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第百十五話 根回し


 翌日に魔法学の試験が控えているということもあり、俺は少し話し合うだけにして帰路についた。


 少しの時間といっても、三人で話し合ったということで様々な案が出た。三人寄れば文殊の知恵とはよく言ったものである。


 だが、今までで一番恥ずかしいことであった。


 何が嬉しくて、担任に俺の色恋沙汰を知られなければいけないのか。


 それでも計画が着々と進んでいることに変わりはないため、恥を捨てて挑まなければいけないだろう。


 そんな思いを抱きつつ、迎えた試験最終日。その実技試験にて。


「これから実技試験があります。皆さん、頑張ってくださいね」


 俺たちはようやく短いようで長かった試験を乗り越え、残すは実技試験だけとなった。


 実技試験はコロッセオのような、授業でもよく使うここを使うこととなった。


 全員が制服のまま、この場所へと移動して準備運動なり各々実技試験の準備に取り掛かっていた。


「なんか観月先生、私と翔夜を見てほほ笑んでない?」


「気のせいだ……」俺の


 そして観月先生は露骨に嬉しそうに俺たちを見ていた。


 バレる可能性があるので、やめていただきたい。


「ねぇねぇ翔夜、追試験の対策ってどうするの?」


「あれまだ試験の結果出てないよな?」


 そんな複雑な気持ちでいる俺に、結奈はいつも通りの無表情で俺に聞いてきた。


 声色では嬉しそうにしていることがわかるが、本当に表情が変わらないから何考えているのかわからなく、どうしてそのような質問をしてきたのかわからなかった。


「何言ってるの? 翔夜なら全教科追試験になることは知ってるから」


「おっとここまで俺の学力は低いと思われていたのか」


 結奈が質問をした理由は単純明快。


 ただ、俺を貶したいだけだった。


「えっ、違うの?」


「今まではそうだったが、今は違う!」


 俺だって試験へ向けてかなりの勉強をしてきたのだ。


 ある程度ではあれど自信はあるのだ。


「因みに、魔法学の試験はどうだったの?」


「今それを聞くんじゃない……」


「ダメだよ怜、ちゃんと察してあげないと」


 前言撤回をします。全く試験に自信はありません。


 魔法学の試験は、今までの前世までの知識が通用しない非科学的なものなのだ。


 論理的に考えることができるものではあるが、それでも何年もののブランクがある俺にはクラスメイトたちに追いつくことも難しいことであった。


「終わった後、なんか燃え尽きていたじゃん」


「そういえば……」


 本日の試験後、俺はどのかのボクサーのように燃え尽きていたのだ、真っ白に。


 もう試験開始時の絶望感は半端ではなかった。わからないんだもん。


「でも、頑張ったんだから気にしちゃダメだよっ」


「沙耶……顔が嬉しそうなんですがそれは?」


 慰めてくれている沙耶のほうを見ると、だがその表情はどこか嬉しそうにしていた。


「翔夜の好きな人を教えてもらう約束だからねっ」


「俺は教えたくないんだよ……」


 そういえばと、俺は沙耶に一教科でも勝っていなければ、自分の好きな人を教えなければいけない約束をしていたことを思い出した。


 本当に、試験一教科でもいいから沙耶に勝てないだろうか。




「それでは、今から出席番号順に試験を開始します」


 そうこうしているうちに、時間になったのか先生方が集まってきて試験が始まる。


「なにやるんだっけか?」


「……ホントに先生の話聞いたほうがいいよ?」


「いやだって、実技試験はできるだろ」


 内容がどうであれ、高校に入りたてのピッカピカの一年生にやらせる試験内容はそれほど難しいものでもないはずだ。


 ならば、神の使徒である俺にできないことはないだろうと高を括っていた。


 実際問題ないからな。


「それで、何をやるんだ?」


「最初はあの重りを浮遊させて、時間が経つごとにその量を増やしていくの」


「なんだか、シャトルランみたいなものか?」


「そんな感じ」


 魔法を使えるといっても高校生レベルなので、やることは過激なものはないのだ。


 生徒それぞれの魔力制御力、魔力量、集中力などが今回の観察項目になってくるため、魔法による試合ではないほうが実利的なのだろう。




「それでは、スタート!」


 先生の掛け声とともに、全員が重りを浮遊させていく。


 しかし思っていた以上に軽く、全くやる気が出てこなかった。


 十キロほどはあるはずなのだが、どうしても軽く感じてしまう。


「俺たちなら今日中には終わりそうにないな!」


「翔夜がそういうと嫌味にしか聞こえないよ?」


「あーいや、そういうことで言ったんじゃあないんだ」


 神の使徒であるため純粋な意見として発言したが、沙耶にとっては嫌味に聞こえてしまったようだ。


「ほらほら、試験に集中しよ、沙耶」


 どう説明したものかと考えていると、俺がぼろを出す前に助け舟を結奈が出してくれた。


「結奈も集中しよう?」


「僕は集中しなくてもできるから」


「むー、ホントにできるから何も言えない……」


 俺たちは魔法に関しては地球上でトップといっていいほど卓越している。


 そんな俺たちについてこようとする沙耶のほうがすごいと俺は思うのだが、それは口に出さないでおかないと。


「ねぇ、これが終わったらみんなでどこか打ち上げに行かない?」


「打ち上げか、いいな!」


 暇を持て余していると結奈から声がかかり、そしてそれに賛同した。


