第百二十九話 消滅
空を風魔法で飛んでいる五人の内一人を除き、俺たちは空を見上げていた。
そこには落ちてくる巨大な隕石があり、突如として俺たちの真上に現れたのだ。
恐らくは、というよりも確定的に例の男が落としたものだろう。
でなければ、あれほど巨大な隕石がこうも都合よく落ちてくるはずもない。
「どうして、あんなものが……」
鈴は驚きを露にしていた。
それもそのはずだろう。何せその隕石は、現在墜落している要塞よりもさらに大きく、月でも落ちてきたのではないかと思うほど大きかった。
「うわすっげ! 初めて隕石が落ちてくるところ見た!」
「あるじ、たのしそう」
対し、俺は驚愕ではなく興奮していた。
今までこの目で見たことのなかった隕石を目撃し、目を輝かせて内情を表へむき出しにしていた。
「それよりもぉ、隕石をどうにかしなきゃねぇ」
「要塞の方は、どうしたら……」
上と下に今すぐにどうにかなければいけない存在があり、それについて二人は焦燥感を募らせる。
だがそんなこと心配などしなくともいい。
「要塞の方は大丈夫。とても心強い助っ人が来てくれたから」
下は俺よりも強いであろう二人がおり、全くと言っていいほど問題がないのだ。
「あと隕石の方は、俺の方でどうにかしますね」
「いけるのぉ?」
「勿論ですよ」
そして隕石に関しても、相手が無機物であり延長線上に破壊して困るものがない。
それならば高火力で破壊することができるため、問題という問題はないのだ。
「……あれほど大きなものを破壊できるのですか?」
俺は神の使徒だ。ぶっちゃけ本気出せは跡形もなく消し飛ばすことは可能だろう。
それでも、鈴はそれを知らないため不安げに俺を見つめてくる。
「いえ、別に主様の力を疑っているのではなく……」
申し訳なさそうに鈴はしているが、これが普通の反応なのだろう。
常識的に考えて、あれほど大きな隕石を破壊することは不可能に近い。常人では難しいだろう。
それでも、俺はその常人に当てはまらない。
「わたしがやるー」
「いや、俺もやりたんだけど……?」
普段は面倒がって何もしない未桜であるが、今回は自らやりたいと志願してきた。
しかし俺も先程の鬱憤を晴らしたいため、ここはあまり譲りたくはなかった。
「じゃあ、はんぶんね」
言うが早いか、未桜は両腕を竜の者へと変容させ、そしてその腕を振り払った。
その振り払った先に鎌鼬が発生し、要塞以上の巨大な隕石を中央より切り裂いた。
「……うわぁ、真っ二つだねぇ」
あれほど大きな隕石を真っ二つにしてしまった未桜に、俺は驚嘆と同時に感心した。
疲れた様子がうかがえないため、片手間程度にしか考えていないのだろう。
その実力を持っていることに、俺はまるで我が子が素晴らしいことをしたかのように改めて誇らしくなった。
まぁ俺に子供はいないし、未桜は竜だから俺よりもはるか年上だろうけども。
「あ、あの! 僭越ながら私も———」
「鈴はそのお友達がいるんだから、俺ら二人に任せろ」
「……かしこまりました」
鈴には申し訳ないが、今回ばかりは二人だけで行わせてもらう。
それに隣にお友達を抱えながらでは巨大な隕石を十分に破壊することは難しいだろう。
「こちとら精神を削って守ってたんだ。ストレスを思い切りぶつけさせてもらうぜ!」
「わたしもいらいらしたー」
今回ばかりは周りの被害など考えずに、思い切り放つことができる絶好の機会なのだ。
未桜もそのつもりらしく、二人でストレス発散をすることとした。
「手加減とかしなくていいなら、本気で、今までしたことのないモノをお見舞いしようじゃあないか!」
「わたしもー」
本当に、今まで全力というものを出したことがない。
そのためいい機会であったため、未桜と同じく本気でやることとした。
「いくぜぇ……」
「それじゃあ、いくよー」
