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第百十九話 追試と期末


 俺の追試験の勉強に、唐突に結衣が参戦することになった。


 俺に教えてくれるといっても、人数が多いとは思っていたため問題はなかったが、流石に俺に教えずに結衣ばかりに構っているとは思わなんだ。


「中学生でこんなにできるんですか……」


「昔から思っていたけど、流石だねっ」


「自慢の妹です!」


 図書館にて勉強を始めた俺たちは、しかし結衣が思っていた以上の学力を発揮したため、俺を含め全員が驚きを禁じ得なかった。


「すごいね、確か中学生なのに……えーっと」


「あ、結衣といいます。勉強は一応兄の背を見てきたので、その影響で頑張りました」


「兄の背を見て?」


「……ふん!」


 昔はとてもできていたのだろうから、その背を見て頑張ってきたのだろう。


 兄としてとても誇らしく、顔がにやけてしまう。


「悪いことは言わないから、翔夜はやめときな」


「おうコラそれはどういうことだ?」


「目指すなら沙耶にしておきな?」


「それには同意する」


 結奈は俺を目指すことはやめるように言ってきたが、本人がそう言っているのだから否定しないほうがいいだろう。まぁ俺がたんに嬉しかっただけなのだが。


 そして俺よりは沙耶のほうがいいと内心思っているため、それには全く反論ができない。


「沙耶さんにはもうしわけなんですけど、私の中では兄が一番尊敬している人なので……」


「おう今のセリフ聞いたか? 俺泣いちゃいそうだぜ!」


 恥ずかしそうに言う結衣を見て思う。


 そのようなことを思いながら俺のことを見ていたと思うと、目頭が熱くなってくるのを感じる。


「記憶のなくなる前、のね」


「うるせぇ、んなことはわかってんだよ」


 結奈に現実を突きつけられるが、それでも、だ。


 前世含め俺のことを尊敬してくれる人なんていなかったため、まさか自分の妹に尊敬されているなんて思いもしていなかった。


 これからは、そんな尊敬され続けられるような兄になろうと頑張りましょう。


「妹に軽蔑されないように精一杯やるよ」


「まぁ頑張って。あとここ間違ってるよ」


「くそっ!」


 このように会話しつつも、片手間に結奈は俺の間違いを指摘してくる。


 ずっと結衣の勉強を見ているのに、よく俺の間違いを見つけられたな。


「そういえば結衣ちゃんって、そんな感じだったっけ?」


「そんな感じとは?」


 ひと段落着いたのか、ペンを置いた結衣に沙耶が話しかける。


「結衣ちゃんは昔は結構活発な子だったけど、なんだか最近は翔夜の前だと大人しいよね」


「えっ、それって……」


「違う!」


 館内に響き渡る声で否定し、そして恥ずかしそうに顔をうつ向かせる。 


「あ、ごめんなさい……」


「いや、こちらこそ……」


 気まずい雰囲気が流れてしまい、さてどうしたものかと悩んでいると、徐に結衣が口を開く。


「兄さんは私の目標でもある人だから、なんというか、今まで通りに接することができなくて……」


 少しづつではあるものの、自身の思いを吐露し始める。


「記憶がなくなってしまったことで、ちょっと距離感がわからないっていうのもあるし……」


「そうだったのか……」


 自分だけが被害者だと思っていたが、その周りの人たちもそれぞれ思うところがあったのだろう。


 ならなおのこと、あのクソ女神をぶっ殺さないとな。


「最初は恋慕のようなものだとばかり思っていたが」


「どちらかと言うと、敬愛って、感じ」


「じ、実の兄に恋なんてしないですよ!」


 なんというかだな、自分の妹は科目というイメージがあった。


 だが今回のことでそれが払拭されているから、この勉強会をやったかいはあったと思われる。


 俺としては、結衣の内心を知れただけで


「結衣ちゃん」


 そんな中、結奈は結衣の正面へと回り……。


「翔夜を目標にするのはやめな?」


「なんだと?」


 再度、俺を目指すことを止めるように言ってきた。


「だって目標にするには低いハードルだから」


「おっとぐうの音もでないぞ?」


 確かに結衣は勉強はできるようで、俺を目標にするには少々低いと認めざるを得ない。


「あと翔夜、また間違ってる」


「あ、ホントですね」


「お前たいして見てないくせになんでわかんだよ!」


「ん~、実力?」


「うっわ腹立つ~」


 俺の間違いを見つけ、それを指摘してくる結奈に俺は不信感というか腹立たしさがあった。


 なぜ、彼女はここまで勉強ができて周りも見ているのか。単なる嫉妬である。



「なんだか、結衣ちゃんは期末試験大丈夫だと思うよ?」


「ありがとうございます。でも念には念をということで」


「は~」


「おいこっちを見るんじゃない。俺だって頑張るよ」


「翔夜、ここが間違っているぞ」


「陸に指摘されるとは……!」


「言っているそばから……」


 何ともパッとしない発言をしつつも、俺は当日までできる限り魔法学の勉強に励んだ。








 あれから毎日勉強に励み、そして。


「えー追試験ですが、皆様のおかげと申しますか……」


 魔法学の追試験の結果を携えて、俺はみんなの前にいる。


「なんとか合格することができました!」


「おめでとうっ」


「結衣ちゃんは?」


「なんと学年でトップだったそうです……」


「……翔夜、もしかして橋の下で———」


「記憶喪失なので仕方がないですね!!!」


 顔が両親に似ていないのだから、それを言われてしまっては否定する材料がない。


 それは記憶喪失が本当に主な原因であるため、俺が勉強できないのではなくあのクソ女神が全面的に悪い。



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