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第百二十三話 兵器開発


 歩き回ること数十分。


 俺たちは警備がとても厳重且つ堅牢な扉の近くへとやってきた。


「なんか如何にもなところについたな」


「あそこにいるのー?」


 小銃を持っている者たちが複数人おり、見えていないとはいえ簡単に侵入することはできないだろう。


 そのため俺は、千里眼を使って中を確認することにした。


「千里眼で見るとだな……いっぱいいるな」


 見えるその場所は、折に収容されている魔物が多数存在していた。


 俺の見たことのある魔物から知らない魔物、はたまた人間までもがその場所にいた。


 あまり見ていて気分のいいものではないため、軽く全体を見るだけにした。


「そこに、銀髪で私のような狐の女性はいませんか?」


「あー、ちょっと待ってろー」


 鈴にそう言われ、俺は銀髪の狐少女を探した。


 未桜のような髪に、鈴のような九尾みたいな少女。それに当てはまる人物はなかなか見つからない。


 だが、似たものならば見つけられた。


「えーっとだな、銀髪の九尾は見つけたけど、そいつか?」


「そうです、その方が目的の方です」


 毛並みが銀色で、とれも綺麗で清い感じがする魔物であった。


 大人しく檻の中で蹲っており、それでもなお気高い印象を受け、ぽつりと本音をこぼす。


「……綺麗だなぁ」


「わ、私のほうが綺麗ですよ!」


「お、おう、そうだな……」


 張り合っているのか、敵に聞こえてしまうのではないかという声量で反論してくる。


 甲乙つけがたいものだが、ここは鈴を立てることとしよう。


「わたしはー?」


「未桜は綺麗というより、可愛いだな」


「やったー」


 肩車している未桜は、ただ自分も褒められたいだけだろう。


 軽く受け流して、俺たちは転移魔法で中へと侵入する。


「さっさと助けに行くか」


「はいっ」


 誰にも気づかれることなく、俺たちは中へと侵入してその目的の魔物の前までやってきた。


 そしてその檻を破壊しようとしたのだが、その前に俺たちは後ろを振り向く。


「やぁ、待っていたよ」


 突如として俺たちの後ろに現れたその男は、とても不気味な笑みを浮かべてこちらを見ている。


 気配がして後ろを振り向いたが、いつ現れたか全くわからなかった。


 そして話しかけてくるそいつは、しかし現在俺たちは鈴の認識阻害の魔法にてバレていないはずだ。


「君たちだよ、三人の侵入者たち」


 だが発言からも、その視線からも俺たちを認識しているといった様子だったため、俺たちは観念してその姿を現す。


「圧力センサや音波ビデオで侵入者がいることはわかっていたんだ」


「くっそ、現代科学に負けた!」


「もう少し改良を加える必要がありそうですね……」


 俺たち三人はマントを脱ぎ、鈴が回収して異空間へと仕舞う。


 未桜も敵に見つかったということから、俺の方から降り辺りを警戒する。


「直ぐに確保してもよかったのだが、どうせなら私の実験に付き合ってもらおうかと思ってね」


「……実験とは?」


「なぁに、難しいことじゃあないよ」


 この男を倒すことは簡単だろうが、それでも情報を話してくれそうだったため聞くこととした。


 それでもあたりの警戒は緩めず、戦闘態勢を崩さない。


「時に翔夜君」


「いま、主様の名前を……」


「どうせあのクソ組織の人間なんだから、俺の名前くらい知ってるだろ」


 アポストロ教の人間ならば、俺の名前を知っているだろうと予想できる。


「君の力はとても強大なものだ」


「どうも」


「だから、その力を我々のために使うことは———」


「却下だ!」


 俺は神の使徒であるため、その力は絶大なものだ。


 だがそれを、こんな組織のために使うなんてことはまっぴらごめんである。


 しかも沙耶を危険にさらした組織ならばなおのこと。


「残念だなぁ……」


 残念そうにせず、その笑みは崩さぬまま首をかしげる。


 その不気味さに、俺は早々に片を付けようと気絶させるための魔法を発動しようとする。


「おっと、妙な真似はしないほうがいいよ?」


「それは……?」


「このスイッチを押せば、その魔物を簡単に殺すことができるよ?」


 まさかそんなものが用意されているとは思わなかった。


 だがそれが何だというのだ。


 俺は時間停止を行い、そそくさとそのスイッチを奪い取る。


「スイッチがあれば、だがな」


「あれ、時間停止でもしたのかな?」


「あぁ」


 俺は目の前でそのスイッチを破壊し、不敵に笑う。


 しかし男は焦った様子は見られなかった。むしろあらかじめ俺がそう行動すると読んでいたかのような、そんな笑みを浮かべる。


「でも残念だったね、それはダミーなんだ」


「ダミー?」


「本物は僕。僕がこの魔物とリンクしているから、僕の意思で殺すことができるんだよ~」


 そこまで用意周到にしているとは思わなかった。


 そこまでされているのでは、俺にできる手立てはほとんど残されていない。


