第百十八話 妹とともに
追試験まである程度時間はあるが、先生方の力を借りることができない以上クラスメイトたちに頼っていく結論に達した。
もとよりそのつもりであったため、この際思い切り頼ろうと考えている。
「沙耶、また明日」
「うん、追試頑張ろうねっ」
帰宅時にそんなことを考え、沙耶と別れて自身の家の玄関を開けた。
「ただいま~」
「翔夜」
「ぅお! マジでびっくりした!」
玄関を開けて直ぐに、目の前で仁王立ちで立っている母さんがいた。
「何か、私に言うことないかしら?」
「言うこと?」
とても笑顔なのだが、しかしその言葉には優しさは感じられなかった。
これは怒っていることなのだと、今までの経験から察することができる。
察することができても、いったい何について言っているかわからない。
「あの子、雪から聞いたんだけど……」
そのセリフを聞き、俺は思い当たることが一つあった。
「翔夜、追試になったんだって?」
「いえ、あの、その、それはですね、そのぉ……」
まさか知らされているなんて思いもしていなかったため、何も言い訳を考えていなかった。
頑張ると息巻いていたにもかかわらずこの体たらく。
相当お怒りなのではないか。
「試験の結果を見せてほしいのだけど?」
「……そ、それはみんながいる時にでも———」
少しでも時間を稼いで言い訳を考えよう。
そう考えていたが、それを途中で遮って母さんは答える。
「大丈夫。今は父さんもみんないるから」
「えぇなんでぇ?」
外堀を埋められてしまった。
「仕事は?」
「早く終わったのよ」
俺たちが帰る時間には、二人とも帰ってくることはないのだ。
魔物を退治ないし狩っているという仕事内容を聞かされているため、結構定時に帰ってることのほうが少ないのだ。
そのため玄関を開けたときは本当に驚いた。
「でも、残業とかあって帰りが遅いことが多いじゃん?」
「上司を脅……頼み込んで最近早く帰ることができるようになったの」
「んー今恐ろしい言葉が聞こえたぞ?」
そこまでして、俺の試験の結果が知りたかったのか。俺のことを信じているのか疑っているのか、ちょっとわからないな。
「とにかく、みんなリビングで待ってるから、見せなさい」
「はい……」
言い訳する時間が無くなり、俺は必至で考え母さんとともにリビングへ向かう。
そこには、父さんに宮本さん、そして妹の結衣がいた。
「えー皆様、お集まりいただき誠に嬉しく思っていないのですが、心を痛める事になりかねないので、逃げるのであれば今の内ですよ?」
「いったいどんな点数を取ったんだ我が息子よ……」
追試験を行うような点数を取ったんだよ我が父よ。
「とりあえず、全部見せなさい」
「えっと、本当に———」
「いいから、見せなさい」
「はい……」
少々渋りつつも、母さんの圧に負けてバッグから試験の結果を出す。
「……はぁ!」
「ちょ、どうしたの母さん」
「お父さん、見てこれ」
「これは……!」
俺の、魔法学の結果を見て、母さんだけではなく父さんも頭を抱えた。
「魔法学で、たった四十点……!」
「なんと……翔夜様……」
宮本さんものぞき込み、少々顔をしかめた。
でも考えてほしい。今まで記憶がなくなっていたやつがここまでの点数をとれたのだ。むしろすごいのではないかと。
「兄さんにしては、取れているんじゃない?」
「だよな!? 俺もそう思う!」
妹だけは味方に付いてくれて、ついつい嬉しくなってしまう。
「でもまぁ、記憶がなくなったということを踏まえると、確かに取れている方、なのかしら?」
「そう考えれば、流石俺たちの息子だな!」
「よく頑張りましたね、翔夜様」
「兄さんはすごいと思うよ。うん、頑張った」
「みんな……!」
俺の記憶喪失という前提を考えれば、難関校の試験をある程度とれていることがすごいのである。
というよりも、平均点の半分が赤点ということを聞いていたのに、それが四十点以上といううちの学校はいったいどうなっているんだ。
ある意味おかしいと俺は思う。
「そうそう翔夜、沙耶ちゃんの点数はどうだったのかしら?」
「はて、何のことやら」
「何点なの?」
「……全教科殆ど満点でございます」
一教科でも勝てないと『何か』あるという、とても恐ろしいこと。
それをはぐらかそうとしたが、母さんには通用しなかった。
「それで翔夜、一つでも満点はあるの?」
「こちらに!」
だがしかし!
俺は一教科だけだが満点を取ったのだ!
「よくできたわね」
「……うっす」
じっくりと見て、そして頭の撫でられ普通に照れてしまった。
ちょっと、うれしいです。褒められるというのは。
これでこそ、頑張った買いがあるというものではないだろうか。
「でぇもぉ……」
しかしその優しそうだった表情を一変させて。
「追試験がダメだったなんて知ったら、どうなるか知らねぇ」
「追試験は沙耶と勉強をして万全を期して挑ませていただきますので大丈夫ではないかと思われます!」
未だ俺の恐怖は終わっていなかった。
今度こそ、合格をしなければ俺はどうなってしまうのか。想像するだけで恐ろしい。
「私も、勉強教えてほしい」
「あの結衣? 俺も追試験があるんだけど?」
唐突に、結衣が俺に勉強を教えてほしいと言ってきた。
「あー結衣ももうすぐ期末試験だったな」
「でしたら、翔夜様とともに勉強をしたらいいと思います」
「いやいや、俺自分のことで手一杯なんだけど……」
俺は確かにいろんな人から教えてもらえる。そのついでにみんなが教えてくれないわけがないというのは理解できた。
だけども、高校生と中学生では内容が全く違うだろう。
「大丈夫、二人とも学力にそれほど差はないから」
「んーちょっと待って。それほど結衣が優秀なのか、それとも俺が馬鹿なのか?」
今の発言は看過できなかった。
もしかして、結衣は頭がいいのか。そうなんだろう。きっとそうだ。そうに違いない。
「あーなるほどみんなの目が語っていますね両方ですねわかります」
「一緒に頑張ろう?」
「……はぁ、頑張ろうか」
そう締めくくって、その日は終わった。
「ということで、俺たち兄妹で頑張ることにしました」
「よろしくお願いします」
学校終わりの放課後、みんなで図書館へと集まり、そこで妹のことを含めて説明した。
俺の追試験の勉強だけに、みんな集まってくれたことに感謝したい。
「翔夜じゃなくて妹ちゃんにだけに勉強教えていい?」
「俺にも教えろください」
だが、結奈は妹に取られてしまった。