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第百三十一話 ペナルティ


 母さんより旅行へ行くことの許可をもらうことができた。


 土下座魔でした甲斐があったというものだ。


「許しはしたけど、だからといって危険なことをすることは許さないから」


「はい、それはもう重々承知しました……」


 だが、それでも危険を冒すことを許されたわけではない。


 今以上に危険なことへ首を突っ込むことを、母さんは許さないだろう。


「もし、同じように危険なことに首を突っ込んだりしたら、なにかペナルティを課すからね?」


「ぺ、ペナルティ?」


 その発言に、俺は戸惑いを隠せなかった。


 なんだかんだ言っても、俺のことを許してくれたため何も罰はないと考えていた。


「そうねぇ……じゃあお母さんの言うことを何でも一つ聞くって言うことにしましょう」


「な、なるほど……!」


 いうことを何でも一つ聞くだけでいいのかと思うかもしれない。


 しかしその目には、悪戯っ子のような面倒なものが見えた。


 恐らくは、というよりも確実に、俺が嫌がるような、そして母さんが楽しむようなことを言うに違いない。


「残念だったねぇ、そんな言われてぇ」


 神長原さんは椅子に座り、ご飯を食べながら自分は無関係といわんばかりに発言する。


 だが母さんがそんなことを許すはずもなく。


「あなたも、雪に言っておきますからね?」


「うげぇ……」


 そう言われ、苦虫をつぶしたような顔をしていた。


 余程告げ口されることが嫌なのだろう。雪先生へとからかう材料を渡してしまうから。


 そんな神長原さんと共に座っていた父さんが立ち上がり、俺の前へとやってきた。


「それで翔夜、いつなんだ?」


「おっと父さんは空気を読めないんだな」


 小指を突き出し、いつなのだと尋ねてくる。


 それは、俺が旅行と言って、そして人生にかかわるほど大事な、というワードから導き出してしまったのだろう。


 父親だけど殴ってやろうかしら?