 そしてこいつは、リンクしているといっていたことから、こいつを殺害しても一緒に死んでしまうのだろう。


 そのほかにも対策は練られているだろうから、今は何もしないことが最善だ。


「賢い君たちならば、僕の話を聞いてくれると信じているよ?」


「仲間にならなければ、殺すのか?」


「そんなことはしないよ。ただ、僕の話を聞いてくれればいいからさ」


「……わかった」


「主様っ!?」


「話を聞くだけだ」


「賢明な判断だね」


 仲間になるわけではなく、ただ話を聞くだけならば何ら問題はないだろう。


 そして制御室に行った神長原さんのために時間を稼ぐことができるため、話を聞くことがよいと判断した。


「いやねぇ、何も報酬もなしに手伝えって言っているわけじゃないよ」


 身振り手振りで俺たちに訴えかけてくるその姿は、まるで道化のようだった。


「君の幼馴染……なんて言ったかな」


「お前、まさか……!」


「あぁそうそう、東雲沙耶ちゃんだ」


 ニタァと笑い、相手は前のめりで俺に問いかけてくる。


「彼女に危害は加えられたくはないだろう?」


「お前は、俺を怒らせたいのか?」


 その不気味な笑みとは対照的に、俺はそれに怒りを覚える。


 魔力が俺の中から溢れ出ていき、空気が重くなっていくのが感じた。


 しかしこれでは敵の思うつぼだと思い、俺はその滂沱の如く流れる魔力を抑える。


「いやいや、違うよ? 話は変わるけど、君は町の人たちは大切かな~?」


「はっ? お前はいったい何の話をしているんだ?」


 唐突に話が変わり、こいつの言いたいことは何なのかわからなくなってきた。


「まぁ普通の人間なら、誰だって近しい人が死ぬことは悲しいよね~」


「だから、お前は何の話をしているんだ?」


 沙耶の話になったと思いきや、今度は町の人の話である。


 本当に訳が分からなく、彼の言いたいことが何なのか予測することができない。


「ところで翔夜君は、この要塞の下を見たかな?」


「いや、見てはいないが……」


「そっかぁ」


 残念そうに、しかしそれでいて嬉しそうにしていた。


 またしても話が変わり、会話というものができない相手なのではないかと思ってきた。


「じゃあ、実際にやってみたほうがわかるかな?」


「なに?」


 そう言うと、彼は懐から青い結晶を取り出し、そしてそれを飲み込む。


 その後ボソッとなにかをつぶやくと、それと同時に地響きのようなものが起こった。


「おー、すごい衝撃だねぇ」


「な、なんだ?」


「いったい、何が……?」


「おっとっとー」


 立っているのもやっとという衝撃に、俺たちは地面に膝をついて衝撃が収まるのを待つ。


 ここは空中要塞だというのに、先程の衝撃はいったい何なのか想像できなかった。


「ここは今、海の上にいるんだぁ」


「お前は、さっきから何を言っているんだ」


 この男が言おうとしていることが何なのかまるでわからない。


 そして先程の衝撃はなんなのかもわからない。


()なら察してくれるかと思ったんだけどなぁ……」


「俺なら?」


 早々に助け出して逃げ出したい気持ちだったが、男は俺ならば理解できるといった。


 その意味を考えていると、男は話し続ける。


「僕は魔法だけじゃなくて、科学にも力を入れていてね、さっきのは『インドらの矢』……光弾を撃ったんだ」


「インドラの矢? 光弾?」


「簡単に説明すると、膨大な魔力を収束させて直下に落として巨大な爆発を引き起こす兵器だね」


「なっ!?」


 その言葉で、彼が言いたいことを理解した。


 男は、その兵器で日本を攻撃しようとしているということだ。


 つまり俺は、沙耶と町の人の、その両方を人質として取られたということだ。


「これを持っていれば、制御室にいなくても僕の意思で撃つことができるんだ~。まぁインターバルが一分くらいあるけどね」


 神長原さんが制御室を制圧して、そしてこの要塞を墜落させようとしている。


 だが制御室を制圧したからといって、その攻撃を事前に防ぐことはできないのだろう。


 尚且つ、それまでに複数回攻撃できるだろうことから、墜落するまでにも攻撃されてしまうかもしれない。


「ここに来る途中でも見たと思うんだけど、あのロボットも出撃させることができるんだよ~」


「アイツも……」


 恐らく俺が見たものは壊れたか修理していたものだろう。


 俺の予想通りなら、人類に甚大な被害をもたらすこととなる。


 冷や汗を流しつつ、それを悟られないよう平然とする。


「いやぁ、一度はやってみたかったんだ~」


 その発言で、こいつがいったい何を開発したのか理解した。


 元々ここへ来た際にもしかしてという漠然とした思いがあった。それが今、確信に変わった。


「お前もしかして、俺と同郷か」


「そうだよ。漸く理解してくれたか~」


 俺の知っている通りならば、それは核をも凌ぐほどとてつもない破壊力を有していることになる。


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