第十五話 使用禁止
「ちょっと生理的に無理なんで、すぐに消えてもらうぞ!」
そういうと、俺は一軒家がスッポリ入りそうなくらい大きい火の玉を出した。俺が生成したものだが、これはもう見た感じ小さい太陽みたいだった。
これを、あのカサカサ動く奴らの元へと急いで叩きつけた。それはもう豪快に、あいつらが飛び散ることのないように、触れた瞬間に灰になるように叩きつけた。
「なんだと!?僕の使い魔を一瞬で……!?」
「出来ればもうちょっと可愛らしいものを召喚してほしかった……」
だって俺の知っている使い魔は、未桜と鈴と沙耶の使い魔の妖精だけだからな。使い魔は可愛いものだと思っていたよ。それなのに、奴だったなんて……。
「なら、これならどうだ!これなら躱すことも燃やすことも出来まい!」
「でかいなぁ……」
先程俺が出した小さな太陽よりも、少々小ぶりな火の玉を出した。確かにこれは大きいだろうが、それでも躱すことは容易だ。だが、それだと面白くないので風の魔法で応戦してみることにした。
こちらに飛んできた炎に向かって、俺は手加減をした風魔法をぶつけた。すると、すぐに炎は消し飛んでしまった。なんか、眼鏡君の魔法って、威力が弱いな……。
普通に風魔法で応戦し炎を消し飛ばしたら、なんと眼鏡君がすぐそこにまで近づいてきていた。
「ここからなら防ぐことは出来ないだろう!」
そういって俺に近づいてきていた眼鏡君は、手から火を出して俺に攻撃してきた。だが眼鏡君よ、奇襲するなら言葉に出しちゃいけないと思うんだが……。
それに俺、魔法発動と同時に走り出している君が見えたから、絶対何かしてくるって事前にわかっていたんだよ。
「吹っ飛べ」
そういって俺は風魔法を先程よりも出来るだけ加減をして、眼鏡君を後方へと吹っ飛ばした。
もちろん、危ないと思ったから火はついでに消しておいたぞ!
吹っ飛ばして打ち所が悪く骨折でもしたら嫌だから、一応しっかりと落下地点に空気のクッションを置いておいた。
「くそっ、あの攻撃でもダメなのか!?」
「いや、もう火の玉とか飽きたし、応用とかいいから他のものを頼むわ」
俺はより多くの魔法を見て、その平均を知ることに徹している。間違ってぶっ飛んだことをしないようにしないといけないからな。学生の内から変なのに目を付けられたくない。
「……ふ、ふはははははは!!」
「おいおい、ついにイカれちまったか?」
ついに気が狂ったのか、いきなり高笑いをし始めた。いったいどうしたんだ?
「僕はここまで貴様に侮辱されるなんて思っていなかったよ」
「俺は別に侮辱した覚えはないんだがな?」
こいつは気が短いうえに器の小さい男だな。もう少しデカい男にならないと、女の子にもてないぞー?まぁ、俺が言っても説得力ないけど……。
「貴様には、僕の奥義を使って消し炭にしてやる……!!」
「消し炭にしたらまずいだろう」
ついに奥義とか言い出しちゃったよ!中二病だと言いたいところだが、こっちの世界では本当に奥義があるかもしれないから、何とも言えないなー。
というか、やっぱこいつ俺のことを殺したいんだろうな。化けの皮がはがれたのは向こうだったわけだ!
「僕の奥義……『黒炎弾』をな!!」
「ちょ、ちょっと細沼君ストップストップ!そんなのここで使っちゃだめだよ!」
「え、そんなにマズいもんなのか?」
その魔法名を聞くや否や、先生が魔法の発動をやめる様に言ってきた。ギャラリーに目を向けてみると、みんなが焦った様子で何かを言っていた。冷静な人物と言ったら、怜……と見知らぬもう一人の女子生徒だった。
なんで焦ってないんだあの子?怜は同じ神の使徒だからわかるが、あの子は違うだろう。う~ん、まぁ、世の中にはいろんな人がいるし、いっか!それよりも模擬戦に集中しないとな!
