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第十三話 虚栄心の男児


 どうして人は争うのだろうか?そんなことをしなくても話し合いでどうにかしてほしい。


 いやね、別にすべてを話し合いで解決しようとしているわけじゃないんだ。世の中にはどうしようもない時もあるだろうから、そういう時には争ってしまうのも致し方無いとは思っている。


 だけど、今回の眼鏡君が言ってきたようなことって絶対話し合いのほうがいいと思うんだ。


 争いごとは何も生まないとか綺麗ごとを述べるつもりもないんだけど、それでもやっぱり今からでもいいから話し合いにしないかな?


 もう面倒で仕方がなく、少々現実逃避気味だった俺の思考が先生の沙耶を呼ぶ声によって引き戻された。


「次は東雲さんです」


「あ、はーい」


 沙耶と怜は世間話でもして時間をつぶしていたのだろうが、沙耶の順番が回ってきたので、先生に呼ばれて行った。


「では、この水晶の上に手を乗せてください」


「はーい」


 なんで沙耶にはなんにも注意とかしないんですか先生?そういえば確か注意されていたのは全員男だったような……。そんなに男って荒っぽいイメージがありますかね?


 そんなことを考えているうちに、沙耶が言われた通りに水晶の上へと手を乗せた。すると、俺たちほどではないにしろ、クラスメイト達の誰よりも強く光った。


 もしかして沙耶も割れるか!?と期待したのだが、残念割れなかった。


「お、おぉ!素晴らしい!」


「やっぱ沙耶は普通にすっごいな」


「東雲さんって魔力量多かったんだね」


 水晶の上には、『七五一七九』と出ていて、先生も神の使徒も驚嘆の声を上げる。ほかのクラスメイト達も、自分たちが千台だったからか感嘆の声を上げている。だが、俺や怜が言ったら嫌味にしか聞こえないだろうな……。


「君の魔力量はこの学校でも三番目くらいに多いぞ!」


 一番と二番は俺と怜ですね、わかります。俺たちは神の使徒だしカウントしてはいけないだろう。ということは、実質この学校で一番の魔力量を持っているんだな。やっべ沙耶すっげぇな!


「あ、ありがとうございます」


 先生が詰め寄ってほめるもんだから、沙耶が怯えてしまっているよ。確かにすごいけど、そんなに詰め寄ったらセクハラで訴えられますよ?主に俺が訴えますよ?


「翔夜ー、私の魔力量も結構すごくないっ?翔夜と剱持君には負けるけどさー、この学校で二人を除いて一番だよ!」


 沙耶が俺たちのもとへやってきて、魔力量が多かったことを嬉しそうに言ってきた。


「沙耶って以前から魔法とかいろいろ器用にこなすから、かなりすごいと思っていたけど、魔力量もすごかったんだな!」


 沙耶が嬉しそうに言ってきているので、俺も嬉しそうに褒めてあげた。だが、先程水晶を割ってしまった、神の使徒である俺が褒めてもよかったのだろうか?


「……なんだろう、褒められているはずなのに、全然褒められている気がしないんだけど……」


「あー、なんか、ゴメン」


 いや、俺は別に悪くないのだが、なんか悪いとは思っていたので謝った。さっきの嬉しい表情から一変して、悲しそうな表情になったもんだから、罪悪感が芽生えてしまった。


 だけど、いったいどうやって褒めればよかったんだろうか?こういう時に出来る男ってのは違うんだろうが、俺は全くの経験がないため無理だったな……。今度なんか雑誌でも買って勉強しようかな?


「おいお前、魔力量多かったな」


 俺がどうしたらよかったか考えていると、さっき俺に決闘をしろと言ってきた眼鏡君がやってきた。さっき宣戦布告をしていたのに、いったいどういう風の吹き回しなんだ?


「あ、どうもー」


 先程のこともあり、沙耶は眼鏡君を軽く流した。俺たちのことを侮辱したやつなんて、例え沙耶だったとしても相手にしたくないんだろう。


「僕は君に興味を持った。今日の放課後にでも、この僕とお茶でもしないか?」


 え……ナンパか?


「あー、放課後は翔夜と用事があるから、行けないんだ。ごめんねー」


 沙耶は歯牙にもかけずに飄々と相手の誘いを断った。なんだこいつは、沙耶とお近づきになりたいと思っている奴なのか?


 頬が少し赤らんでいたし、声も震えていて火を見るより明らかだった。こいつは女の子と話したことがないのか?


 そういえば、俺と話してきた女子たちも声が震えていたな。顔は赤らんでいるというよりは、真っ青だったが……。


 沙耶は相手を不快にさせないように配慮して言っているが、俺にはわかるぞ。絶対こいつとお茶に行きたくないから俺と用事があるなんて嘘を言っているんだ。だって俺、用事とか何も聞いていないから。……本当に用事とかないよな?


「なんだよー、また俺たちと話をしたかったのかー?」


 このまま話をさせていても、こいつは食い下がらないだろうと思ったから間に入らせてもらった。というか、沙耶と話したいなら俺を通してもらおうか!


「違うわ!誰がお前なんかと……!僕はこの女と話をしていたんだ、割り込んで来るな!」


「いや、もう話は終わっただろ。放課後は俺と用があるんだ。だから、諦めろ……」


 俺としては、俺のことをズルをしている奴と言っているこいつとは関わっていてほしくないから、沙耶の嘘に同乗することにした。


 そしてついでとばかりに、最後に含みのあることを言ってやった。ホントに諦めてくれるとは思ってないけどさ、マジでしつこいと思うぞ?


