第百二十七話 助力
未桜は鈴と目的の狐をかばいつつ、そして神長原さんは墜落させるべく奔走していることだろう。
俺は俺のできること、あの核以上の破壊力を持つ攻撃を凌いでいる。
結界は破壊され、カタストロフィで何とか応戦することができた。途中空飛ぶゴーレムという邪魔も入ったが、どうにか第一射は防ぐことができた。
そしてほんの少しのインターバルを挟み、再び攻撃が襲い掛かってくる。
「今度は結界だけで防いでやらぁ!」
先程は全力で結界を張らなかった。
言い訳だが、全力で結界を張ればあの攻撃は防ぐことができる。
「あとゴーレム邪魔だな!」
間髪入れずに俺へと攻撃を仕掛けてくるゴーレムを消滅魔法で消し飛ばす。
レーザーによる光線で攻撃してくるゴーレムを優先して攻撃するが、それでも俺への攻撃がやむことはなく。
鬱陶しいと思うほど邪魔だった。
そんな奴らを相手取りながらも、俺は結界を五重に張り核以上の超攻撃を防ぐ。
「舐めんじゃねぇぞ!」
声を大にして叫び、全力で魔力を込めて応戦する。
そして何とか、結界が破られることなく第二射を防ぐことができた。
「はっはー! 見たことかこの野郎! 本気で結界を張れば防ぐことなんざ造作もねぇんだよ!」
ガッツポーズをとり、だがそれでも疲れていることに変わりはないため疲労が顔に出てくる。
「だけど、もう撃たないでくれると嬉しいな!」
そう苦言を申しつつ、機械兵、もといゴーレムを消し飛ばしていく。
ゴーレム自体はしっかり対処すれば何ら問題のない敵である。
しかしだ、ずっと気を張っていなければいけないためかなり疲れる。
「いや~ちょっと待ってほしい、魔力はまだあるけどちょっと精神的に疲れてきたよ!」
三度魔力があの要塞の下部へと収束していき、直下へと発射する準備をする。
「第三射とか、もう発射限界とかないんじゃないのか!?」
インターバルもなかったため、連続して何度でも撃つことができると踏んだ。
あの男は恐らくどこかで俺が困っている様子を見ているのではと、そう思ってしまう。
「いやまだいける! 俺ならいける! 未桜が戦ってるのに俺がへばってどうする!」
大声で自身を鼓舞し、少々弱気になっていた心を奮い立たせる。
ちょっと逸らして楽しようかなぁ、なんて考えは捨て去り、正々堂々真正面からねじ伏せる。
「おら来てみろやこの野郎!」
そういい俺は三度結界を張るため構えるが、しかしとあることに思い至った。
「いや、そもそもアレ自体を破壊すればいいのでは……?」
ふと、そう思って口にしてみたが、なぜ今まであれ自体を破壊しようと思わなかったのだろうか。
「そうじゃん! あれ破壊しよう!」
装置だけを破壊すれば、未桜に迷惑がかかることなく、また神長原さんにも迷惑が恐らく掛かることがないだろう。
そう踏んで俺はすぐさま発射されそうになっている要塞下部の装置を消滅魔法で消し飛ばした。
「ハッハッハ! 最初からそうすればよかったん……だ、よ?」
これでゴーレムの穴も塞いでしまえば終いだと、そう考えていた。
だがそう思ったのも束の間、発射装置はみるみるうちにその姿が元に戻っていく。
「なぁんで再生するの!?」
まるで時間が元に戻っているのではないかと思うほどに再生していく。
その様を眺めつつ、しかし少々異なることがあった。
「おっと数が増えていませんか?」
某アレのように、柱が中心を囲むように生えていたのだが、その柱の本数が増えていた。
いったいそれで何が変わるのだろうかと眺めていると、柱が増えたことで、収束されていく魔力量が段違いに増えていることに気が付いた。
「いやいやいやいや! それはちょっと無理だって!」
初撃だけでも全力で魔力を込めなければ破壊されてしまうものだったというのに、それが威力を増してしまっては防ぐことが困難になってしまう。
「どうする……!」
全力で頭を回転させ、そしてゴーレムを屠りつつ思考する。
幸いなことに、再び発射するためには先程よりも時間を有するらしく、時間には多少猶予があった。
