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第百四十三話 標的


 先生方の声がした後、観月先生が結奈の餌食になったような声も聞こえ、俺たち男性陣は早々に風呂場を後にした。


 少々談笑をし、あとはもう寝るだけという段階になったタイミングで、俺と怜が雪先生に呼ばれた。


 とある個室に移動した先には、観月先生も控えておりこれから四人での話し合いがあるようだった。


 促されて座り、俺たち二人は茶をすすって話を促した。


「それで、要件は何ですか?」


「呼んだからには、なにかあるんだろう?」


「要件? んな大層なもんじゃねぇよ。ただ遊ぶために呼んだんだから」


「帰る」


 話は何かと尋ねたが、ただ遊びたいだけだと言われ、俺はすぐさま立ち上がる。


「待ってよ翔夜。確かにそれもあるんでしょうけど、外にシストの隊員たちがいるんだから何かあると思うんだ?」


「……それもそうか」


 俺は帰ろうとしたが、怜は外にいるシスト隊員がいることで、かなり重要なことがあるのだと訴えかけてくる。


 俺もそれは気にはなっていたことだったため、仕方がなく腰を下ろした。


「……んだよ、気が付いていたのか」


「流石だね、しかも二人とも気づいていたなんて……」


 雪先生は残念そうに、そして観月先生は驚いたように反応を示す。


「どうしてシスト隊員がいるのでしょうか?」


「教えられるわけが———」


「そりゃあ、また翔夜を狙っている奴がいるからだよ」


「えぇ教えちゃっていいんですか!?」


 怜が単刀直入に尋ねると、観月先生は誤魔化そうとした。


 だが雪先生は隠すつもりがなかったようで、すんなり話してくれた。


「知らないで何かされるより、知っていた方がこいつも自衛できるだろ」


「そ、そうかもしれませんけど……」


 俺が狙われているという事実に、俺たちは驚くことはなかった。


 しかし雪先生が俺のことを意外と高く評価してくれていたことに少々驚いた。


 未だに学生だと馬鹿にされているものとばかり思っていたからな。


「それで、俺を狙っている奴っていうのは?」


「お前の方が知っているんじゃないのか?」


 俺の問いかけに、同じく質問で返してきた。


 俺の方が知っているということは、恐らく一人しかいないだろう。


 丁度直近クソ女神が俺に注意喚起をしてくれた、件の空中要塞で俺に敵対した人物のことだ。


「以前翔夜にちょっかいをかけてきたそいつが、また来るらしいんだわ」


「なんで俺に……」


 確かに俺はアポストロ教という宗教団体に喧嘩を売ってしまってはいるが、ここまで目の敵にされるほどのことをした覚えはない……ことはないが、それでも目の前のこいつほどじゃないだろう。


「そいつらが言うには、翔夜は最も神に近い存在なんだと」


「……そう、なのか?」


 意味が分からず、思わず周りに問いかけてしまった。


 俺が最も神に近しい存在とはこれ如何に。


「私も聞いたとき、何を言っているかわかりませんでした」


「翔夜が神とか、笑うわ」


「笑ってんじゃねぇよ!」


 笑うと言いつつ、雪先生の目は笑っていなかったのは、俺が神の使徒ということを知っているためだろう。


 神の使徒という存在は、確かに神と密接な関係といっていいだろう。


 しかしだ、仮に俺が最も神に近い存在だったとして、その男は俺が神の使徒ということを知っていることになる。


「考えたが、さっぱりわからん」


「纐纈君は正真正銘人間でしょう。少々例外的なことはありますが……」


「例外的なこと……」


 転移魔法のことをいっているのだろうが、観月先生からも人間離れしているということを言外に言われたことで少々落ち込む。


 それだけ常人ならできないことをしている俺がおかしいことは重々承知しているし観月先生に言われるのも仕方がないが、横で笑っている雪先生はマジでぶん殴りたい。


 笑ってんじゃねぇよ、あんたも十分おかしいところにいるだろうが。


「まぁとにかくだ、敵はお前の体が目当てだろう。何をしてくるかわからんから十分注意しろ」


「了解」


 俺は神の使徒だ。


 大抵の敵が来ても対処できるし、魔物を放り込まれても消し去れるし、何なら転移して逃げ出すことも出来る。


 問題ないだろう。


「童貞卒業する前に死ぬんじゃねぇぞ?」


「下ネタを生徒に言うんじゃねぇよクソバ———」


「それ以上言ったら、アタシがお前のナニを切り落とすぞ?」


「卒業する前に切り落とすんじゃねぇ!」


「というか師匠、生徒を脅迫しないでください!」


 また、童貞のまま死ぬのは困る。


 今世こそは、脱童貞を成して幸せな家庭を築くのだ。


 あと切り落とすという発言はマジでビビるので今後一切やめていただきたい。


「なんだ、アタシに奪われたかったのか~?」


 そう言ってニヤニヤ俺を見つめてくる。


 確かに雪先生は、はたから見れば美人の部類に入り人目を惹く見た目をしている。


 だが、沙耶以外の女性に魅力を感じない俺からしたら、失礼であるがおばさんである。


「っは、誰が嬉しくてお前みたいな……見目麗しい女性に童貞を奪われるのは幸甚の至りであるのですが、しかし私には心に決めた人がいるため非常に残念なことではあるのですが今回は辞退させていただきます!」


「そっかぁそこまで言うなら仕方ねぇな~」


「師匠、ホント生徒相手に何しているんですか……」


 いつも通り罵倒するつもりだったんだが、なんの変哲もない、ただの裁ちばさみを見せられたんだ。


 たったそれだけで何をされるのか未来が見えてしまい、俺は局部を抑えて弁明した。


 怖かったんだもん。


「兎に角、お前は危機感がいまいち足りない」


「一応私たちも監視しているため、怪しい人物が近づく前に対処するつもりです」


「だがまぁ、それでも何か仕掛けてきたらしっかりと対処しろよ?」


「時と場合によるが、ぶっ殺せばいいのか?」


「なんで平和的に解決しようとしないんですか!」


 命を狙ってきているのである。


 武力行使をするのが当然だろう。


「じゃあ伝えることは伝えたからな」


「私たちもここに泊まるので、何か問題があればすぐに伝えてください」


「わかりました」


「了解っす」


 そう言って俺たちは解散した。


 各々自分たちの部屋へと戻っていき、だが雪先生は俺の方へ向き直る。


「あ、そうだそうだ!」


「なんだよ」


 唐突に雪先生は俺の方に腕をまわし、にやついた表情で小声で話しかける。


「東雲のおっぱ———」


「やめろぉぉぉぉぉ!!!」


 俺にはその発言だけで、先程の風呂場での出来事が鮮明に思い出され、鼻血が流れ出てしまいかねない。


「お前って、童貞で初心だとつくづく感じるよ」


「ほっとけ!」


 呆れた様子で雪先生は独り言のようにこぼす。


 だが俺は、今まで本気で恋を経験したことがないんだ。


 こうなってしまうことも仕方がないだろう。


「翔夜、ガンバ」


「そんな遠い目をするな!」



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