第百二十一話 父さんは嘘つきじゃなかった
使い魔からの告白を受けて、俺は一緒に同行してくれる大人を探した。
しかしそのような危険極まりない場所へと同行してくれる人など限られている。
つまりは、恐らく母さんもシスト隊員の誰かを連れていけという考えなのだろう。
そのため俺は、都合がつきそうな隊員に声をかけることにした。
しかし問題があった。
「このタイミングでの告白は、アタシはいいと思うぞ?」
「ですが、それだと———」
現在俺たちは、校長室にて沙耶に告白するプランを考えていた。
ああだこうだ、そこが違うなどと発言にそのような話が聞こえてくるが、俺は一つ気になることがあり尋ねる。
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「あん? なんだ、言ってみろ」
ホワイトボードに様々なことを書き込まれていたが、俺の発言によりその手が止まる。
俺のことで話し合っているところ申し訳ないが、言わなければいけないことだってある。
「なんでシストの隊員が知ってるんだよ!?」
そう、ここには校長と観月先生だけではなく、土岐兄妹を除いたシスト隊員たちがいた。
「なんでって、そりゃあアタシが言ったからな」
「これ沙耶にバレたら終わりなんだよ!? なぁにさも当然のように話してんだよ!」
何処ぞのクソ校長がシスト隊員に言いふらした沙耶に告白するプラン。
みんなで仲良く俺の恋路を見守ろうってか。
「でも告白とか、翔夜青春してんだな!」
「青春はいいことだよね~」
「これで、漸く私は許されるんだね……」
「ホント皆さん楽しんでますね!? あと耀さん、俺はもう怒っていませんから!」
悪魔の瞭太は他人事のように、ただ楽しんでいるようであったし、ペストさんといい耀さんといい俺のことを親身になって考えてくれる人はいないのだろうか。
「っと、大体こんな感じか?」
「そうですね」
「いい感じぃ」
「だな」
「勝手にまとめないでくれません! ……でもあざっす!」
栂野さんや神長原さんも相槌を打ち、俺が介入するまでもなく話が終わってしまった。
それでも俺では考え付かなかったことなどがあるため、正直なところ嬉しく思っている。
それはそれとして……。
「それであの、物凄く申し訳ないんですけれども……」
「あー、使い魔のことだろ?」
「えっ、知っているんですか?」
「ししょ……お前の母親から聞いた」
「そうだったのか」
母さんが根回ししてくれていたようで、話がスムーズに進む。
「だが、アタシはついていけない」
「な、なんですと!?」
事情を知ったうえで、雪先生は同行を拒否する。
「アタシがいなくて寂しいだろうが、これでも多忙な身なんでな」
「寂しいとは思っていませんので、ほかの人に頼みますね」
「おうコラちょっと表出ろや」
元々雪先生ならば、なんだかんだ言ってもついてきてくれるのではないかと思っていた。
しかし予想は外れ、次の目星に目を向ける。
「観月先生はどうでしょう?」
「ごめんね、私も校長と用事があるの」
「そうですか、残念です」
「なんでアタシよりりほを敬ってんだ?」
社交辞令が必要な相手と不必要な相手をわきまえているのだ。
誰が雪先生に礼儀をわきまえるかっての。敬われたいのならば、敬われるようにすればいいのだ。
簡単である。俺を馬鹿にしなければいいのだ。
「さて、どうしたものか……」
チラッと、ほかの隊員を見る。
「あー、俺も普通に表の仕事があるからな」
「保育士ですものね、頑張ってください」
「僕たちも普通に仕事があるから、ごめんね~」
「まぁ仕方がないですよ。学生のように夏休みなんてないですからね」
俺はこれから夏季休暇ということで、
瞭太は悪魔云々以前に成人していないため、当然ながらダメである。
「じゃあ、どうするかな……」
ほかに当てがないため、どうしたものかと思案する。
「私がぁ、暇だよぉ」
「…………誰か大人の方、いないかなー」
母さんは大人の同行が必要といっていた。
俺の知り合いで他にいたか、この世界へ来てからの記憶を頼りに考える。
「大人の私がぁ、いるよぉ?」
「………………誰か常識のある『しっかりとした』大人の方はいないものか」
思慮分別がある方は、いったいどこにいるのだろうか。
最終手段として、母さんに泣き落としでも使うことを視野に入れなければ。
「ねぇえぇ、流石に私もぉ、怒るよぉ?」
「いやだって、神長原さんですし……」