「き、貴様ぁ……!」


 おい、さっきまでお前らとか言っていたやつが、もうついに貴様とか言いだしたぞ?顔は先程と同じく赤らんでいるが、これは怒りで真っ赤になっているんだな。





「もう許せん!貴様は僕がこの手で成敗してくれる!」





 ……やばい、こいつはマジで言っているのに、笑いそうだ。流石に笑っちゃうのは申し訳ないから我慢することにした。だが、頬がピクピクしているのがわかる。笑っちゃだめだ、笑っちゃだめだ!


「現代で、それも大真面目にこういうセリフを言う人初めて見た」


「ふふっ」


 怜が俺の思っていたことを言うもんだから、少し笑っちまったじゃないか!笑わせるんじゃないよ!


「そ、それで……せ、成敗って……ふっ……具体的に、何を……するんだ?」


 笑いをこらえるのに必死になっていたので、変な言い方になってしまった。別に馬鹿にしているわけではなくて、このように優秀そうな人間が先程のようなセリフを言ったことに笑っているのだ。


「それは、先程も言った決闘だ!この魔力測定の後に行われる模擬戦で、貴様をこの俺が倒してやる!」


 俺の変な言い方を気にした様子もなく、会話は進んでいった。勢いづいているのはわかるが、俺を倒すのは物理的に無理なことだぞ?だって神の使徒だもの。


「すぅー、はぁー。……えっと、模擬戦ってのはなんだ?」


 笑いを鎮めるために深呼吸をして、この後行われるという模擬戦が何かを聞いた。この後にやるのは普通に教室での授業じゃなかったんだな。


「貴様は模擬戦も知らないのか!?」


 模擬戦を知らないことに驚いたような、そして俺のことを馬鹿にしたような言い方で言ってきた。なんでこいつはそう人を下に見たがるんだ?


 知らなくたって仕方がないだろう!だって俺は記憶喪失だし、それに昨日は学校に来て眠くて寝ていたんだからよ!……前半のはともかく、後半のやつは俺が悪いな。


「いや、名前からは察せるけど、具体的には何をするかはわからないんだ」


 いい加減こいつに怒ることに疲れてきたので、もう普通に大人の対応をすることにした。最初からそうしておけばよかったんじゃないかとか思うんじゃないぞ?


「はぁ……そんなことも知らないのか」


 なんで俺が知らないことを、こいつは少々癇に障るような言い方をするのだろうか?俺が中身大学生の寛容な人間じゃなかったら、お前はキレられているぞ?……俺は大抵のことは笑って許せる寛容な人間だからな!?


「いいだろう、この僕が直々に説明してやろう!」


 眼鏡君は自慢げに説明したいのか、腕を組んで説明する体制に入った。だが、こいつから教えてもらうのはなんか癪だな。


「あとで沙耶から聞くからいいや」


「な、なんだと……!」


 俺がこの眼鏡君からの説明を断ると、とても驚いたように後退った。なんだろう、この眼鏡君は感情表現が豊かなんだな。さっきから喜怒哀楽が顔にはっきり出ているからわかりやすいよ。


「それに、どうせこれが終わったら先生から説明されるだろうし、わざわざ説明してもらう必要はないな」


「……ふっ。経験者からアドバイスでもしてやろうかと思ったのだが、お前には教えてやらん。せいぜい僕に砂をかけられるように頑張ってくれ」


 そう言うや否や、眼鏡君は捨て台詞を吐いて端の方へと移動していった。


 その際に、沙耶のことをチラッと見て立ち去って行った。なんだ、沙耶にいいところを見せたいだけの思春期男子か。


 だが申し訳ない、俺は曲がりなりにも神の使徒なもんでね、手加減をすることに重視して戦うけど、俺は全く負ける気がしない!いや、負ける気なんて更々ない、勝つ気で行かせてもらう!俺だって沙耶にいいところを見せたいからな!


「いったい何だったんだろう、あの眼鏡君は」


 怜よ、お前も彼のことを眼鏡君って呼ぶことにしたんだな。まぁ俺も名前を憶えていないから、眼鏡君ってこれからも呼ぶことになるだろうけどな!


「あれだよ、青春を謳歌したいんだよ」


「なんじゃそりゃ」


 俺は眼鏡君を、若かりし頃の自分の友人に重ねてみていた。当時のあいつも、好きな人が出来たら速攻で近づいて行ったな。まぁ、キモがられて結局は振られていたけど。


 確かそいつは、成人してもその性格は変わることはなかったな……。


 眼鏡君の様子が少しだけ気になり、恐らくいるであろう場所を見てみたのだが、彼は誰とも話していないで魔力測定をじっと見ていた。もしかして眼鏡君は、友達がいないのだろうか……。まだ入学したばかりだし、これから頑張ってくれ!


「そうだ沙耶、この魔力測定が終わるまでに模擬戦について教えてくれないか?」


「うん、いいよ~」


 丁度思い出したかのように俺は隣にいた沙耶に問うた。俺は模擬戦について全然知らないから、絶対知っているであろう沙耶に教えを乞うことにしたんだ。


俺の知らない落とし穴とかがあって、反則負けとかになったらたまったもんじゃないからな。


 さて、あいつが一体どのくらいできるかはわからないが、それでも精一杯手加減をするように出来るだけ善処しようか。


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