第十四話 模擬戦開幕
眼鏡君が去った後に俺は、魔力測定が終わるまで沙耶に模擬戦について教えてもらった。
模擬戦とは、主に一対一で行われる魔法を使った対決だ。ルールもいたって簡単で、相手を戦闘不能の状態にするか、負けを認めさせればいいらしい。ただし、相手を死に至らしめる魔法やその類のものは禁止されている。
よく考えてみれば、なんで魔力測定を行うだけなのに、こんなに大きな闘技場にいるのかと疑問に思っていたが、これから魔法を使って戦うんだから確かにこれくらいは必要だよな。
俺は沙耶から説明を聞いたときに、これは勝ったなと思ったよ。なんにも落とし穴らしい落とし穴もなかったし、神の使徒である俺が負ける要素は何処にもないな。
だが、この模擬戦は世界共通で行われてきたことなので、当然ケガ人も出たことがあるらしい。ついかっとなって禁止されている魔法を使ってしまったり、魔力量を間違えて多く込めてしまって大爆発を起こしてしまったりしたそうだ。
俺、後者の奴の二の舞になりそうで怖いよ。あのクソ女神も地球を破壊できたりするって言ってたしな、力加減を間違えないようにしないとな。
いやまぁ、そんなことにはならないように今まで練習してきたし、魔力をどれだけ込めればどのくらいの威力が出るとかなんとなくで分かるし、大丈夫だとは思うが一応気を付けよう。
「翔夜、彼を模擬戦で殺さないでね」
「出来るだけ善処する」
怜も模擬戦について改めて聞いたせいか不安になってしまったらしく、俺に忠告をしてきた。確かにあいつはウザかったし、試合でも勝つ気で行くけど、流石に殺してしまうほど憎いわけではない。なので、頑張って殺さないように努めよう!
「いや、先生が審判をするから、そんな事態にはならないと思うけど……」
沙耶は俺たちが危惧していることは大丈夫だと思っているようだ。だがな、俺らは神の使徒なんだよ。下手したらこの星を破壊できてしまうんだ、そりゃ人一倍心配するって。
「さて、これで全員終わったので、これから先程説明した模擬戦を行いたいと思います」
もう終わったのか、先生が水晶を片付け終わっていた。いつの間に片づけたのやら……。
「そこで、これから戦う相手を見つけてください。その相手と自己紹介をして仲を深めてくださいねー」
先生、改めて説明してくれないんですね。事前に沙耶に聞いておいてホントによかったよ。
というか先生よ、その誰かとペアになってくださいね~という禁断のセリフを言う類の人だったんだな……。
俺のような誰とも話せないやつは、最後に余った人と組まされるんだよ。いや、話せないというか、話そうとするとみんな離れていくんだが……。
先生は自己紹介をして仲良くなってくれと言っていたが、相手はもう俺のことをどうやって倒すかを考えている奴だ。仲良くなんてなれるとは思えない。それに、俺もああいうプライドの高い奴とは気が合わないと思っているから、こっちから仲良くしたいとは思わない。
「やぁ、さっきはどうも。せいぜいすぐに負けないように頑張ってくれ」
「どーも。お前も失禁しないように頑張れよ?」
お互いに相手を貶しあって、模擬戦を始める前の挨拶をした。いやでも、こんな挨拶をして俺は少し後悔してしまった。
だってなんだかこういうのって少々大人げなかったかなと思うんだ。中身は成人している大学生なわけなんだから、もう少し大人な対応を心掛けるべきだな!
「くっ……。ふんっ!」
それっきり俺の方が見ずに、先生が言葉を発するのを待っているようだった。
こいつはいったい何がしたいんだ?かまってちゃんなのか?
