第百三十六話 旅行の下見のようなもの
俺たちがアイスをもって戻り、食べ終わってそこで解散となった。
勉強はかなり進み、知識も身につけることができた。ほかのみんなは終わっているらしいがな。
そんな置いてけぼりな俺だが、しかし勉強よりも大切なことが存在する。
そう、旅行である。正確には、旅行での告白であるが。
前世では友人と泊りがけでどこかへ旅行に行くことはしばしばあった。
だが、女子との旅行は前世も合わせて初めてである。
修学旅行とかで告白する中高生がいると知った時、何故そのような思い出に残るときに博打をしようとしているのだと疑問に思った。
告白なんて後ですればいいだろう、と。態々旅行ですることはないだろう、と。そう考えてきた。
だが実際に自分が告白するときになって初めて気が付いた。
思い出に残るからこそ、一世一代の大勝負をしたくなるのだと!
振られる可能性があるのはもちろんわかっている。
しかしだ、それでもこの思いを伝えずに終わるようなことは断じてしたくないのだ。
だからこそ、そういうイベント事で世の男児たちは告白をするのだろうと。俺は中高生の男子たちに同情した。
だが勿論、俺だって失敗はしたくない。そのために様々な方々から助言をいただいたのだ。
その集大成として、俺は今回の旅行で沙耶へと告白をするのだ。
そして現在、その旅行当日となり全員が怜の家に集まっていた。
「すんごい豪邸じゃん」
「知ってはいたけど、すげぇな」
俺たちは怜の家の前に来ているのだが、その家が考えていた以上に大きかった。つーか庭広っ。
これが金持ちか。
「さぁて、全員集まったし行きますか」
「どうやっていくの?」
「そりゃあ、俺の転移魔法で」
「ホント翔夜さんはすごいですよね……」
「脳筋ともいう」
「勉強も一応できるし!」
転移魔法を使えるということは、もうすでに周知の事実となってしまっているため、このメンツに限り普通に使うようになった。
だが一応一般の方々にはバレぬよう、日常的には使わないよう注意はしている。
「でも場所がわからないと転移できないぞ?」
「それなら、僕が翔夜と先に行って確認するから、みんなはそれまで飲み物でも飲んで待ってて」
「はーい」
外へと出て、俺たち二人は風魔法で空を飛ぶ。
ちなみに、俺は荷物をすべてインベントリという収納魔法を使い、手ぶらである。怜も言わずもがな。
「普通空を飛ぶことも難しかったような気がするのですが……」
「気のせい気のせい」
エリーには申し訳ないが、俺は原理など知らない。ただ、飛ぶことができちゃっているだけなのだ。
「さて、女子たちは涼しい場所で待ちましょ」
「一応俺もいるんだが?」
俺たち二人は空へと飛び立ち、残った者たちは豪邸へと入っていった。
先程執事らしい人が案内していたが、リアルで見たの初めてで少し感動した。
「んで、なんで俺だけ連れてきたんだ?」
「えっ?」
俺は並走して飛んでいる怜に尋ねる。
「怜だったら前もって転移するために俺に知らせているだろ」
「なんでそういうところだけ鋭いかなぁ?」
そういうところとはなんだ。いつだって俺は考えているんだぞ。
「まぁちょっと話したいことがあってね」
「なんだ?」
二人きりでしか聞けないこととはいったい何だろうか。
「旅行中に沙耶ちゃんに告白するじゃん?」
「そ、そうだな……」
「なに緊張してんの……」
怜は呆れた表情を浮かべるが、俺からしたら告白をするだなんて考えるだけでも緊張するんだぞ。
いや、普通は告白することになったら緊張するだろう。そうに決まってる!