「はっはっは!貴様は僕を侮辱した事を後悔して消し炭になるといい!!くらえ!!」
「いや、あのね、消し炭にしたらダメでしょ」
先生の制止を聞かずに黒炎弾を放ってきた。こいつは俺をそんなに殺したいのか?犯罪だということを理解していないだろうか?ルールを守って楽しく模擬戦をしてくれよ。
あと先生、審判ならしっかりこの眼鏡君を止めてください!なに静観しているんだよ!
「はぁ……」
それにしても、この攻撃を食らったらマズいみたいだし、万が一に備えて自分の周りの空間を断絶しておこう。
「よっ」
俺が右手を前に突き出して、俺の周りの空間を断絶した。
そしてこちらに向かって真っすぐに飛んできた黒い炎は、空間を断絶しているところに当たると、すぐに霧散して消えてしまった。
「な、なにぃぃぃぃ!?!?」
「いやー、黒いだけでさっきのとあんまり変わらなかったな、あの火の玉」
あれがどのくらいすごいのかはわからなかったが、すぐに霧散して消えてしまったことから、それほどすごいものでもなかったと思う。奥義と言う割には拍子抜けだな!
「あ、ありえない。あの魔法を食らって無傷だなんて……」
「もう終わりなのか?もっと魔法を使ってくれよ」
俺はもっといろんな魔法が見たいんだ。早く次の魔法を使ってくれないかな?
「くっ、もう、魔力が……」
「そこまで!細沼君の反則負けにより、勝者、纐纈君!」
片膝をついて疲弊しきっている眼鏡君を傍らに、先生は模擬戦の終了を言い渡した。
「え、あれ反則だったんだ」
俺は全然そんなことないものだと思っていたから、拍子抜けしてしまった。しっかり魔法の戦いをした実感がなかったから、先生に聞いてみることにした。
「あのー先生、俺ほとんど何もしていないんですが、これでいいんですか?」
「いや、細沼君の魔法を防ぐときに風魔法を使っていたし、使い魔を攻撃するときに炎を生み出していたから、一応模擬戦をしたことになるよ」
「そうですか、それはどうも……」
使っていたのは風魔法と火魔法だけじゃないんだけど、めんどくさいから黙っておこう。
「それに、彼は模擬戦で禁止されている魔法を使ったから、これは職員会議で議論されることだね」
「はぁ、そうですか……」
そういって俺はこの場を後にして、沙耶と怜がいる場所に向かった。彼ってもしかしなくても馬鹿なのだろうか?
「では次からは、ペアの出席番号が若い順にやりましょうか!」
先生がギャラリーに向かっていっていた。そういえば眼鏡君はもう闘技場にはいなくなっていた。疲弊しきっていたはずなのに、どこに行ってしまったんだろう?
俺と同じく、早くトイレに行きたかったのだろうか?
「う~ん、あれって黒いだけの普通の火の玉だったよな?なんで禁止されているんだ?」
口に出てしまったが、本当にそれが疑問だったのだ。直に食らったわけではないのだが、熱も感じなかったし、威力もなかったんだ。
わからんことは、沙耶に聞いてみることにしようか!
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「あ、翔夜、お疲れ~。よく黒炎弾を受けて平気でいられたね?」
「翔夜、よく相手を殺さなかったね!」
「あんがと。俺は魔法を見ることに徹していたから、ほとんど攻撃せずにすんだよ。どの魔法も大したことなかったし、問題なかったわ」
俺はトイレに行った後に、二人がいる場所の席に座った。戦っているときにどこにいるかは見ていたから、迷わずに来れた。因みに、トイレに眼鏡君はいなかった。
「いや、普通は黒炎弾なんて受けたら、無傷じゃすまないんだけど……」
「そうだ、黒炎弾ってなんで禁止されているんだ?あれってただの黒いだけの火の玉じゃないのか?」
黒炎弾をなんで禁止にしているのかを沙耶に聞いた。
「そう思えるのは翔夜だけだよ……」
沙耶に飽きられてしまった。え、俺なんか変なこと言ったかな?