「さて、戦う相手は決まりましたね。では、まずは誰から実演してもらいましょうかね?」
「はい、先生。僕たちが最初にやります!」
「え?」
俺は戦う前に、クラスの、というか一般人の平均を知っておきたかったのだが、こいつは早く俺と戦いたいらしい。なんでそうやる気に満ち溢れているんだよ……。
「そうですか、わかりました。では、最初は細沼君と纐纈君にやってもらいましょう。ほかの生徒は、私にペアを報告してからギャラリーのほうに移動してください」
そういうと、他の生徒たちは、二階にあるギャラリーに向かっていった。先生、俺の意見は聞かないんですか?俺は一番になんて戦いたくはありませんよ?
「翔夜、結構マジで殺さないようにね?」
「わかってるって」
よほど心配なのか、怜がギャラリーに行く前に俺のもとに来て忠告してきた。そんなに心配しなくたって、俺はちゃんと力加減をするから大丈夫だよ。
「翔夜、絶対ケガをしないようにね?」
「おう、ケガをしないで勝ってやるよ」
沙耶は勝ち負けよりも、俺の体を心配してくれた。なんて心の優しい子なんだ……!相手を傷つけてでも俺はケガをしないようにするぜ!
「おい、始める前から楽しくお話とは、のんきなもんだな?負けると決まっていると気が楽なのか?」
「なんだ、羨ましかったのか?」
こちらをあざ笑うかのように言ってくるから、もしかしたら嫉妬しているのかと思ってしまった。
そういえばこいつは誰とも話していなかったな。もしかして友達になりたいのだろうか?
「違う!見てろよ、絶対僕と戦ったことを後悔させてやる」
「いや、後悔するも何も、お前から誘ったんじゃん……」
こいつは自分の発言を少しも覚えていないのだろうか……?健忘症になっているのではないか?
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俺たちは闘技場の真ん中あたりにある所定の位置につき、先生の合図を待った。
あ、そうだ!この試合で俺一歩も動かないで倒して、眼鏡君を馬鹿にしてやろうかな!
「では双方とも、準備は出来ましたか?」
「はい」
「いつでもいいですよー」
いったい何を準備すればよかったのだろうか?あ、トイレに行き忘れたな。行っておけばよかった……。
「おいお前、杖はどうした?」
「え、杖って何?」
そういえば、眼鏡君と先生は杖を構えているな。なんだ、ハリー〇ッターか!?〇リーポッターなのか!?なんで杖をさも当たり前のように持っているんだよ!俺持ってないぞ!?というか、俺の周りにいた人物たちはみんな持っていなかったぞ!?
「お前は僕を馬鹿にしているのか!?手加減のつもりか!?本気で来いよ!」
「そう言われても、俺杖とか持ってないし……」
いや全然馬鹿にしているつもりはないんだ!寧ろ俺が馬鹿にされているんじゃないかとさえ思っている!後で沙耶先生に杖について聞いてみようか!
「……ふっ、僕をここまでコケにするとは、本当に死にたいらしいな?」
「別にコケにしたつもりはないんだが……、まぁ、いっか」
「細沼くーん、殺しはだめですよー?」
先生の注意が聞こえるが、彼は耳に入っていなさそうだった。もう少しスポーツマンシップに乗っ取ってやろうよ~。
「お互い準備も出来たようですし、始めましょうか。では尋常に……」
そう先生が手を掲げていうと、眼鏡君は杖を前に突き出して、構えのようなものをとった。俺は何を構えたらいいかわからないから、何も構えずに突っ立っています。
周りから見たら、何やっているんだあいつって思われるんだろうな……。
「……始め!」
「最初から無様に負けな!これでもくらえ!」
先生が手を振り下ろすのと同時に、眼鏡君は大体サッカーボールくらいの大きさの火の玉を生成し、こちらへと飛ばしてきた。
飛ばしてきたのだが、う~ん、これは、思った以上に、遅いな。いや、野球選手の球くらいには速いんだ。だけど、あのクソ女神が身体能力も強化してくれたおかげなのか、動体視力も良くなってその火の玉が遅く見えるんだよ。
これなら考えてから行動が出来るな!