「それなんだけど、いつ?」
「……それを知ってどうするつもりだ?」
何やら俺がいつ告白をするのかを知りたいようだった。もしかしなくても、妨害目的か何かかと勘ぐってしまう。
「邪魔が入らないように配慮してあげようかと」
「お前、女神か?」
「『女』つける必要ないよね? ねぇ、馬鹿にしてる?」
「してないしてない」
なんとただ邪魔が入らないようにしてくれようとしているだけの、超いい奴だった。
あと女と見間違われるっていうことを忘れてた、すまん。
「夜にさ、月明かりに照らされた海辺を二人で歩こうと思ってる」
俺は自分の中で考えているプランを語る。
「そこで思い出話に花を咲かせたりして、そして雰囲気ができてきたら相手の出方を見て愛の言葉をささやく……」
「本番では手帳見ながら確認しないようにね……」
どうするか未だに頭に入っていないため、手帳に書き記しているのだ。
本番で見ないようにするために、今から頭に叩き込むように頑張ってる。
「あと、それ言ってて恥ずかしくない?」
「うるせぇ恥ずかしいに決まってんだろぶっ殺すぞこの野郎!」
一応言っておくが、この文章を考えたのは俺ではない。
俺の学校の校長である雪先生である。面白半分で書きやがったのだ。
「っと、到着だね」
「おぉ、ここか」
神の使徒であるため、直ぐに着くことができた。
目の前に広がる景色に俺は感嘆する。
透き通るほど透明度の高い海に、人工物が少なく自然豊かな環境であった。
これほど綺麗な場所はあまりないだろう。
「いい感じの浜辺なら、あの辺りがいいよ」
「さんきゅ」
上空から見下ろし、怜は指をさして教えてくれる。
事前にデートスポットを、土地勘のある怜に聞いておくのは有効活用できるためありがたかった。
俺たちは一度浜辺へと降りて、そこから転移しても周りに見られないであろう場所を探して歩き出す。
「それで?」
「それで、とは?」
そして歩き始めて直ぐに、怜は問いかけてくる。
「キスとかするの?」
「キッッッッッ!?!?!?」
「あ~、なるほど」
何かと思ったらとんでもないことを言われた。まさか怜の口から、キスだなんて。
あと、初心だねぇって言うんじゃねぇよ。
「な、なんでそんなこと聞いてくるんだよ!」
「いや~、その~……」
「なんだ、歯切れが悪いぞ!」
何故そのようなことを聞くのだと俺は焦りつつも疑問に思った。
普段の怜ならばそのようなことは聞いてこないはずである。聞くとしたら結奈あたりだろうか。
そのためどうしてそのような質問をしたのか尋ねた。
「その光景を見たいと言い出しかねない人物に心当たりがあるから……」
「……ほう」
なるほど、そういうことか。
つまり俺が仮に沙耶と、その、してしまったときに、その光景を見に来る奴がいる可能性があるということだな。
一人心当たりがあるな。
「若干一名は人間ではないんだけど……」
「あー誰かわかったわ」
クソ女神ですねわかります。
「そんなことをしようとするやつは、怜が消しといてください」
「止めるじゃなくて消し飛ばすの!?」
「消し飛ばすの」
俺と沙耶の二人きりの状態を邪魔するやつは万死に値する。そのため、消し飛ばされても文句は言えないだろう。
俺の純情な感情を汚す奴は許さんぞ。
「できれば若干一名のどこぞのクソ女神サマは今すぐにでも消滅させておいてください」
「そんな無茶なこと言われても……」
相手は神である。その言葉を聞いて俺は考える。
神様ならば、神の使徒である俺の願いをかなえてくれるのではないか。
そこで俺は、目を閉じ祈りのポーズをとる。
「あークソ女神、どうか俺の一生に一度の告白を見ないでくれ。できれば殺されてくれ」
「全然祈ってなくない?」
祈られる対象は、信仰対象となるような神聖で清廉潔白な存在でなくてはならないと考えている。
汚れた感情を持ち合わせている、俺にとって害悪でしかないクソ女神へのお願いはこれが適切だろう。
そう考えて俺は歩き出そうとするが、そこへどこからともなく声をかけられた。
『お断りします』
「「えっ……」」
唐突として、目の前に光の輪が現れたかと思うと、そこから神々しい光に包まれた絶世の美女が現れた。
言うまでもなく、件のクソ女神その人であった。