 怜は嘘は言っていないだろうと顔を見ればわかるが、それでも未だに信じ切れていない。


「なぁ、あの化け物は本当に俺のことが好きなのか?」


「だからそういってるじゃん。あと本人目の前にして化け物なんて言える翔夜は凄いなって思う」


「事実じゃん」


 空中戦を余儀なくしている俺たちは、攻撃をギリギリで躱しつつ会話を試みる。


 余裕があるわけではないのだが、話さずにはいられなかった。


「あと、あれは本気を出していないよな」


「そうだね、本気出してたら僕たちもう死んでるだろうし……」


 先程から幾度も迫りくる結奈の攻撃を躱すことができているのだ。


 そのどれもが当たると大ダメージものの攻撃だが、躱せない攻撃ではない。魔法でなく拳を振りかぶっただけでも暴風が起こるほどの力を秘めているが、全力ではないのだ。


 なぜそう判断できるのか。それは、俺たち神の使徒の三人の中で結奈が一番強く、俺と怜が本気で挑んだとしても勝てないことは目に見えているからだ。


「躱しながら対策を考え———いっでぇ!」


「油断するからだよ!」


 躱せるからと思い、結奈の攻撃を弾こうとしてしまった。しかしそれがいけなかった。


 拳の軌道を逸らそうと、腕に触れた瞬間から手背に鈍痛が走ったのだ。


 即座に距離をとり、攻撃を躱し続ける。これからは魔法だろうがそれ以外だろうが、全力で躱さなければいけない。


「結奈、死なないでね! 『雷刀・紫電』」


 以前も見たことがある、その名の通り紫の雷を刀の形状にさせ、高速で焼き切る魔法。


 普通は人間に対して使うものではないが、相手は俺たち以上の化け物。適切だろう。


 そして……。


「か~ら~の~……」


 俺はそこに畳みかけるように、インベントリから以前作成した武器を取り出す。


「くらえっ!」


 取り出した武器を俺は振りかぶり、怜に合わせるように結奈に叩き付ける。


「ぐっ……」


 結奈には防がれてしまったが、多少なりともダメージを与えることができただろう。


 その証に踏ん張りの効かない空中から海上へと落ちていった。


「よし!」


「ねぇ、それ……」


「おう、俺の武器だ!」


 俺は手に持っているその得物を掲げるように持つ。


 形状は剣だが、大剣の部類に入るほどの大きさがあり、デザインなど二の次の頑丈さに重点を置いて作った代物だ。

 

「前に刀を作ったんだよ。でも俺技術がないから直ぐに曲げたり折ったりしてさ」


 転生したのならば刀を使ってみたいと思い作った。しかし知識も技術もない俺は、簡単に曲げてしまったのだ。


 折れないものを作ろうにも、元々センスがないのかうまく作れなかった。


「なら、折れない曲がらない頑丈なものを作ろうと試行錯誤したんだよ」


「結果、そうなったと……」


「その通り!」


「翔夜らしいね……」


 それは、剣と言うには、あまりにも大きすぎた。


 大きく、ぶ厚く、重く、そして、大雑把すぎた。


 それは、正に、鉄塊だった。


「ドラゴン〇しと名付けようかな!」


「死ね……!」


 武器の名を命名している最中に、結奈が現れた。


 転移してきたのだろう、俺の目の前へと唐突に現れ、そして俺の武器を攻撃した。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ俺の武器ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


「結奈の前では紙も同然だったね……」


 頑丈さだけが取り柄の俺の武器が、結奈の蹴り一発で粉々に砕け散ってしまった。


「許さねぇぞ結———って危ねぇなこの野郎!」


 俺が悲しんでいることなど露知らず、先程と同様に鋭い攻撃を仕掛けてくる。


 魔法も多用しているため、どうしても躱せないものは転移して躱している。


「翔夜、ちょっと賭けに出てみない?」


「博打は嫌だぞ」


「大丈夫、勝率一割はある!」


「それはあるとは言わない。ないと言うんだ!」


 俺の近くにやってきた怜は、結奈にも聞こえる声で話しかけてくる。


 聞こえてしまっては対策されてしまうだろうと思うが、どうせ何してもぶっつけ本番じゃなければバレるだろうし、別にいいか。


「くっそ、それで何をするんだ!?」


 疲れはしないが、精神がすり減っていっている。


 そのため、このままではジリ貧だと感じた俺は、怜の現状を打破する可能性に賭けてみることとした。



「それは、結奈へキスするんだ!」


 その発言に、俺は行動が止まってしまった。


 そして、結奈も同じく止まってしまった。


「あれ……?」




「「絶対やだ!」」




「あれぇ!?」


 結奈に攻撃されていることも忘れて、俺は怜に詰め寄るようにして俺は怜の提案を拒否した。


 奇しくも結奈も俺と同意見だった。


「俺はな、ファーストキスを捧げる相手は決まってるんだ!」


「乙女かっ!」


 誰に何と言われようとも俺は自分で決めたことは、何が何でも守り通すものでね。


 それに好きな女がいるのに他の女にキスするとか、どんだけ不純なんだよ。


「僕が友人を傷つけることを許すわけないじゃん」


「結奈意識あるじゃん! 攻撃やめてよ!」


「ない」


「あるじゃん!!!」


 結奈も結奈で、曲げられないものがあるため俺からのキスを拒否した。


「意識があっても体は言うことを聞かない」


 意識があるのならば攻撃をやめてほしいと思うが、消滅魔法を使われていないだけまだマシなのだろう。


 今も会話をしているが、怒涛の攻撃を躱しながら行っているため、結構思っていたより疲れる。


「本気を出さないようには頑張ってる」


「嘘つけっ!」


「どうにかならないの!?」 


「無理。さっさと止めて」


「無茶いうな!」


 結奈も結奈で努力しているのだろう。だから俺たちは今も無事でいるわけだし。


 だがそれでも俺たちが全力で臨まなくて済むというわけではない。


 マジで、本気で躱さないと痛いから嫌だ。


「なぁ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど?」


「……なに?」


 怜から提案された直後は攻撃は止んでいたが、直ぐに再開された。


 これは、精神に強い影響を与えることができれば、先程のように結奈は攻撃を止めてくれるのではないか。


 そう考えて俺は結奈に話しかける。


「結奈って、本当に俺のことが好きなのか?」


「ちょ……!」


「…………ッスー」


 精神面に強い刺激を与えることで何かしら好転しないかと考えての行動だ。


 幸か不幸か、攻撃は止んだ。しかし結奈は首だけを怜へ向け、そして普段笑わない結奈が不気味に笑っていた。


「言ったんだ……?」


「お願いします殺さないでください……!!!」


「……あっ、怜マジですまん!」


 言わないでくれという発言を思い出し、俺は即座に怜に謝罪する。


「翔夜ぁ……」


 恨めしそうな、今にも泣きそうな、とても複雑な表情をしていた。


 怜、マジでごめん。



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