「よっと」
最初だし、何か細工しているかわからないから一応躱しておこう。それにしても、これは本気でやっているのか?全然すごいとは思えないぞ?
「ふっ、これくらいできてくれないと困る!だが、次のこれはどうかな!?」
そう叫ぶや否や、先程と同じくらいの火の玉が十個ほど浮いていた。なんだ、さっきのはただの小手調べだったのか。よかった、あれで本気とか言われたら、流石に落胆していたぞ。
勝負を仕掛けてきた奴がそんなんだったら誰だって落胆してしまうもんな。もっと本気でやってくれていいんだぞ!
「くらえ!」
先程と同じく火の玉をこちらに飛ばしてきた。全部違う動きをしていて、すごいなぁと感心してしまった。いやまぁ、俺も出来るけどな!
だが一発だけ、こちらに来るのが他にも速いのが気になった。
「うわっ、目くらましか!?」
一発だけ、俺の足元で自発的に爆発した。そのせいで土埃が舞ってしまって視界がふさがれてしまった。
なんだよ、そんな小賢しい真似気出来たのか眼鏡君!?感心するけど、そんな応用とかはいいから、多種多様な魔法を見せてくれよ!
「これで終わりだぁ!」
遠くから眼鏡君の勝利に満ちた声が聞こえてきた。
だが、俺がそんな攻撃でやられるわけがないだろう!俺の千里眼の前では視覚を封じようとも無意味!全部躱してやるぜ!
それから俺は、余裕をもって全部の火の玉を躱した。そのせいで俺は砂ほこりをかぶってしまったのだが、まぁ服が燃えるよりはいいだろう。
「あーもー、砂が服に付いて汚れちゃったじゃん」
そう言って俺は、服についた汚れを払った。こんなことになるんなら、一歩も動かないとか一人で取り決めていないで、どこかに移動すればよかった……。
「ば、馬鹿な……、なぜ生きている!?」
「いや、生きていないと困るのはお互い様だろう」
眼鏡君は驚いた様子でいるんだが、生きていないと君は立派な犯罪者だからな?殺人、ダメ、絶対!
「なぜ先程の攻撃を食らって平気でいられるんだよ!?」
「いや、全然平気じゃねぇよ?」
もう俺が無傷でいることが不思議でならないのか、理由を聞いてきた。いや、ただ躱しているから攻撃自体は当たっていないんだが、それでもダメージは受けたぞ。
「さっき目に砂が入って視界が少し塞がれたもん!」
「そ、その程度だとぉ!」
俺の発言に怒ってしまったようだ。俺は本音を言っただけだったのだが、何か気に障ることでも言ってしまったのだろうか?
まぁ実際は体が強化されているから、目に砂が入ろうとも全然痛くはないし、視界がふさがれてもすぐに回復するんだけどなー。まったく、眼鏡君は気が短いなー……。ちょっとしたジョークじゃないか。
「……お前は僕を馬鹿にするのが上手なようだな……」
「それは褒められても嬉しくないな」
不気味な笑みを浮かべて俺を褒めてきた。いや、実際には俺に対して怒りを露にしているんだろうけどな。
「では、これならどうだ!」
そういうと、俺と彼の丁度間のあたりに黒い魔法陣が現れた。そこから、みんなの嫌われ者である、あの、黒光りをしていて、生命力だけは異様に高い、化け物が姿を現した。それも、一メートルくらいの大きさがあり、一匹だけではなく十匹はいた。
「うわ、キモっ!!!」
「どうだ、僕の使い魔たちだ!恐れ慄くがいい!」
「誰だって近づきたいとは思わねぇよ!」
えっ、あれが使い魔なの!?趣味悪くないか!?女子からは嫌われてしまうぞ!?いや、奴に罪はないが、それでも俺は無理だ!
ちょっと待てよ!なんであんなの召喚しているんだよ!なんだ、奴のことが好きなのか!?好きじゃなければあんなのを使い魔にしたいとは思わないだろう!