第百四十七話 訪問破壊
海神様という、俺の未桜と同等の最上位種に位置する力を有した存在。
そいつが、エリーの使い魔だった。
その強大すぎる力を有しているためかはわからないが、少なくとも海神様の影響を受けて水魔法しか使えなくなってしまったエリー。
あまり深くは追及できないが、問題を抱えていることは事実であるため、今後解決出来ていけたらいいと考えている。
そしてそんな出来事があった翌日、俺はみんなとともに海神様に言われた通り再びやってきた。
夜の時とは違い、幽霊の出るような雰囲気はなく、沙耶も平常でいることができていた。
あたりを見渡すと、浜辺の方に少年が海を見て座っているのが目に入ってきた。
「やってきましたよ~」
そう声をかけて俺は近づくと、海神様は不機嫌な様子でこちらを見た。
「遅ぇぞこの野郎! 今何時だと思っていやがる!」
そう言って俺に突っかかってきた。
「いや、何時とか言われてなかったし……」
「だからって昼に来る奴があるかぁ!」
現在、昼の十二時を過ぎたころ。
昨日のことが衝撃的過ぎて、俺はなかなか寝付けなかったのだ。
そのため必然的に起きる時間も遅くなってしまい、今の時間になったのだ。
「仕方がないだろ、こっちにも事情ってもんがあるんだから」
「朝から待ってた俺の気にもなれぇ!」
「知らねぇよ……」
朝からずっと浜辺で待っていたのかよ。ごめんて。
「それで、要件ってなんすか?」
話をそらすためだなんてことはないが、俺は昨日から気になっていたことを尋ねた。
決して面倒だなんて思ってはいない。
「あぁそうだな」
そういって先程の怒りを鎮め、そしてエリーの前へと向かった。
「だがその説明をする前に……」
海神様の手がエリーの腹部に触れ、その直後海神様の姿が消え失せた。
『エレノアの体を借りてから説明する』
「なっ!?」
ここにいるのは全員が魔物との戦いを経験した者たちだ。全員いつでも魔法を発動できるようにしている。
エリーの体を乗っ取り、海神様が何をしようとしているのかと、少々怒気を強めて尋ねる。
「何の真似だ」
『待て待て待て待て、敵意を向けるな』
しかし海神様は俺たちの意に反して、慌てて弁解をする。
『別にエレノアに何かしようとは思ってねぇよ。ただ俺がある程度力を使うためには他人の体を借りる必要があったんだよ』
その発言を、嘘だとは思わない。
なぜなら、昨日から思っていたことなのだが、最上位種にしては魔力の反応が小さすぎるのだ。未桜と比較して、霞んでしまうほどの力しか有していなかった。
だから俺はエリーの体を借りているという発言を信じることにした。
「……エリーに手を出したら殺すから」
『そんなことしねぇって』
だがまぁ、結奈は警戒心むき出しでエリーの体を借りている海神様をにらんでいるが。
「それで?」
『ん? あぁそうだったな』
話が逸れてしまったが、俺たちをここへ呼んだ理由は何なのか促す。
『これから海底に向かってもらう』
「海底?」
行けなくはないが、どうして海底へと向かうのだろうか。
『ここから東に七百キロほど行くんだけどな』
「遠いって」
『お前転移魔法使えたろ? だったら連れていけるだろ』
「なんで知ってんだよ……」
転移魔法は確かに考えたが、しかしそれを知っているのはどうしてだ。
神様だからといってしまえばそれまでだが。エリー経由で知ったと納得しておこう。
「行くところ見ているからちょっと待って」
行く場所を知らなければ俺は転移することができない。そのため俺は千里眼で大海原を見ていた。
ふと思ったのだが、これはシスト隊員へと報告したほうがいいのだろうか。
いや、俺たちは神の使徒が三人もいる。過信せず、命大事に逃げればいいか。
「じゃあ、行くぞ」
千里眼を発動しているが周りは海しかないため、指標になるものがない。
そのため、直感で跳んだ。