ずっと聞こえないふりをしていたが、神長原さんを大人と定義してもいいものだろうか。
彼女の場合、年齢しか大人と言えないと俺は考えている。
「それってぇ、どういうことかなぁ?」
「そういうことだろ、察しろヒキニート」
「ちょおっとぉ、表に出ようかぁ」
「おう望むところだこの野郎!」
「やめてください二人とも」
二人が争いを始めようとすると、弟子である観月先生が止めに入る。
そんな『大人』を眺め不安になりつつも、しかし同行してくれそうな大人もいないことで決心する。
「では他にあてもないので、よろしくお願いします」
「任されたよぉ。準備するから外で待っててねぇ」
「わかりました」
ない胸を張り、これでもかというほどドヤ顔で雪先生へ向く。
一触即発という雰囲気であるが、全員いつも通りであるかのように各々解散していった。
残された俺も、巻き込まれないうちにそそくさと外へと出ようとする。
「おう翔夜、話がある」
「なんすか?」
二人は争うことはなく、ふと思い出したかのように雪先生は話しかけてきた。
「お前アポストロ教のところに乗り込むんだろ?」
「まぁ、乗り込みますね」
「そいつらがな、洗脳魔法を行える奴が複数人いるそうなんだ」
「……それで?」
もしもというときのためだろう。
だが俺からしたら、神の使徒を洗脳するほどの実力を持っている者なぞいないだろうと考えている。
考えたとて、杞憂で終わるだろう。
仮に使い魔たちが洗脳されても、直ぐに洗脳を解除すればいいだけの話である。
「念のためな、一応知らせておこうかと思ってな」
「俺はともかく、雪先生も気を付けろよ」
転生者でも、神の使徒ではない雪先生のほうが危険性は高い。
「お前がアタシの心配とか、明日雨降るんじゃないか?」
「人の好意を何だと思ってんだ!」
「はいはいわかったから、とっとと行け」
「あんたが呼び止めたんだろうが!」
好意を無駄にするような発言に噛みつき、俺は校長を置いてそそくさと校長室を後にする。
後者の外へ出て、使い魔を呼び神長原さんの準備を待つ。
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「えっと、この人が神長原さんで、今回同行することになった一応大人の人です」
「一応はぁ、余計だよぉ?」
「すみません」
準備が整った神長原さんを使い魔へと紹介する。
「よろしくお願いします。主様の使い魔の鈴と申します。以後お見知りおきを」
「わたしはー、みおっていうのー。よろしくねー」
「よろしくぅ」
お互いがお互いを認知するが、俺はこの光景は誰にも見られたくないと思ってしまう。
だって、ロリが二人いる時点で俺が犯罪者に間違われそうなんだもん。
巫女服着ている狐女の子もいるし、そういうプレイだと思われそうだよ。
「挨拶は終わったことだし、とっとと向かおうか」
早々に移動をしたかったので、俺はそう提案する。
「ところで、場所はわかってるのか?」
「はい。未桜に連れて行ってもらう予定です」
未桜ならば、竜であるから移動にはもってこいである。
だが。
「俺の転移でもいいと思んだけど?」
俺の転移魔法でも移動することは可能である。
行ったことがない場所でも、千里眼で見れば簡単にいくことが可能である。
「いえ、千里眼で見えなければいけないので……」
「見えない場所にあるのか?」
「そう、ですね。外からは見えないようになっています」
「じゃあ仕方がない。未桜に乗って行くか」
だが、見えなければ俺は転移することができない。
ほかにも手段は存在するが、せっかく未桜に乗る機会だ。今回は未桜に頼ることにしよう。
「因みに、それはどこにあるんだ?」
「定期的に移動しているため、何処とは断定できません」
「移動している?」
言っている意味を理解できず、思わず聞き返してしまう。
研究施設が移動しているということだろうが、そのようなことが可能なのだろうか。
「はい。その場所は『天空の要塞』となっておりますので」
それを聞き、俺はとある想像をしてしまった。
「……それってもしかして雲で囲まれてない?」
「よくご存じですね。魔法により積乱雲のように雲で覆われ、外から見られないようになっているんですよ」
「そっかぁ……」
○の巣かぁ、などと心の中で思い、それならば見つけることは困難であると納得した。
「滅びの呪文とかないかな……」
一言いうだけで落ちれば、と思ってしまう。