第百三十八話 思春期真っ盛りの男児の悩み
クソ女神がいなくなり、辺りは海風とさざ波の音だけが残った。
あのクソ女神ならば、確実に俺の告白を見るに決まっている。どうやって見られないようにするか考える必要が出てきてしまった。
結奈のように話の通じる人に相談しよう。
「どうしようね?」
「あぁ、本当にどうするかな。あのクソ女神の目を潰す方法」
「あれそんな話だった?」
以前に出会った男をのことを気を付けるという話は聞いた。
しかし俺にとっての問題は、クソ女神が俺の告白を確実に見るということだった。
そんな一大イベントは、誰にも見られないようにしたい。だからそこ策を練らなければいけない。
「これ、使えないかな?」
そう言って俺はある魔法を使った。
「……あー、さっきの天使が使ってたやつ?」
「そうそう。これで目をつぶせるかなって」
「物騒だなぁ……」
神の使徒であるため、見た魔法は何となくで使うことができる。だが魔法を使わなくても身体能力だけですでに強いため、神を殺す手段を増やすためにいろいろと模索している。
使えるかわからないが、一応覚えておこう。
「取り敢えずはみんなのところに戻ろう?」
「そうだな、結奈と話し合って殺し方を決めよう」
「なんで転生してきた人って物騒な人ばかりなの?」
俺たちは転移魔法で怜の自宅へと戻り、女性たちがいる部屋へと向かった。
というか、家広っ! 部屋多っ! メイドいる! 執事もいる! やっば金持ちだな!
「なんか、人生イージーモードだな……」
「そんなことないよ?」
そう言って否定するやつは大抵金持ちなんだよ。
家を迷いなく進む怜についていき、そして一つの扉を開く。
「帰ってきたよー」
「漸く帰ってきたか。男一人というのはつらいものだったぞ」
女性陣たちが何やら談笑をしており、そこに多少疲弊した陸がいた。
女に囲まれて、いろいろと根掘り葉掘り聞かれたのだろう。ご愁傷様です。
「そんじゃまぁ、行きますか」
「はーい」
全員荷物を持ち、玄関を出る。
そして俺が全員を、先程の砂浜へと転移させる
「いやーすぐだねー」
「流石翔夜だねっ」
「すごい」
「いやいやそれほどでも~」
転移魔法は俺からしたら特にすごいとは思っていないが、それでも女性たちは褒めてくれるので嬉しかったりする。
「キモッ」
「おうてめぇ後で面かせや……!」
しかしこうやって煽ってくる女性|(笑)もいるわけで。
マジでちょっとしめてやりたい。その力があればの話なんだけどな……。
「あそこ?」
「そうだよー」
そんな俺のことは無視し、数日ほどお世話になる例の別荘へと向かった。
「流石金持ちだね~」
先程見た怜の自宅と遜色ないほど大きく、旅館のような外観だった。
庭園もあり、あそこを沙耶と歩くのもいいかもしれないな。
「あーそうだ。結奈、あとで話がある」
「なに、喧嘩?」
「違うわ!」
つい先ほど話していたからそのつながりだと思ったのだろう。しかし話すことはクソ女神関連だ。
「じゃあなに?」
「怜と三人で話すこと」
「……了解」
そう言うと鋭い目つきになり、だがすぐにいつも通りに戻った。
三人に関連することはクソ女神の話だ。そしてその話になると、結奈は俺と同じく怒りを抱くのだろう。
「取り敢えず別荘に来たけど、何しようか?」
部屋へと入り、荷物を降ろして話し始める。
「そりゃあもちろん、海でしょ!」
「みんなで海、楽しみですね!」
沙耶とエリーが楽しそうに話している。俺も海でみんなと遊ぶのは楽しみにしてきたから早く行きたい気持ちだ。
「それじゃあ、着替えるのはあの部屋でしてね」
怜はそう言って隣の廊下を挟んだ隣の部屋を指定した。
「……カメラとかないよね?」
「翔夜じゃないんだから、そんなことしないよ」
「そうだね~」
「おいお前たちは俺のことをなんだと思ってんだ?」
俺がそんなことをするはずがないだろう。全く何を考えているんだかこの二人は。
というか全員してこっちを見るんじゃない。そんなことしないから。
「しないの?」
「しねぇよ! 馬鹿じゃねぇの!?」
本当に俺のことを何だと思っているのだろうか。俺は犯罪者顔だが、犯罪者ではないのだ。
「そ、そうだよ、翔夜はそんなことしないよっ」
「ホント、俺の味方は沙耶だけだよ……!」
訝しげに見てくる中、沙耶だけは確信をもって俺がそんなことをするはずがないと言ってくれた。これが信頼というものだろう。
滅茶苦茶嬉しい。
「でも、見たくない?」
怜に指定された部屋へと向かっている沙耶へと、結奈は視線を向けていた。
確かに見たくないと言ったらウソにはなるが、しかし今ここで盗撮なんてするはずがないだろう。
「俺のことを見くびっては困るな! 沙耶の嫌がることは絶対にしない!」
「男だね~」
好きな相手の嫌がることを進んでやる奴の気が知れない。
俺はそれで沙耶に嫌われてしまったら、もう生きて意味をなくすことになる。
つまり死ぬ。
だからこそ、自制心をもってしっかりと清廉潔白な俺でいなければいけないのだ!
「じゃあ、着替えたら浜辺に集合で」
「一応聞いておくけど、僕たち以外いないよね?」
「いないよ、僕たちだけだから」
「そう、それならいい」
他人に見られることを恐れているのだろうか。
確かに沙耶がほかの男どもに見られたら嫌だな。流石怜だ、わかっている。
「さて男性諸君、相談がある……」
「どうした翔夜、深刻そうな表情をしているな?」
着替え始めて、俺は男だけになったこの状況で相談を始めた。
「俺はこれから試練が待ち構えているんだ……」
「あー、何となくわかった」
「どんな試練が待ち受けているのだ?」
今まで試練があることは理解していたが、どうやって乗り切るか考えていなかったのだ。
問題を先延ばしにして、ついに今日を迎えてしまった。
「それはな……」
俺が乗り越えられるかわからない試練、それは……。
「沙耶の水着を見て、冷静でいられる自信がない!」
「心底どうでもいい」
「おい怜、俺がこんなにも悩んでいるのに、なんて薄情な奴だ!」
呆れたと言わんばかりの表情に俺は怒鳴り散らす。
「では見なければいいのでは?」
「見なかったら俺はこれからの人生は灰色と化すだろう……」
「それは言い過ぎ……でもないか」
見たいが、見てしまって自我を保つことができるのか。
だがしかし、見なければ俺は一生後悔し続けることになる。
「怜、こういうのを何と言うんだ?」
これは思春期真っ盛りの男のことを聞いているのだろう。
そう答えようとした際、怜が先に答える。
「ただの馬鹿」
「失礼な奴だなさっきから!」