第百二十話 お願い事
少々遅れてしまって申し訳ありません!
どうぞ、百二十話をお楽しみくだされば幸いです!
現在全学年の全生徒が講堂へと集められ、とても短い校長のありがたい話を聞いている。
試験も終わり、無事乗り越えることができたため明日より夏季休暇に入るのだ。
そのため本日は授業でなく、終業式というものである。校歌歌ったりする例のあれである。
もちろん、俺は式が終了するまで寝たのだが、それはさておき。
「っしゃあ!!!!!!!!!」
「ど、どうしたの?」
式は終わり各々帰路へと着くこととなった現在。
俺は人目も憚らずに叫び声をあげた。
「夏休みだぞ夏休み!!!」
夏休み。夏季休暇。
なんと良い響きだろうか。学校へ行かずに毎日遊びまくることができる長期休暇である。
これを喜ばすにいられるわけがあるか。
否。断じて否である。
俺のような学生ならば、ガッツポーズをとって喜びまくるであろう。
「勉強しまくっていたからな! 長期の休みがあるのは嬉しいことじゃないか!」
長期休みということでもうれしいのだが、今回は試験勉強もあったため尚更うれしいのである。
「勉強は翔夜がしていなかったからでしょ」
「はいそこぉ! そういう発言は控えていただこう!」
ここで横やりを入れるような無粋なことは許されない。
誰しもが夏休みを待ちに臨んでいたはずだ。
異論など認めない。
「それにしても、テンション高くない?」
怜は俺が異様に大はしゃぎしているように見えるだろうが、何を隠そうその通りである。
「みんなとの旅行が楽しみだからな!」
実を言うと沙耶との旅行が楽しみなのである。
「そうだな、旅行というものは俺たちも楽しみだ!」
「うん、楽しみ」
土岐兄妹は今まで旅行なんてしたことがないだろうから、俺のように疚しい気持ちなく純粋に楽しみにしているのだろう。
だがしかし、俺もみんなとの旅行は嘘偽りなく楽しみである。
「ねぇねぇ翔夜」
「なんだ?」
そんな楽しそうにしている俺に、結奈は少々躊躇いつつ話しかけてくる。
そのような、しおらしい様子というのは初めてであるため驚きつつ、どうしたのかと尋ねる。
「ばーか」
「んだとのこの野郎!」
「しまった、本音が……じゃなくて」
「本音なんじゃねぇかよ!」
只々罵倒されただけであった。
本音といっているところにツッコみはするも、それ以外に言いたいことがあるようなので聞こうではないか。
「あのさ、結衣ちゃんも旅行に連れていけないかなって」
「結衣もか?」
「そうそう」
なんと、結奈から妹を招待すると言っているのだ。
「一緒に来た方が楽しいんじゃないかなって」
「そうかもしれないけど、今は受験期だし……」
「息抜きも大事だよ」
事実結衣は今受験であるから旅行を拒む可能性もある。
もっともな理由を付けて先に断っておいた方がいいのではないかと思い、俺は勝手に断るものの結奈はめげない。
「私もいいんじゃないかなって思う」
「沙耶も?」
そこへ沙耶の援護射撃があった。
「旅行は多いほうがいいのではないのでしょうか?」
「そうだね~」
エリーも怜も賛同してきたことで、流石に無碍にすることも出来なかった。
「じゃあ、本人に確認とってみるか」
「よし、翔夜なんかよりは妹ちゃんのほうがいいもんね」
「おうお前を置いて行ってやろうか?」
ちょくちょく本音を漏らしているため、旅行には結奈を置いていこうかと本気で悩む。
それでも妹を旅行へと誘ってくれたことは普通に嬉しく、寧ろ感謝している。
絶対に本人には伝えないが。
「予定は追々伝えるね」
「あいよ」
別荘といっても、管理など様々な問題などあるだろうから、使える日があることを確認してその日に都合をつけてみんなで行こうということで本日は解散となった。
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「それでさ、まだ何時って決めたわけじゃないんだけど、夏休みに結衣も一緒に旅行どうかなって」
そして本日、俺は夕食の場で結衣に旅行のことについて尋ねてみる。
「行っていいの?」
「寧ろ来てくれた方がみんな喜ぶな」
主に結奈がとても喜ぶことが予想される。
期末試験の勉強にて、やたら結衣のことを気に入ってくれていたからな。
それに、俺も普段あまり話せていないから、こういう時に来てくれると嬉しく思う。
「うん、行きたい」
「よし。それじゃあ怜が都合付けてくれるから、そしたら日付とか諸々教えるな」
「海、なんだよね」
「そうだな」
「楽しみに待ってる」
「おう」
そういうと、頬が少し緩むのが見えた。
これは嬉しいと思っていると捉えていいだろう。
「なんだかいつも以上に楽しそうね」
「そ、それはまぁ、旅行だし」
母さんも結衣が嬉しそうにしていることを読み取り、自身も嬉しそうに話しかける。
「大好きなお兄ちゃんと旅行だもんね」
「ぶっ!」
そう母さんは言うと、食事中に結衣は口内のものを吐き出しそうにしてしまった。
「ちょっとお母さん! 言い方に語弊がある!」
「あらあらごめんなさいね~」
立ち上がって、顔を真っ赤にして結衣は怒りだした。
俺は妹がいなかったから、大好きだと言われても嬉しいのだが、それは普通ではないのだろうか。
「そりゃあ、兄さんのことは好きだけど……そういうのじゃないから!」
これはあれだ。ツンデレというやつだ。
はじめてお目にかかったが、そういうやつで間違いないだろう。
妙に感心してしまい、食事中ずっとそのことについて考えてしまっていた。
そして食事も終わり、自室へと入る。
「夏休みか……くふふっ」
旅行を考え、そして沙耶への告白のことを考え、頬が緩んでしまう。