俺たちは魔力を高め、発動の準備をする。
腕が竜化している未桜は、その両腕を隕石へと向け、俺もそれに倣い両腕を隕石へと向けた。
そして言葉を紡ぎ、魔法を発動する。
「『てんぺすと』」
「『カタストロフィ』!」
同時に発動し、魔法は隕石へと直撃する。
未桜の攻撃は、嵐が意思を持っているかのように隕石へとぶつかり、そして半分に割れた巨大な隕石を切り刻んでいく。
岩は石へ、石は小石へ、小石は砂へと、無限に切り刻まれていき、最終的には何も残ることはなかった。
俺の攻撃は、言わずもがな。
「どんなもんじゃい!」
二つに分かれた隕石は、その両方とも跡形もなく消し飛ばされた。
「いえーい」
「いえーい!」
互いに嬉しそうにし、俺たちはハイタッチをする。
「流石だねぇ」
「御見それしました」
猜疑心はあったものの、それでも俺のことを信じてくれていたようで、二人は安心したような表情を浮かべていた。
「わかっていたつもりではいましたが、主様の実力は凄まじいものでした」
「わたしはー?」
「未桜も驚異的でしたよ」
「やったー」
それは褒めているのだろうかと疑問に思いはしたが、隕石を消し飛ばすことに成功したため気にしないことにした。
「あとはぁ、要塞が残ってるけどぉ……」
下を見ると、まだ要塞は落下していた。
空中分解をして瓦礫が広がって落ちていくさまが目に入る。
二人は何も手を出していないのかと、その件の神の使徒を探した。
「翔夜、ちょっと聞きたいことがあるんだけど?」
「ぅおいビックリしたな! 急に現れるなよ!」
唐突に目の前に現れた結奈に、俺は変な声を上げて驚いてしまった。
「あれ、破壊していいの?」
「あれ?」
結奈が指さす先は、要塞だったもの。
聞きたいこととは何だと思ったが、まさか要塞だったものを破壊してい医かどうかというものだった。
「まだ破壊してなかったのか」
「まだ、ってことは破壊していいんだよね」
「おう」
むしろ破壊してくれているものだと思っていた。
確かに利用価値などあるかもしれない。だがすでに俺と未桜がかなり破壊してしまっていたため、価値のあるモノは残っていない可能性があった。
「別にいいですよね?」
「そうだねぇ、もう瓦礫になってるしぃ、木端微塵にしてくれると嬉しいかなぁ」
一応、確認のために神長原さんへ許可を求めた。
シスト隊員ということで何か不都合があるかもと思い聞きはしたが、何ら問題はなかった。
「じゃあ上空から離れてて。離れてくれていると嬉しい」
「何するんだ?」
「翔夜と同じこと」
「消し飛ばすのか?」
「そう」
俺と同じことと言うと、高火力で跡形もなく消し飛ばすものだ。
それならば俺たちは近くにいないほうがいいのかもしれないが、あれほどの大きさならば、例え広がって落ちているといっても高火力である必要はないわけで。
「なら、威力は下げて———」
「翔夜もやったんだし、いいよね?」
「いや、消し飛ばす対象が———」
「いいよねぇ?」
「……いいっすよ?」
だがそんな発言を結奈が聞いてくれるはずもなく。
そう言い残して、俺たちはここから離れるべく地上へと向かった。
「誰が貧乳だこの変態クソ女神がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
途中、何か雄たけびのような声が聞こえた気がするが、気のせいだろう。
そしてクソ女神に対しての暴言が聞かれた気がするが、それも気のせいだろう。
それらが気のせいでも、結奈の放った光線は要塞を飲み込み、塵すら残さずに消し飛ばしたことは現実であった。
「翔夜、失言はしないようにしてね……?」
「善処する……」
俺たちと合流した怜は、俺に苦言を呈した。
その言葉を聞き入れ、今後絶対に結奈に対してクソ女神のような悪口は言わないと誓った。