そして考えた中の一つで、あまり使いたくはない手ではあるが、可能性が高いものがあったためやってみることにした。
「おいクソ女神、俺を助けやがれ! 元はといえばお前の招いた問題だぞ! だから何とかしろ!」
上へと、天へと向けて俺は全力で叫び、神頼みをした。
クソ女神ならばどうにかしてくれるはずだろうと、事の発端である張本人ならばどうにかするだろうと、そう踏んで俺は叫んだのだ。
そしてその願いが届いたのか、手紙が一通落ちてくる。
「ん? 手紙?」
どうして手紙が、と思いつつもその封を解き、中を拝見する。
すると、そこには走り書きをしたであろう字で書かれていた。
『幼馴染も守れないで彼氏を名乗れるんですか?』
「ほぅ?」
これはあからさまに煽っているということがわかった。
だがそれでも言っていることは正しく、俺が納得できるものだ。
その一文で俺を奮い立たせるには十分すぎるものであり、
「やってやろうじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
挑発に乗りクソ女神の望む形になってしまった。
だが、確かに沙耶を守れず何が彼氏かと、恋人を名乗れるはずもないだろう。
「おら来てみろや!」
怒りに身を任せて、要塞と直下の延長線上に五重の結界を合計三つほど出現させた。
そしてあちらも準備が整い、非情にも先程の倍以上の威力で放たれたそれは、威力を殺さず結界へと衝突する。
「うっわ思っていた以上にキッツ!」
直撃し結界は軋みを上げて次々に割られていく。
「結界が持たねぇ……!」
「消滅魔法思い切りぶっ放してやる!」
「防ぎきってやったぜ!」
再びガッツポーズをし、防ぐことができたことを喜ぶ。
「全く、なにやってんの」
そんな俺に話しかける人物がいた。
「えっ、結奈? と怜も」
「お疲れさま」
二人の顔を見て、先程あった精神的な疲れよりも安堵感が上回った。
「二人はどうしてここにいるんだ?」
「ちょっと女神さまから手紙をもらってね」
「あー……」
俺の受け取った手紙と同じようなものを二人は手にしており、それのおかげで駆けつけることができたのだろう。
そういえば、助けを呼ぶことも出来たなと、今更ながら思い至った。
「あのクソ女神、僕のことを煽ってきたんだ。ふっふっふ……」
「なんて煽られたんだろうか……」
「さぁ、僕もわからない……」
恐らく、結奈の触れてはいけない逆鱗にクソ女神は触れてしまったのだろう。
触らぬ神に祟りなしというし、追及しないでおこう。
「取り敢えず、あれを破壊しなきゃね」
「ちょっと待て、あそこには俺の使い魔がいるからやめてくれ」
破壊しようと結奈は構えるが、そこに俺は待ったをかける。
「じゃあ使い魔を助ければいいんじゃない?」
「あー、まぁいろいろあるんだよ! 説明するのが面倒だな! あとで説明するから今はあの攻撃を防いでくれ!」
何処から説明したものかと悩んだが、発射するまで時間がないことを悟り説明を放棄する。
「はぁ、わかった」
とりあえずは納得してもらい、あれを三人で協力して防ぐ運びとなった。
だが、神の使徒がそろったのならば俺がいる必要はないのではないかと思い、胸中を話す。
「あのー、出来れば俺は使い魔の手助けに向かいたいんだけど……」
未桜に任せ、それでも問題はないだろうと判断はしていた。
それでも心配はしてしまうのは仕方のないこと。
なればここは二人に任せて自分は使い魔の援助に向かいたいと考えたのだ。
「貸し一つでいいよ?」
「お前ってホントいい性格してるよ!」
何を要求されるのだろうか。結奈はそれだけ言って上を見る。
「僕はご飯奢ってほしいかな」
「このお金持ちが! 焼肉でいいか!?」
「貶しながらでもちゃんと奢ってくれるんだね……」
それくらいならば別に構わない。
怜もそう言って超攻撃を防ぐべく上を向く。
「じゃあ、よろしくお願いしまーす!」
俺はそう言い残すと高速で滑翔して使い魔の下、未桜の助けへと向かった。