何時、何処で、どのような状態で告白するか。一世一代のことであるため、綿密に計画を立てる必要があるのだ。
その計画のことを考えたら、にやけずにはいられなかった。
「主様……」
「うぉお!?」
背後より唐突に話しかけられたため、驚いて椅子から転げ落ちそうになってしまった。
「も、申し訳ございません……」
「いや、大丈夫だ。それで、どうしたんだ?」
驚かしてしまったことに謝罪してくるが、そんなことよりも俺のにやけ顔を見られていないだろうか。そんでもって不気味に一人で笑っていたところを見られていないだろうか。
反応からしてみていないだろう。見ていても素知らぬふりをしているので、何も問題はないと判断しよう。そしていい主を演じよう。
「その、ご相談がございまして……」
「なんだ?」
「その、少しの間だけ……と言っても一日二日ほどなのですが、お暇をいただけないでしょうか?」
何を言い出すのかと身構えたが、それは休暇を欲しいということだった。
使い魔が常日頃からいるわけでもないし、いないならいないで自分でどうにかする。
唐突にモフモフしたくなったら困るが、いなくなって生活に支障がでるということはない。
「別に構わないが、いったいどうしてだ?」
「その、とある人に会いに行くといいますか……」
「歯切れが悪いな」
「申し訳ありません……」
目線を合わせず、もじもじと言い訳を考えている様子。
どうにも俺には伝えたくないらしく、はぐらかされているようだった。
「俺には話せないことなのか?」
「話しますと、迷惑をかけてしまいますので……」
「迷惑とは思わない。どちらかというと、今みたいに辛そうにしている方が俺としては困るな」
「も、申し訳ありません!」
「いや謝らなくとも……」
俺のことを考えてのことということはわかる。
それでも、そのように辛そうにさせてしまっているとを看過することは俺にはできない。
「それで、いったいどうした?」
「そのですね……」
鈴は意を決したように、話し始める。
「実は私にも友人がございまして、今までどこにいるかなどわかっていなかったんです」
「そうなのか」
「ですが最近、その友人の居場所が分かったんです」
九尾にも友人がいたのかと、変なところで感心した。
だが次のことがを聞いて、どうして言いたくないのか理解した。
「しかしその場所は、件のアポストロ教の施設なのです」
「つまり、その友人は捕らわれの身、ということか?」
「はい、その通りでございます」
俺は以前よりかなり、いろいろな意味でお世話になったところである。
それは確かに気まずかもしれない。だが……。
「それで?」
「それで、とは?」
素っ頓狂に、意味が分からず逆に尋ねられる。
「いや、それで迷惑になることってなんだ?」
「……私はこれから、そのアポストロ教に乗り込むことになるんですよ?」
「おう」
「そうなれば、必ず迷惑をかけてしまうでしょう……」
「そうか」
「そうかって……危機感をもう少しお持ちください」
当人はとても真剣に話しているが、どうしても俺は危機感を持つことができなかった。
寧ろどうしてそこまで必死になって俺の介入を断ってくるかわからなった。
「あのな、鈴ってもしかして馬鹿なのか」
「ばっ……!?」
思ったことを口に出してしまったが、俺はそのまま続ける。
「俺、もう喧嘩売ってんだぞ?」
「で、ですが……今回は主様に直接的に関係ありません。それに頼る相手もいません」
「今更アポストロ教の施設を一つや二つ破壊したところで変わらんだろう。それに俺たちだけでも問題ないって」
喧嘩を売った以上に施設の破壊や計画をつぶしたりしているのだ。
それなのに、自身の使い魔の友人を助けることをしないでどうするのだと。困っている使い魔のために、一肌脱ぐことも出来ないのかと。
俺は鈴が困っているのに助けなくて何が主であるか。
「未桜もつれていけば、戦力として申し分ないだろうしな」
「未桜も、ですか?」
「それでいいか、未桜?」
「べつにいいよー」
何処からともなく現れた未桜は、いつも通りの間延びした声で応答、了承する。
「ありがとう、ございます……!」
「いいって。前にお願い事を聞くって言っていたし、それだよ」
「そう、ですか……」
とてもうれしそうにしてくれたため、これについてはもういいだろう。
「さてさて、旅行前にちゃちゃっと片を付けますかね」
明日より夏休みということで、時間ならば多く存在している。
旅行を行う前に、この問題を解決しなければならなくなったわけだが、俺はもちろん暇であり自身の大切な使い魔のためである。何の苦でもない。
しかし俺の中では直ぐに向かってもいいのだが、その前にやることがある。
必ずと言っていいほど、やらなければならないことである。
もしこれを行わなければ、俺には制裁が下されるであろう。
「んで母さん、ということなんだけども……」
行わなければならないこととは、母さんに伝えることである。
また勝手に行えば、今度こそ何かしらの制裁が与えられるだろう。そんでもってその制裁がなにかわからないから怖い。
「あぁもう! 次から次へと!」
「申し訳ありません、お母様……」
ため息を一つつき。
「助けるなら、しっかり助けに行きなさい!」
「当たり前だな!」
堂々と答え、そして期待に応えるよう努める所存である。
「それと、絶対に翔夜たちだけで行かないこと!」
「大人を連れて行けと?」
「本当に譲歩してって言うことを理解してね?」
「ありがとう!」
本気で感謝し、頭を全力で下げる。
「もし何か私の看過できない問題でも起こしたら……わかっているわね?」
「イエス、マム!」
母さんの看過できない問題とは何だろうか。