第百三十四話 旅行兼告白計画
みんなで夏季休暇に出された課題を図書館で行っている。
各々がまだやっていない課題を終わらせていく中、俺だけは結奈やほかのみんなから勉強を教わっていた。
三人寄れば文殊の知恵という言葉がある。一人よりも二人、二人よりも三人でやればよい結果を残せるということ。
つまり、頭のいい人が複数人いれば、俺の課題もすぐに終わるという考えだ。
「だから、解き方はこれを使えばいいんだって」
「いや、それはこっちで使ったじゃん」
「同じやり方でいいんだよ」
「なんでだ……全く分からんな!」
しかしそんなことはなかった。
元々の基礎知識が不足しているせいで、理解があまりできていなかった。
いや、あまりではなく全くと言っていいほどわからなかった。
「なんで試験が受かったの?」
「短期記憶の付け焼き刃!」
「あー……」
その発言を聞き、結奈は諦観したような表情を浮かべる。
そして俺の解いている課題へと視線を落として指摘してくる。
「ここ、間違えてるよ」
「くそっ……!」
ちゃんと教える、というよりも課題を終わらせることへ重きを置いたのだろう。
その証拠に、結奈が俺を見る目がなぜか死んでいるように思える。気のせいだろう。
「さっきの話に戻すけど、また使い魔が増えたんだ」
「またじゃねぇだろ。記憶ないんだから、初めてだよ」
先程、俺は結奈からいろいろと言われる前に、鈴の友人を助けたときの話をした。現在は仮にという形で俺の使い魔という状態にしていると。
将来的には、俺の妹の結衣に譲りたいと考えている。本人もそれを望んでいることだし、仲良くなってもらいたいのだ。
「三人も侍らせて、ハーレムでも作るつもり?」
「恋愛感情はないんだから、ハーレムじゃないだろう」
それを話したにもかかわらず、結奈は俺をからかいたいだけにその話をなかったことにして話してくる。
使い魔に邪な感情を抱くわけがないだろう。ただ可愛いゴスロリとモフモフと思っているだけだよ。
「もしかして、三人をいかがわ———」
「おう貴様一度その口を閉じやがれ!」
図書館であるにもかかわらず、大声で怒鳴ってしまった。
周りにしっかりと謝罪をして、声を押し殺して且つ怒気をはらんだ声で反論する。
「何もねぇよ、俺が好きなのはゲフンゲフン! 取り敢えず勉強をしよう!」
「話を逸らすの下手くそ」
「うるせぇ、気にするな」
うっかり発言しそうになるも、何とかうまくごまかした。
気が緩むと、ふと言いそうになってしまうのが問題だな。以後注意しよう。
「そういえば気になったのだが、三人はなぜ汗をかいていないんだ?」
「そうだね、外熱かったのに、汗かいてないね」
土岐兄妹がふとした疑問を俺たちにぶつけてきた。
思い返してみれば、俺たち三人以外は出会ったときに汗をかいていたな。
「俺は氷魔法で常に涼んでいるからな」
「ずるいなぁ」
「そういう怜だって魔法使ってるだろ」
俺は暑いのが嫌だということで、最近はずっと氷魔法をものすんごく手加減をして発動している。
おかげで夏にもかかわらず涼しいのだ。
「ず、ずっと魔法を発動しているのですか?」
「あぁ、そうだな」
「流石、魔力測定でカンストしただけはありますね」
魔法を常時発動しているというのは、言ってしまえばずっと走り続けているのと同じことだ。
魔力量が多くなければそんなことはできないし、そもそもある程度の技術力も必要となってくる。
神の使徒だからそこ簡単にできることなのだろう。
「あー、そんなこともあったな……」
「弁償とか言われなくてよかったよね……」
三人以外は驚愕や納得といった表情を浮かべていた。
あれを破壊したこと自体はすごいことなのだが、俺と怜は高価なものを破壊してしまったという認識なので、複雑な心境である。
「夏は暑いから、汗かくとべたつくからヤダ」
「気持ちはわかるけど、疲れない?」
沙耶からの指摘に、結奈は嫌そうな表情を浮かべて答える。
「べたつくと、翔夜みたいな男どもからの視線が気になるから」
「おい俺は女性をそんな目で見てないぞ」
なんと酷い言い草だ。
こういう発言から冤罪が生まれてしまうのだぞ。
まったく、俺には心に決めた人物がいるというのに、そんなことをするはずがないだろう。
「それは嘘。だってさっきから沙耶の———」
「ハー〇ンダッ〇買うから許して!」
俺は先程よりも大きな声を上げて結奈の発言を遮る。
今更なのだが、服装を含めて沙耶のすべてが可愛すぎるため、目のやり場に困ってしまうのだよ。
だって、夏って熱いから比較的薄手になるじゃないですか。それなら世の男どもは必然的といってもいいくらいに、好きな女性の姿を目に焼き付けようとするじゃないですか。
というか、俺が沙耶を見ていたことがバレていただなんて……恥ずかしくて土に埋まってしまいたい。
「三個で」
「太るぞ」
「沙耶~」
「あーわかった三つ買うから!」
なんて恐ろしい奴なんだ。
いやしかし、考え方によってはアイス二つでこれほどの秘密を守ってもらえるんだよな。
そう考えれば、結奈は優しいのではないだろうか。いや、気のせいだな。
「それで、旅行はどうする?」
「翔夜、課題終わったの?」
「終わるわけがないだろうが」
「そんな当然みたいに言わなくても……」
勉強をひと段落着いたところで、旅行の話へとシフトした。
怜は課題を気にしているが、当の本人である俺は全く気にしていない。
「みんないつ頃都合がいい?」
「俺はエブリデイ暇だ!」
予定なんてないからな。
課題? そんなものは知らんな。
「翔夜、アイス買ってきて?」
「えっ、話し合いは?」
さぁこれから話し合いを始めようとしたが、唐突に結奈に買い物へと行かされることとなった。
「暇ってことはわかったから、ちゃんとこっちで日程決めていくから」
「仲間外れじゃない!?」
「じ、じゃあ、私も一緒に行こうか?」
「さ、沙耶ぁ……!」
ありがたいことに、沙耶も一緒に行ってくれると言ってくれた。
それならば、俺は全く苦じゃないな。
「じゃあ沙耶、翔夜をよろしくね」
「俺は子供か?」
気になりはしたが、俺はあまり気にしないようにして沙耶と一緒に図書館を出た。
「それじゃあ、うまく二人のいなくなったことだし、始めましょうか」
何か言った気がしたが、俺は沙耶と買い物に行けるからどうでもいいかと思い、沙耶と近くのコンビニへと向かった。