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第百三十話 覚悟


 魔物が多くいた要塞は、鈴の友人が捕らわれていた要塞は、結奈の魔法によって塵も残さず消し飛ばされた。


 俺が放った物以上の威力を発揮し、雲を友人がも晴れて太陽の光が燦燦と照らされる。


「これで帰れるなぁ」


「翔夜、一応聞くけど何があったの?」


 隣にいる怜は、現状がわからず尋ねてくる。


「う~んとだな、使い魔のために喧嘩を吹っ掛けた」


「また問題起こしたんだ……」


 またかといわんばかりに俺を見つめてくる怜に、俺は怪訝な表情を浮かべる。


「またとはなんだ、またとは。俺が普段から問題ばかり起こしているような物言いだな」


「事実じゃん」


「なんだとぉ!?」


 確かに問題に巻き込まれるようなことはたくさんあった。


 だがそれは全て巻き込まれてしまったのであって、決して自ら危険へと飛び込んでいったわけではない。


 俺はそう思ってる。


「取り敢えず、目立ちたくないから帰ろう」


「おう、そうだな」


 上から降りてきた結奈がそう言い、俺たちは転移魔法を使って地上へと跳んだ。








 ===============








 俺たちは無事に、鈴の友人を助け出して帰路につくことができた。


 途中、本気でヤバいのではないかと思うようなこともあったが、俺は問題はなく家族の待つ自宅へと着いた。


 多少目立つようなことにはなってしまったものの、シスト隊員の神長原さんの計らいでどうにかもみ消すことができた。


 やはり持つべきは権力だった。


「あのぉ……」


 結奈や怜、それに精神支配されていた鈴に、今回あった出来事を事細かに説明した。


 結奈には怒られ、怜には呆れられ、鈴には謝られてしまった。


 結奈と怜には、協力してくれたということで、後でなにか飯でも奢ってやらねば。


 そして鈴には、あまり気にするなと言っておいた。それでも気にするだろうから、あとでメンタルケアをしようと思う。


「なぁに~?」


 また結奈たちだけではなく、家族にもしっかりと事の顛末を説明することとなった。


 しっかりと言いつけを守って、怪我をすることなく無事帰ってくることができたと、胸を張って報告したのだ。


「あの、笑顔が怖いのですが……」


「気のせいよ~」


 大人同伴という条件はあったが、それを守ったという証言をするため、神長原さんと一緒に自宅へと帰ってきている。


「あの、少々訪ねたいことがあるのですが……」


「何かしら?」


 さて、あまり現実に目を向けないことはよくないことだ。


 ということで、そろそろこの現状の説明を求めよう。



「何故、私は正座させられているのでしょうか?」



 現在俺は、リビングにて仁王立ちしている母さんの前で正座させられていた。


「わからないの?」


「申し訳ありませんが、私には思い当たる節がございません」


 帰ってきてすぐにこの状況であるため、全く理由が思い当たらなかった。


「そう……」


 それだけ言うと、俺を張り付けた笑顔で近寄り……。


「お母さんの口から言われないと、本当にわからないの?」


「い、いえ、その……予想することはできるのですが、それが本当に怒っているかはわからないといいますか……」


 耳元でつぶやかれるその言葉は、とても静かで、それでいて底知れぬ圧力が感じられた。


 その言葉に俺は声が震え、近くでお茶している父さんや家政婦の宮本さん、それについてきていた神長原さんたちはこちらを見向きもしない。


 あの、助けてはくれませんかね? そうですか、無視ですか。俺泣いちゃいそうだぜ。


「お母さん怒らないから、話してみて?」


「もうすでに怒っている人の言うセリフじゃないと思う……」


「な~に?」


「いえ何でもありませぬ!」


 俺を見るその瞳には光がなく、俺はこれが恐怖かと思い急いで思考を巡らせる。


「そのですね、流れで私が危険な目にあってしまったことではないかと考えました」


 もうそれ以外に思い当たることがなかったため、毅然として答える。


 逆に違ったらどうしよう。


「そうねぇ、危ないことをしないって約束したのに、直ぐに破るんですもの」


「で、でも、それは大人を同伴させて、且つ俺たちは怪我をしていなければ問題ないのでは———」


「私はね、翔夜が危険な目に遭っていることに怒っているの!」


 母さんは怒声が響いた。


 今までにないほど、母さんは怒っていた。


「やむを得ない状況だったので、あの……」


 これ以上言葉が出てこなかった。


 先程までの静かな怒りとは違い、本当に怒っていた。


「頭はそこまでよくないけど、体はほかの人より頑丈だし、魔法技術は優秀だと自負してる。だから———」


「だから、危険なことをしてもいいと?」


「いえ、そんなことは……」


 神の使徒であることを、両親は知らない。


 そのため、自分の息子がただの人間だと思い、そして危険な目にあっていることが嫌なのだろう。


「私は、心配だったの……」


 消え入りそうな声で、そう話す。


「ごめん……」


 例え神の使徒だと知っていたとしても、恐らくは母さんは怒ったかもしれない。


 どれほど強力な攻撃を受けても、どのような危険な目に遭っても、自分自身の体は傷すらつかない。


 それでも、そのような目に合うことを、俺の知っている両親は許容はしないだろう。


「本当に、ごめんなさい。反省します」


 謝罪する以外に、言葉が出てこなかった。






 長い沈黙が流れ、徐に母さんが口を開く。


「こんなことじゃ、旅行に行かせることも出来そうにないわね……」


「そ、そんな……!」


 いやちょっと待ってほしい。


 確かに反省するといった。


 だがそれとこれとは話が別である。


「それだけはどうか、どうかこの通り許してください!」


 正座からのすぐさま土下座をした。


「俺にできることがあれば何でもしますんで、どうにか旅行へ行く許可をください!」


 先程の重苦しい空気はどこへやら。


「なんなら指も詰めますんで、どうにか……!」


「ヤクザかよ」


 父さんが何か言っているが、俺は物凄く必死である。


「俺の今後の人生を左右する旅行なんです! どうか、どうかそれだけは……!」


「んな大げさな……ことでもないか」


 何かを察したのか、とてもニヤニヤして俺を見つめてくる。


 くっそ後でその顔をぶん殴ってやりたい……!


「……まぁ、旅行だけは許すわよ」


「あ、ありがとうございます!」


 仕方がないといわんばかりに、母さんは呆れつつも許可をくれた。


「ただし、本当に危険なことはしないでね?」


「わかりました!」


 そう意気揚々と答え、ひとまず安心した。



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