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第百十七話 追試頑張る


 試験の結果が全教科返され、そして俺はみんなに追試験があることを伝えた。


 点数に不安はあったものの、俺は試験へ向けてしっかりと勉強を積んでいたのだ。


 それなのに、ここは皆が皆高い点数を取ってしまったため、平均点がかなり上がってしまった。


 平均の半分が赤点ということなのだが、その点数にも届かなかった俺は仕方がなく追試をやらなければいけなかった。


「追試が決定したことはわかったけど、他のはどうだったの?」


「あぁ、他のは大丈夫でした」


 元々、それ以外はある程度とは言え前世の知識があったため、なんとか赤点にならずに済んだ。


 それに入学前に沙耶に付き合ってもらった勉強もあったため、どうにか追試だけは免れた。



「あーでも、一つも沙耶に勝ててないなら、教えないといけないよ?」


「そのことなんだけど……沙耶、そんなに嬉しいのか?」


「そ、そんなことないよ?」


「滅茶苦茶頬が吊り上がっているけど!?」


 試験をする前に流れで約束してしまったものを、結奈は今思い出したかのように伝えてくる。


 そして沙耶も今思い出したのか、それとももう堪えることができないのか、とても笑顔であった。


「あの、そんなニコニコ笑っているところ申し訳ないんですけど……」


 だが俺は、一つの答案用紙をみんなの前に出した。


「生物だけは、満点取れました……」


 前世、医療職に就こうと思っていたため、他の教科よりはできていたのだ。


「なんか、失望したよ」


「なんでだよ!」


 俺としては、これで沙耶に好きな人を聞かれることなく、また母さんに胸を張って報告できるため嬉しいことなのだ。


 しかしみんなはそうではなかったようで、特に沙耶はとても残念そうな表情を浮かべていた。


「そこはさ、沙耶のことを考えて満点はとらないのが普通でしょ?」


「そんな意味の分からない普通を言われても困る」


 結奈の意見が総意とでもいうように発言してくる。


 声には出していないものの、表情を見る限り怜以外は結奈に賛同している様子だった。


「それじゃあ、翔夜の好きな人は教えてくれないの……?」


「そうだな」


 本当に、とても残念そうにしている沙耶を見ることは、俺にとっても胸が苦しく成ることだった。


 それでも俺はこれから、しっかりとプランを立てて告白することにしているのだ。


 ここでばらされるわけにはいかない。


「あーあ、沙耶を悲しませた~」


「しょ、しょうがないじゃないか! 俺だっていろいろと必死だったんだから!」


「この極悪非道ー。やくざー。悪の権化ー」


「俺が泣くぞこの野郎!」


 好きな人を悲しませてしまったというのは、意外とクるものがある。


 というか、俺は顔だけ怖いのであって、中身は普通の一般人ということをみんな理解していないのではないかと不安になってしまう。


「まぁでも、みんな損があったわけじゃないし、いいんじゃないかな?」


「おいこら、追試は損じゃないってことか?」


「フォローしたのに僕にまで敵意を出さないでよ……」


 確かに損かといえば特にそうは思ってない。追試なんぞ高校でも大学でも受けたし。


 だけれども、そんな簡単にまとめられるとちょっとムカつくのだ。



「というか、追試に関しては翔夜が全面的に悪いけどね」


 確かに結奈の言う通りで、できなかった俺が悪いのだろう。


 しかしだ、俺はそこに申し立てたい。


「俺は、約十五年という長い年月が犠牲になっているんだぞ!? それでここまでできたことを褒めてほしい! いや寧ろこれは自画自賛してもいいんじゃないだろうか!? 俺すごい!」


 誰とは言わないが、とあるクソ女神のせいで俺は中学までの記憶がない。


 そのため、俺は生前以上に努力をしたのだ。自画自賛しても罰は当たらないだろう。


 寧ろ俺がクソ女神に罰を与えたい。


「確か、中学までの記憶がないんだったかな?」


「そうなんだよ!」


「それは、うん、大変だね」


 土岐兄妹は俺の境遇を理解して、とても共感している様子だった。


「あれでも、陸と奈那は点数何点くらいだったの?」


「俺は大体八割から九割だな」


「私は、全部九割くらい」


「おっと、妹に負けてしまったな!」


 とても和やかな雰囲気を醸し出しているが、俺は結奈がどうして土岐兄妹に試験の結果を聞いたのか理解した。


「途中から転校してきた二人が、高得点をとっていると……」


「おうなんだこっちを見るんじゃあねぇ」


 俺たちの反応で周りも理解したのだろう。俺よりも、二人のほうがすごいということを。


 もう悲しくて泣きそうになってしまった。


 誰も励まさないでね、逆にそういうのは泣いてしまうから。



「それで、追試験はいつになったのですか?」


「夏季休暇前にはやってもらえるらしい……」


 悲しみがなくならぬまま、エリーはいつに追試験があるのか尋ねてきた。


 旅行をするといっているのに、それと被ってしまってはいけないと考えての発言だろうか。


「勉強は、大丈夫なんですか?」


「間違ったところ直せばいいし、期間もまだあるから大丈夫でしょ」


「そうですか」


 旅行のことかと考えたが、違った。


 エリーはただ、追試験に合格するか不安だったようだ。


 しかしそこはモーマンタイ。なぜならば、みんなが俺についている———


「では、私たちが教えなくても大丈夫と———」


「大変申し訳ありませんが、不出来なワタクシめに何卒魔法学の追試験へ向けて、ご指導ご鞭撻のほどを宜しくお願い申し仕ります」


「もう翔夜の土下座は見飽きたから、もっと面白いことして」


「そんな要望に応えられるかっ!」


 俺はとても綺麗な土下座をすることで、なんとか一人で追試験をするようなことは回避できた。


 そして、これ以上に面白く誠意あるものは知らない。


「大丈夫、みんなが支えるからっ」


「みんな……! ありがとう!」


 沙耶がそう言い、そしてみんなも仕方がないと言いたげではあるものの、その様子を見て俺は追試験へ向けて頑張ろうと思えた。


 やはり、持つべきものは友だろう。


「ホント、感謝してよね」


「……あー、うん」


「なんで僕の時はそんな塩対応なの?」


「自分の胸に手を当てて聞いてみたら?」


「……もしかして喧嘩売ってる?」


「売ってねぇよ!」


 結奈が言っても、あまり感謝したいと思えないためこの反応も仕方がないと思われる。


 それと、胸に過剰に反応するのはやめなさい。





 俺は話を終え、そしてすぐに職員室へと向かった。


「観月先生、ちょっと質問があるんですけど、いいですか?」


「なんですか?」


 こんな怖い奴が職員室へいったい何の用だと言わんばかりに見られてきたため、さっさと担任を見つけて声をかける。


 言わんばかりというか、実際に言っている奴いたな。顔を覚えておこう。


「追試って、どんな問題が出るんですか?」


「……教えられません」


「まず先生が生徒を憐れんだ目で見るのはどうなんですかね。ダメもとで聞いただけですよ」


 前世でも、どういった問題が出るのか偶に教えてくれる先生がいたため、今回もちょっとした希望を抱きつつ聞いただけだ。


 それなのに、そんな勉強できないのかと思っているような表情はひどいと思います。


「あと私と校長はこれから忙しくなるので、追試験に協力することはできませんので、頑張ってください」


「わかりました」


 二人がいなくなるということは、追試だけでなくあの計画も進められないというは残念であった。



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