第百十六話 禍福己による
実技試験は終わり、俺たちは打ち上げに近くのファミレスに来ていた。
俺たち七人は、実技試験のどの項目でも満点以上の記録を出したので、そちらは問題ないだろうと判断した。
問題は俺が試験に合格して、尚且つ一教科だけでも沙耶に勝つことができれば無問題である。
「長い長い試験、お疲れさまでしたー!」
長く話すくらいならと、短くして俺はみんなと乾杯した。
本当は酒がよかったなんて思っていません。ジュース大好きです。本当です。
「いやぁ、やっと終わってほっとしたな!」
「確かに大変だったねっ」
ようやく試験から解放され、俺は胸をなでおろした。
そんな俺とは裏腹に、みんなは各々好きなものを頼み、高校生らしく楽しく談義していた。
沙耶も大変だったという割には、試験中に全くそのような素振りは見られなかったため、それほど試験は苦ではなかったのだろう。
「あのさ、実技試験中に翔夜と話していたんだけど、夏休みにみんなで海に行かない?」
怜が徐にみんなに聞こえるように話す。
正直これは俺が提案したことのなので、俺が言うつもりでいた。
だが自分の私有地ということで怜が率先して発言してくれたのだろう。
「いいねっ」
「楽しそうですね」
みんなの答えを聞くまで少々不安はあったものの、全員ワイワイと楽しそうにしてくれていたため、あの計画が頓挫することはなくなり安心する。
そも、それがなくとも楽しく過ごしたことに嘘偽りないため、それ自体は俺も楽しみにしている。
「翔夜が提案したことなんだけど、僕もみんなと楽しみたいからね」
「翔夜が? 明日雨降りそう」
「おいそれはどういうことだ?」
俺の提案だったとしても結奈よ、何故明日雨が降らなければいけないんだ。
そんなに珍しいことでもないだろう。
「それでさ、僕の両親が持っている私有地に海があるんだ」
「唐突に金持ちアピール?」
「全く金持ちアピールしてないよね?」
俺も雪先生から聞いた時には、結奈と同じ反応を示していた。
だって、周りに私有地を持っている人とは普通いないじゃん。
「そこなら、周りの目を気にせず遊べるかなって」
「周りの目?」
「あー、なるほど……」
沙耶はわからそうにしていたが、察しのいい結奈は気が付き、俺に向き直る。
「翔夜」
「なんだ?」
「ナイス」
「おう」
お互いに何が言いたいのかを理解し、熱い握手を交わした。
「えっと、どういうこと?」
「つまりだな、女子たちを周りの男どもの視線から遠ざけられるということだよ」
「なる、ほど?」
いまいち理解していない沙耶に、俺はちゃんと説明を行う。
「ここには四……五人美少女がいるからな。そんなところを普通の男どもが見たら声をかけてくるだろ?」
「び、美少女って……」
「一人欠けたの、もしかして僕を抜いたから?」
「ん? あれ? 五人?」
「違ぇよ! お前ちょっと落ち着けって!」
美少女といわれたことが嬉しかったのか、沙耶は頬を緩ませてしていた。
しかしそんな沙耶とは対照的に、自分が美少女と呼ばれなかったと思って、俺へと殺意をむき出しにしてくるため弁明を行う。
「それは、怜を入れ忘れたからだよ!」
「おっと、翔夜はいったい何言っているのかな?」
「なるほど、理解した」
「んー二人ともちょっと表に出ようか?」
実のところ、今でも怜はついていないのではないかと疑っている。
その確認もかねて、その海での遊びを楽しみましょうか。
「それじゃあ、俺たちだけでその海で遊ぶことができるのか?」
「そうだね。まぁ広いってわけじゃないけど、それでもみんなで使う分には十分すぎると思うよ」
「それは、楽しみだな!」
「うん、楽しみ!」
陸と奈那は事情が事情なだけに、恐らく海に行ったことがないのだろう。
だから、ここの誰よりも海を楽しみしているに違いない。
「そうだ、使い魔も呼んでいいか?」
「いいよ、僕も呼ぶつもりだから」
そういえば、と俺は使い魔も同伴していいか尋ねる。
先日の戦いの功労者といってもいい鈴と未桜には、今回その褒美として思う存分遊んでもら追うと考えたのだ。
「みんな使い魔がいるのか?」
「どうなんだ? 俺と沙耶、怜はいるけど……」
「僕もいるよ。来るかはわからないけど」
「えっと、いることにはいます……」
唐突に、俺が使い魔の話をしたことで、みんないるのか陸が訪ねてきた。
全員いるようなのだが、しかしどうしてエリーはそんな悲しそうな表情をしているのだろうか。
「そうなのか。俺たちはまだ使い魔を得られていないから、近々手に入れたいな!」
「そうだね」
夢を膨らませる二人。
使い魔は一人の時来てくれるととても心強いので、おすすめだぞ。
どうやって使役したのか、俺は知らんのだけどな。
「楽しみだな、みんなで海かぁ」
「その前に翔夜は追試験じゃない?」
「おいおいまだ決まったわけじゃあねぇぞ?」
俺がみんなで行く日を楽しみしていると、結奈から追試験の話をされた。
まだ落ちたわけではないのに、どうしてその話を持ち出すのだろうか。
「だ、大丈夫だよ! だって半分も取れていれば問題ないんだから」
「ちょっと沙耶、翔夜が半分も取れていると思ってるの?」
「おい俺のことをちょっとばかし馬鹿にしすぎていないか?」
沙耶は俺のことをかばってくれるが、結奈は俺のことを信じられていない様子だ。
俺だって流石に半分は取れたと思っているぞ。自分の中では。
「その時は、みんなで支えればいいさ!」
「陸、お前ってやつは……!」
一人イケメンがここにいた。
これは男でも惚れると思うのですが。
「あれくらいならば簡単にできるようになるだろう!」
「あっ、もしかして俺馬鹿にされてた?」
イケメンではなく、只々天然だっただけですね。
そして鋭い刃を突き刺してきて、俺はちょっと泣きそうになりました。
「私も、手伝うから」
「私も及ばせながらお手伝いしますよ?」
「奈那、エリー、ありがとう……!」
二人とも、俺のことを心配してか手伝ってくれるという。
「わ、私も手伝うよ!」
「沙耶もありがとう……!」
ここにいる女性陣は一人を除きみんな優しいため、例え追試験になっても俺は大丈夫と思ってしまう。
男性陣はどうなのだろうかわからないが、その時は頼むか。
「その前に一ついいかな?」
しかし一つだけ、どうしても言っておかなければいけないことがあった。
「なんで追試験前提で話が進んでるの?」
俺はまだ、赤点をとったわけではないのだ。
それなのに、どうして俺が赤点をとったことを前提として話が進むのだろうか。
「魔法学以外は、俺絶対落ちてないからね!?」
「世の中に絶対はないんだよ?」
「なぁんでそこで論破されないといけないのぉ!?」
受かっているかあやふやだけども、大丈夫だと信じたい。
「結果がわかったらみんなに知らせるから!」
元々、俺は赤点などないという自信をもって挑んでおり、満点は取れなくともそれなりの点数は取れていると自負していた。
そのため、その知らせをすることなどないと考えていた。
===============
試験が終わり、数日ほど空いた本日。
「あの、皆様に報告がございまして……」
「もうみんな予想しているけど、どうぞ」
放課後、みんながいる前で俺は大事な報告をすることとなった。
俺は神妙な面持ちでいたのだが、なぜかみんなは可哀そうな人を見る目で見ていた。
「あの、魔法学の試験なのですが、追試験が決定いたしました……」
「うん、知ってた」