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第百五十話 禁句


 結奈という人物は、冷静沈着で魔法技術が俺たちの中でずば抜けて優れている。


 そのため沙耶を結奈に任せて俺は海神様の封印されている水晶を破壊しクラーケンを討伐することに集中できた。


 しかし今、その結奈が相手に洗脳されているという、なんとも俺の中の常識では考えられないことが起こってしまっている。


 何故という疑問は後回しにし、俺たちは水魔法を使い全速力で結奈から逃げる。


「うっそだろ、なんだその速度!」


 海上へ出るため魚類以上の速度で進んでいるのだが、それに追いつかんばかりに結奈が迫ってきていた。


『人間じゃねぇだろ!』


「人間の枠に収まらないからな結奈は!」


 逃走を図るも、もちろん神の使徒の三人の中で一番の実力者である結奈から距離をとることがかなうはずもなく。


 どんどんその距離を縮めていき、もう数メートルに迫っていた。


『おいお前、転移出来るだろ!』


「あ、そうだった!」


 結奈が操られたという衝撃で忘れていたが、転移魔法が使えたことを思い出した。


 そう思い出して直ぐに俺は海神様に触れ、即座に海上へと転移した。


「はい海上!」


 転移した先がわからなければ、流石の結奈も直ぐには来れないだろうと踏んでいた。


『どんくらい時間稼げると思う?』


「……一分くらい?」


『それは稼いだって言わねぇよ……』


 いなくなった直後に魔力感知を行ってくるだろうと踏んでいる。そのため、もしかしたら一分もかからずに来るのではと考えている。


 それでも、少しでも時間を稼がなければ対策のしようがないのだ。


「翔夜」


「おう怜じゃねぇか」


 今更だが、俺は別荘からここへと転移した時と同じ場所に転移した。


 なのに今は怜しかいない。


「沙耶は?」


「彼女は使い魔が僕の別荘に連れて行ったよ」


「そうか、ひとまず安心だな」


 沙耶がここにいては本当に全力で戦うことができず、守りながらの戦いになってしまいかねない。


 それこそ件の男の思惑通りになってしまう。


『おい、説明してもらうぞ?』


「何をでしょうか?」


『あの女のことだ』


 結奈のことを海神様は言っているのだろう。俺もそれは気になっていた。


「説明はあとでしますので、海神様も別荘へ避難してください」


『あ? 俺の実力舐めてんの?』


 その発言に海神様は怒りを露にしたが、それでも怜は冷静に且つ焦りを感じる声色で説得する。


「恐らく翔夜と海神様も会ったと思いますが、あの男からあなたに力がないことはわかっています。付け加えるならエリーの体から離れられないのもわかっています」


『ぐっ……!』


「ですので、避難してください」


『……チッ、わかったよ』


 怜の説得に渋々ながらも承諾した。


 本来の力を使えていれば協力を仰いだかもしれない。だが今は正直に言って足手まといなのだ。


 本人もそれがわかっているからそこ、戦わないという選択をしたのだろう。


『だが、ただで避難なんてしねぇぞ?』


 ニヤリと笑い、何かを思いついたように話す。


『お前らの別荘の周辺にいる奴ら呼んでやるよ』


「彼らがいることに気が付いていらしたんですね」


『そりゃあな』


 周辺にいる奴らとは、シスト隊員のことだろう。


 確かに彼らのことを気にせずに来てしまったから、今は俺たちがどこにいるのかすらわかっていないはずだ。


 今回は事が事なだけにシスト隊員に助力してもらえるのはありがたい。


『生憎、エレノアの体を使ってまで戦える相手じゃねぇからな、俺は大人しく待ってるよ。だから、死ぬんじゃねぇぞ』


「あざっす」


 海神様は拳を突き出し、俺もそれに応える。


「じゃあ、僕が海神様を送ってくるから、翔夜はなんとか死なないでね」


「……いや、その逃がす時間はないかもな」


 怜が転移魔法で連れていこうとしたが、少し遅かった。


「やっぱ来るの速いなぁ……」


 結奈が海から水飛沫を上げて飛び出してきた。


「俺たちが足止めするから、自力で逃げてくれ!」


『言われなくてもそうする』


 そう言って、海神様は海へと潜り俺たちから離れていく。


 エリーの体を借りているといっても、流石は海神様といったところか。


 神の使徒である俺に追いついて逃げていた時にも思ったが、普通に考えればあり得ない速度で泳いでいる。


「なぁ、何か話してくれないのか?」


 今すぐに攻撃を仕掛けてくる様子はない。


 そのため俺は会話を試みてみた。


「話してくれそうにないね」


「コミュニケーション取れない相手は面倒だな」


「しかも相手が相手だしね……」


 だが会話どころか視線さえも合わせてくれない。


 さてどうしたものかと悩んでいると、唐突に結奈は消えた。


「なっ、何処だ!?」


「翔夜、後ろ!」


「あいつ、海神様が狙いか!」


 結奈が向かった先は海神様だった。


 結奈の追っている速度を鑑みるに、これでは時期に追いつかれてしまうことは容易に想像できた。


「どうするの!? 直ぐに追いつかれるよ!」


 俺たちが結奈に追いつくには、圧倒的に実力が足りていない。そして転移したところでその直後から逃げられてしまう。


 魔法を使って攻撃しても、海神様を狙っている結奈には見向きもされないだろう。


 本当にどうするかと焦燥感の中考えたが、一つだけ結奈をおびき寄せる方法が存在した。


「なぁ、一つだけ……もしかしたらこっちに呼べる方法があるかもしれない」


「じゃあ早くやって!」


 怜が本当に焦り散らしており、早くしろと言わんばかりに怒声を浴びせてくる。


 普段見ることのない様子に気圧されつつも、俺は覚悟を決めて空気を目一杯吸い込む。


「すぅ……」


 空気を目一杯吸い終え、そして腹の底から叫ぶ。


「このド貧乳ゥゥゥ!!!!!!!!!」










「あ?」










「よし今度は思い切り逃げるぞ!」


「なんでそんなこと言っちゃったの!?」


 対象は海神様から俺へと移り、当初の目的は達成した。


 だが今度は怜が先程とは違った焦りを見せていた。


「仕方ないだろ! これしか思いつかなかったんだから!」


「あーもーすんごい形相でこっち来てるじゃん!」


「俺、この戦いが終わったら、告白するんだ……」


「ちょ、マジの死亡フラグやめてくれない!?」


 結奈の顔を見ると、今まで無表情だったのが嘘かと思うほど般若の形相だった。


「取り敢えず何をしても被害のないところに行くぞ!」


「どこ!?」


「上空!」


 恐らく感情の揺れ動くままに行動をするのではないかと予想し、魔法を発動しても被害を最小限に抑える場所、即ち上空へと逃げることとした。


「転移して逃げるぞ!」


「ああもう、わかった!」


 もうヤケクソに頷き、俺と怜は転移する準備を始める。


「っと、その前に……」


 ふと、思い出したことを俺は結奈に向かって行った。


「『カタストロフィ』」


 重力魔法と消滅魔法を組み合わせた、俺が編み出した魔法。


 本来は巨大な魔物や強大な敵に使うために俺が作ったモノだ。それを俺は仲間である結奈に行った。


「うわぁ……」


「相手は人間のようで人間じゃねぇ! あれくらいで死ぬわけないんだからいいんだよ!」


「足止めに山消し飛ばす魔法使うって……」


 俺たちは結奈の生死を確認することなく、上空へと転移した。



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