第百三十三話 計画
結衣の、妹の新しい使い魔に茅が立候補したが、断られてしまった。
「じゃあ、私勉強するから静かにしててね」
「おう」
そう言って出ていってしまった。
そこされた俺たちは、なんとも言えない空気の中、茅は俺に向き直り問いかけてくる。
「私の何がいけなかったのでしょうか!?」
自身の銀色に輝く尾を揺らしながら、どうして自分はダメだったのかと問いかける。
だがそれについての理由は明白であった。
「初対面で使い魔にしてくれってのは、普通は怖いんじゃないのか?」
「私可愛いのに、どうしてですか!?」
「自分で言うな」
揺らしていた尾を抱き、そしてあざとく上目遣いをしてくる。
見た目に関して言えば、鈴と同じく整った顔立ちであり、喋らなければ気品さえ感じられる。そしてモフモフがある。
だが、初対面で「可愛いから使い魔にしてほしい」なんて言われたら、普通嫌だろう。
そしてそれに対して鈴が何やら苛立ちを露わにしていた。流石にこれは友人であっても使い魔の話は許せないものか。それともただ上目遣いがダメだったのか……。
「可愛くても、信頼は大事だぞ」
「なるほど……」
顎に手を当てて考えるそぶりを見せ、納得を示す。
「確かに最初あなたを見たとき、やべぇ奴だなって思いましたもん」
「おいコラなんで急に俺の話になってんだよ」
唐突に俺を貶す茅だが。
「でも、鈴の主だからいい人だって思ってる!」
「そりゃどうも」
鈴が俺の使い魔だということで、全面的かはわからないが信用はしてくれているようだった。
顔が怖いことは自覚しているが、第一印象がやべぇ奴っていうのは初めて聞いた気がする。
「信頼ですか~」
感慨深く、今まで気にしたことのないようにため息交じりにこぼす。
「じゃあ、これから仲良くなっていこうと思います!」
「妹が受け入れればいいがな」
「頑張ります!」
初対面でグイグイ行き過ぎてしまったが、これから仲良くなっていけばいいのだ。
鈴の友人だし、陰から応援させてもらおう。
「まぁ茅は悪い奴じゃないからな、俺からも口添えをしておく」
「主さん……本当はいい人だったんですね!」
「本当はってなんだ」
前言撤回。
少し、というよりかなり俺のことを信用していなかったようだ。
俺も、少しずつ仲を深めていこう。
「ではこれからは、私は鈴と行動を共にするので、何かありましたらお呼びくださいな!」
「おう」
「何もなくても呼んでください! 妹さんと仲良くなりたいので!」
「わかったよ」
ポジティブで向上心があることはいいことだ。
ただそれが誠実かという問題はあるが、悪い奴ではないので様子見だ。
「わたしもー」
「あ、では、私も……」
「はいはい」
二人は何もなくても時折呼ぶし、それに旅行にも連れていくつもりだから、近々確実に呼ぶ事は確定している。
楽しみに待っていてくれ。
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俺が空中要塞を破壊して母さんに怒られた日、両親は帰ってこなかった。
翌日になって、朝食の席に父さんと母さんはいた。
そして父さんには、何やら傷がついているのが伺える。
「そういえば、父さんはどこに行っていたの?」
それとなく、父さんの傷が気になって聞いてみた。
「翔夜、ごめんな?」
「なんで?」
何故か唐突に謝罪されてしまった。
「父さんがデリカシーなくてすまんな」
「それは元々知っているから別に気にしてない」
「その発言は結構傷つく……」
デリカシーのない発言をしていたことの自覚がなかったのかと、そうツッコミそうになるがその言葉を飲み込む。
体に傷を負っているし、さらにこれ以上心に傷を与えたら再起不能になりそうだからだ。
「まぁ翔夜、あの日の出来事はもう過ぎたことなんだ。野暮なことは聞くもんじゃないぞ」
「そうよ、翔夜」
「わかりました」
父さんの発言はともかく、母さんが何も聞くなというならば、聞いてはいけないことなのだろう。さっさと話題を変えることとした。
「さて、俺はこれから夏季休暇なもので、ちょっと勉強兼旅行計画を練りに行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
「また危険なことしたら、ただじゃすまないからね~?」
「しょ、承知しております……」
くぎを刺されてしまったが、俺は好き好んで危険に首を突っ込んでいるわけではない。
重々承知したうえで、俺は朝食を終えて自宅を後にする。
燦燦と太陽が照りつける中、俺は図書館へと向かい集まっていた。
昨夜、唐突に俺が招集をかけて集まってもらった。
勉強会と旅行計画をしようと声をかけたが、前日の夜だったにもかかわらず集まってくれたみんなには感謝しかない。
「さて、全員揃ったね」
図書館ということであまり大声を出せないが、全員が集まったということで話し始める。
「この日集まってもらったのは他でもない」
そう前置きをして、本題を話す。
「旅行をする前にこの課題をどうにかしたいのでよろしくお願いします!」
「他力本願がすごいね」
怜に苦言を呈されてしまったが、それまでしてでも俺は直ぐに課題を終わらせたいのだ。
夏季休暇最後の日に課題を残すことの恐ろしさを俺は身をもって知っている。マジで寝れねぇよあれは。
だから、始まって早々に課題を終わらせることで、気兼ねなく旅行を楽しめるということだ。
「まず旅行の話も殆ど聞かされていないから、詳しく聞きたいな!」
「うん、聞きたい」
「勉強が終わり次第、みんなで話し合うつもりだよ」
旅行の話もしっかりするが、今回のメインは勉強である。
陸と奈那には悪いが、俺の勉強に付き合ってもらうこととなる。
「一日で終わるのかな~?」
「おい怜、ここにいる全員は俺より優秀なんだぞ!? 確実に終わるだろう……」
「自分で言ってて落ち込まないでほしいんだけど?」
途中からやってきた陸と奈那よりも頭が悪いということを自覚してしまい、最後の方は消え入りそうな声になってしまった。
「そんなことより、昨日のあれは何だったの?」
「それについては勉強をしながら話しましょう」
まだちゃんと話していなかったので、結奈と怜には説明も含めて詳しく話そうと思う。
もちろん勉強をしながらな。
「因みに、僕はもう終わってる」
「こいつ、化け物か……!」
「女子に対して言うセリフじゃないよ?」
夏季休暇始まってまだ全然経っていないというのに、まさか終わっているなんて思いもしなかった。
「結奈様、よろしくお願いします!」
これほど頼りになる存在はいないと思い、俺は頭を下げて懇願した。
「アイス」
「終わり次第買ってまいります」
「よろしい」
夏は暑いからな、アイスが食べたくなるのは同情する。
バイトはしていないが、魔物を倒したり宗教団体をつぶしたりとしているため、臨時報酬が俺にはあるのだ。
アイスくらい安いものである。
「……」
「ちゃんと沙耶の分も買ってくるよ」
「あ、別にそういうわけじゃ……ありがとう」
結奈だけではなく集まってくれたみんなの分まで買ってくるつもりである。
だから、羨ましそうに見なくてもいいんだぞ。
「僕たちの分は?」
「言われなくてもちゃんと買ってきますとも」
出費がかさんでしまうが、必要経費ということで仕方のないことだろう。