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「このあたりか?」
跳んだ先で風魔法で全員を浮かせる。
結奈や怜は自力で飛んでいるが、直ぐに発動できなかった沙耶と、水魔法以外使えないエリー改め海神様は俺が浮かせている。
『もう少し、あっちだな』
海神様が指定するその方角まで飛んでいく。
ある程度行くと、海神様がストップをかける。
『よし、このまま下に行くぞ』
そういうや否や、直下の海水がまるで俺たちを避けていき、数メートルほどの穴が開いた。
「モーゼみたいだな」
「直下型のモーゼだね」
その空いた穴をゆっくりと降りていき、途中で明かりが届かなくなってきたため光魔法を俺と怜が発動する。
数分ほど降りていくと、海底に水晶のようなものが祀られていた。
「なんだあれ?」
『あれが今回の俺からのお願いだ』
地面へと漸く足が付き、そして俺たちは水晶へと近づく。
「この水晶を破壊してくれ」
「ん? 自分で破壊することはできないのか?」
ここまで連れてきて、ただこの水晶を破壊してくれはおかしいだろう。
『これは普通の水晶じゃない。並大抵では破壊できないんだ』
「ほう」
『さらに俺は体を乗っ取らないと力を出せない。んで今、ここの穴を開けているだけで精いっぱいなんだ』
「まぁわかった」
その発言に納得し、俺は改めて水晶を見る。
だがそれを見ていると唐突に沙耶が話しかけてくる。
「翔夜……」
「なんだ?」
裾をつかんできたため、俺は意識を沙耶へと移す。
どうでもいいかもしれないが、最近妙に沙耶からの接近が多い気がする。気のせいだと思うようにしよう。
興奮しそうになるから。
「あっちの方から何か来る……」
沙耶の指さす方向へと目をやると、確かに何かいる。
魔力感知にも引っ掛かるため、恐らく海の魔物がいるのだろう。
「何か来ても、僕たちなら勝てるよ」
「そうだな」
結奈も元気づけるために発言し、俺もそれに同意する。
ここは海底である。普通の人ならば恐怖を感じていてもおかしなことはない。
寧ろ平常でいる俺たちの方がおかしいのだ。
早く終わらせて陸に行こう。
『チッ、クラーケンじゃねぇかよ』
「えっ、クラーケンってあの?」
『どのクラーケンかわからねぇが、馬鹿でけぇイカだ』
なんと空想上の生き物であるクラーケンがいるらしい。
いや竜もいるのだから、なにもおかしなことはないか。
『アイツがこの水晶を守っていやがるんだ』
「じゃあ、ぶっ殺せばいいな」
『簡単に言うが、相手は一匹じゃねぇぞ?』
「マジで?」
そうはいうが、魔力感知には一匹しか反応がない。
どういうことだと、そう尋ねる前に海神様は説明してくれた。
『正確には、こいつを破壊すると数百単位で出てくる』
「……は?」
「じゃあ破壊しないほうがいいね」
結奈の言う通り、これは破壊しないほうがいいだろう。
そんな面倒なことに俺たちを巻き込まないでほしいものだ。
『そう言わないでくれ! エレノアと俺を助けると思って!』
「……はぁ、わかったよ」
恐らくは水魔法しか使えないという状況を変えるためなのだろうと、そう無理やり納得して俺は破壊することにした。
「じゃあ全員海上にいてくれ、俺が破壊するから」
「翔夜、大丈夫なの?」
「まぁ何とかなるだろ。だめだったら海上に逃げればいいわけだし」
「無茶しないでね……」
「おう!」
沙耶からの心配を受けて、俺はやる気を出した。
沙耶のためならば俺はクラーケンにすらも負けはしないのだ。
「さて、それじゃあ破壊するか」
手に持って、そしてぶん投げようとする。
「っと、その前に……」
こちらへと接近してくるクラーケンを目視でとらえ、俺は腕を払う。
そして生み出した風で、クラーケンを真っ二つにした。
「先に退場してもらわないとな」
そして、俺は水晶を投げ飛ばし、破壊した。
「さてさて、来いよクラーケンども!」