「じゃあどこかの居酒———」


「どこかのファミレスにしようか」


 言い終わる前に、俺は結奈から蹴り飛ばされた。


 そして結奈は俺に代わって代替案を提示する。


「翔夜、大丈夫!?」


「大丈夫、ちょっと殴ってほしいって言ってたから」


「言ってねぇ!」


「何やっているんですか!」


「「すみません」」


 危うく重りを落としそうになるが、流石にその程度で落とすようなことはなかった。


「でも結奈、今回ばかりはありがとう」


「ホントに大学生抜けてなさすぎない?」


「言うて数か月前までは中身大学生だからなぁ……」


 結奈が蹴り飛ばしてくれなければ、俺は居酒屋をチョイスするところであった。


 時折自身が高校生ということを忘れてしまっているため、気を付けなければ。


 


「なぁ怜、ちょっといいか?」


「唐突にどうしたの?」


 暇になったということではなく、ただ用事を思い出して怜の下へとやってきた。


 フィールド内で行われていれば問題ないので、俺は重りを浮かせたまま話しかけ、怜もそれに答える。


「いや、一応はお前も男なわけだし、男同士の相談というかだな」


「一応は余計だからね?」


 男の娘であることを気にしているため、あまりそのようなことを言ってはいけないのだが、そうでも言わないと俺が忘れてしまいそうになるので敢えて言っている。


「それで、何?」


「雪先生、まぁ校長から聞いたんだけど、お前の家って滅茶苦茶金持ちらしいな?」


「すんごい個人情報を暴露してるね、あの先生。強請りに来たの?」


「んなわけあるかっ」


 昨日三人で話し合っている際に聞いたことなのだが、怜の親は資産家で金持ちということがわかった。


 勿論お金が目的で話しかけたわけではない。お金ならいくらでも手に入れる方法があるからな。


「別にお前が金を持っていようといまいと、そんなことはこの際どうでもいいんだよ」


「じゃあ、何?」


 俺のことを信用できていないのだろう、訝し気に見てくる。


 だが俺の目的は別のところにある。


「お前の親、海の見える別荘を持っているらしいな」


「ホントなんであの先生が知っているのかも謎だし、あの先生が生徒の個人情報を翔夜に教えていることも問題だし……。訴えるべき?」


「まぁ待て、別に悪用しようってわけじゃない」


 傍から見たら確かに強請っているように見えてしまうが、俺はそんなひどいことはしない。


 みんなが楽しくなるようなことを考えるからだ。


「もうすぐ夏季休暇があるじゃないか?」


「……そうだね」


「そんな目で見るなって。そこでみんなで集まって遊んだりできないかなって」


「あーなるほど。それくらいなら別にいいよ」


「おう、サンキュ」


 夏季休暇を利用して、俺たちみんなで楽しく夏を満喫しようではないかとという誘いだったのだ。


 バーベキューなり泳いだりなどして、楽しく過ごそうと思っての提案であった。


「でもどうしてそこなの? ほかにいろいろと場所はあったと思うんだけど」


「まぁ知っている奴の私有地っていうのは他よりも安全が保障されるし、沙耶のことをいやらしい目で見てくるやつを殺すことないし……」


「今物騒なことが聞こえたような……」


 俺たちしかいない海ということは、それは沙耶に対していかがわしい目で見てくる輩がいないということだ。


 これほど安心して遊べる場所はないだろう。


「そ、それに……」


「それに?」


 そして、これが今回最も重要なことだ。


「あそこの近くに、有名な告白のスポットがあるそうだしな……」


 一応は使わせてもらうわけなので、目的を伝えておかなければいけないなという、自分の中の善良な心が訴えかけてきた。


 まぁ雪先生から、一応は伝えておけといわれたからなのだがな。


「……えっ!? それってつまり……!」


「乙女とか思ってんだろ!? 察して何も言うな! 俺は今自分のことで精いっぱいなんだよ!」


「いや、別にそんなことは思っていないけど……」


 顔を両手で覆い隠し、恥ずかしそうに蹲る。


 そこへ先生の指示があり、重りを落とすことなく追加していく。


「そっか、翔夜が、ね……」


「どうした?」


「いや、なんでもない」


 流石に顔を覆うことはやめたが、それでも恥ずかしくて顔が熱い。恐らく真っ赤なのだろうということがわかる。




「それは僕以外に知っている人はいるの?」


「校長と、担任だけだな」


 どうしてそんなことを聞いてくるのかわからなかったが、正直に答える。


「……んー、じゃあそのことは誰にも言わないほうがいいかもね」


「どうしてだ?」


「なんでも」


 もとより誰にも言う気などなかったが、怜から言われてしま


「邪魔が入るかもしれないし……」


「誰が邪魔するってんだよ」


「沙耶ちゃんのことを陰で好きでいる人」


「そんな奴いるのか!?」


「いるかもしれないでしょ、沙耶ちゃん可愛いんだから」


「わかる。なるほどな、じゃあ黙ってるか」


「その方がいいよ」


 確かに沙耶は可愛い。


 言いくるめられたような気がしなくもないが、それでも俺が告白するということを知って、事前に告白してくるような輩が出てもおかしくない。


 ならば、俺は黙っていた方が適切だろう。


「みんなのために、ね……」


 ボソッとつぶやかれたそれは、俺は聞き取ることはできても発言の意味は理解できなかった。



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