「翔夜、あの魔法はね、相手を灰に変えるまで消えることのない炎なんだよ」
「……は?」
沙耶の口からとんでもない言葉が聞こえた。
「何それ怖っ!天〇かよっ!そんなもんを学生同士の模擬戦に使いやがったのか!?あいつやっぱ馬鹿だろ!」
あの眼鏡やっぱあほだろ!?そんなとんでもないものをぶっ放しやがったのか!あそこで空間を断絶していて本当に助かったぁ!よくやったぞ、俺!
「そうだよ。だから、なんで翔夜が〇照のような魔法をくらって平気でいるかわからないんだよ」
怜も俺があの攻撃をどうやって防いだのかわからないでいた。しっかりしろよ、俺たちはたいていのことは何でもできる神の使徒だぞ?
「なんでって言われても、空間を断絶しておけば俺に魔法は当たらないよなって思って、やってみたら出来た」
「え、空間を断絶!?そんなことできるの!?」
沙耶に今日一番の驚きを与えてしまった。なんでそんなに驚いているんだ?沙耶は空間魔法は使えるし、そんなに驚くことでもないだろうに。
「実際にできたからな、誰でも出来るもんじゃないのか?」
「そんなことできるなんて聞いたことないし、少なくとも、私は出来ないよ?」
「マジか……。これからはあまり使うことは控えよう」
「そうしたほうがいいかもね」
もうみんなの普通がわかりません!何が普通なんだ!?誰かこの世界での普通を教えてくれよ!
「あ、そうだ。あいつが言っていたんだが、杖ってみんな使うもんなのか?」
このことも気になっていたことだから、ついでに聞いてしまおう。みんな普通はハ〇ーポッターみたいに杖を振るうものなのか?
「あーそれね。使っている人はいるけど、あんまり推奨していないんだよね」
「なんでだ?」
「それは、杖を使えば確かに早く魔法を発動できるんだけど、それに頼っちゃう人が出てきて、杖が壊れたときにうまく魔法を発動できなくて亡くなったって言うことがあったんだ。だから、もしも杖が壊れてしまった時に備えてあんまり使わないほうがいいんだよ」
「なるほどな~」
杖ってそういう役目があったのか。どんな便利なものにも、メリットとデメリットが存在するんだな。
「神の使徒には必要ないようなものだね」
「寧ろ邪魔だな」
俺たちは沙耶に聞こえないように今後杖は使わないようにしようと決めた。杖がなくとも、一騎当千の実力があるから問題はないな。
「次、剱持君と東雲さん!」
「あ、呼ばれたね。それじゃあ行ってくるね」
そういってこの場を後にしようとする沙耶と怜を引き留めた。
「ちょっと待て。お前らが戦うのか?」
「そうだよ?だって他に人がいなかったし、それに剱持君って翔夜と同じくらいの魔力量を持っているから、なんだか強そうだしね!」
「なんでそんなに楽しそうなんだよ……」
おいおい、相手は神の使徒だぞ?なんでその組み合わせになったんだよ。二人は見た目がいいんだし、少し探せばいたんじゃないか?
「おい、間違っても沙耶を傷つけんじゃねぇぞ?」
ドスの利いた声で怜に忠告というか警告をした。俺の命より大切な沙耶を傷つけたら、どうなるかわかっているんだろうな?
「わかってるよ。間違って傷つけちゃったら、翔夜に殺されちゃうからね」
「わかってるじゃねぇか」
話し終わると、二人は闘技場の中へと向かっていった。まぁ、もし怜が沙耶に傷でもつけるような攻撃をしたら、俺がここから魔法を使って防いでやればいいか。そして人目のつかないところで後ろから刺してやる!
過保護と言ってもいいくらいに心配性なのは自覚しているが、沙耶って意外とアグレッシブなところがあるから不安なんだよ!
何事もなくいい戦いをすることを祈って待つとしよう。