「お父さん、ちょっと」


「な、なんだ……?」


 母さんは唐突に、父さんの手を取って外へと出ていってしまった。


 その際に見せた母さんの笑みは、とても無機質で人へと向けるような目はしていなかった。


「南無三……」


 何があるかわからないが、自業自得ということで受け入れてくれ。


 骨は拾ってやるから。


「じゃあぁ、私は帰るねぇ」


 ご飯を食べ終わったのか、神長原さんはそそくさと玄関へと向かい、両親に続いて帰路に就こうとする。


「お疲れさまでした」


「お疲れぇ」


 特に神長原さんに用があるわけではないため、そのまま送り出した。


 後でついてきてもらった礼を込めて、お土産でも買っていってあげよう。


「さてと……」


 ようやくひと段落着いて所で、俺はもう一つの問題を解決しようと重い腰を上げた。


「未桜、鈴はどこにいるかわかるか?」


「あるじのおへやにいるよー」


 俺はこの場にいない鈴の下へ、未桜とともに向かった。


「鈴、入るぞ」


 俺は自室の扉を開け、その奥で正座して縮こまっている鈴を見つける。


「主様、大変申し訳ございませんでした」


 入ったと同時に、鈴は土下座をして謝罪をしてきた。


「頭を上げろ。えっと、ずっと正座していたのか?」


「はい……」


 頭を上げ、しかし俯きながら答える。


 鈴は操られてしまったこと、俺に攻撃を仕掛けてしまったこと、そして俺に頼んだ張本人が迷惑をかけてしまったこと。そのことを気にしているのだ。


「別に俺は気にしてないぞ?」


「主様はお優しいですね……」


 その言葉に覇気は感じられなく、目も合わせようとしない。


「敵に操られただけではなく、よもや主様に牙をむいてしまうなど……」


「ちょっと攻撃したくらいだし、ほんと気にしてないぞ」


「それでも、です!」


 俺に知れ見れば、ちょっとしたじゃれあいみたいなものだと考えていたのだが、鈴は俺が思っている以上に気にしている様子だった。


「なにか、罰をください!」


「罰?」


「そうでなければ、私は納得できません……!」


 漸く、目を合わせてくれた。


 だがそれは、罰を与えてくれと懇願するためだった。


「あるじ、おにぎりおいしい」


「ん~今ちょっと大事な話をしているから後でね?」


 いつの間にか、未桜のその小さな両手にはおにぎりがあった。


「あるじ、たべよ?」


 食べていない片方を俺の方へと突き出し、食べてほしそうに首をかしげる。


「……今じゃなきゃダメか?」


 鈴から罰を与えてくれと言われ、とてもシリアスな雰囲気が漂っているのだ。


 そこへおにぎりを食べながら話し合うというのは何かおかしいだろう。


「おいしいよ?」


「……いただきます」


 それでも未桜は、俺に押し付けるようにおにぎりを渡してくるため、仕方がなく受け取った。


「あのな鈴———」


「たべて」


 未桜は置いておいて食べずに話を進めようとしたが、再び遮られてしまった。


 食べてほしいようだった。


 食べなければ何度でも遮られそうだったため、一口食べる。


「……おいしいな」


「ねー」


 海苔がまいてあるだけの質素なおにぎりだが、夕飯を食べていなかった俺にはいつも以上においしく感じられた。


「じゃあさ、鈴よ」


「はい……」


 俺は二口目を含みながら話を進める。


 俺なりに考えた、罰を与えるために。




「今度おにぎり作ってよ」


「……えっ?」


 おにぎりを食べている俺を、呆けた表情で見つめてくる。


「宮本さんや母さんに教わってもいいし、おいしいのをお願い」


「えっと……」


 なぜそのようなことを言ってくるのか、甚だ鈴は疑問に思っているだろう。


 だが、今感が売る限りでは一番良い選択なのではないかと思う。


「それが、俺が鈴に与える罰ってことで」


「そ、そんなことで……!」

 

 元々俺は鈴に罰を与える気など全くない。


 しかし鈴は罰を与えられなければ気が済まないだろう。


 ならば折衷案として、軽い罰を与えることとした。


 いやデコピンとかやる勇気は俺にはなかった。だって吹っ飛ばしそうで怖いんだもん。


「りん、おにぎりたべよ?」


「今どこから出した?」


 何処から出したのか、未桜は食べていない方のおにぎりを鈴へと渡した。


「未桜も、ごめんなさい……」


 それを受け取り、鈴は未桜へも謝罪の言葉を述べた。


 どちらかと言えば、俺よりも未桜の方が色々と被っているな。


「きにしてない。だから、おにぎりたべよ?」


 それでも未桜は俺と同じく気にした様子がなく、おにぎりを勧めてくる。


「もう誰も気にしていないんだ。だから、鈴も自分を責めるな」


 俺もそれに乗っかり、鈴を慰める。


「わかりました、ありがとうございます……!」


 俺の部屋で、三人で座っておにぎりを食べることとなった。


 その場にシリアスな空気はもうなくなっていた。


「おいしいですね……」


「みやもとさんがつくってくれたー」


「なるほど、流石家政婦だな」


 俺と未桜は食べ終わり、だが未桜は三度どこからかおにぎりを出し食べ続ける。


 食欲旺盛なことはいいが、俺も欲しいな……。


「では今度、主様に合うおいしいおにぎりを作ろうと思います」


「おう、待ってる」


 元気よく答え、俺は鈴が元の戻り安心する。


「未桜、ありがとな」


「なんのことー?」


 未桜に耳打ちしたが、当の本人はとぼけたように言い食べ続ける。


 罰を与えやすくするために敢えてやったことだろうと、俺は勝手に理解して笑顔になる。


「はい」


「……ありがと」


 物欲しそうな目で見ていたことがバレたのか、おにぎりを渡された。



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