第百十四話 試験裏で進められる計画
みんなで健闘を誓ってから、三日が経ちました。
各々試験へ気を抜かず、帰ってからも勉強に明け暮れていました。
誰もが満点を目指して頑張っていることが予想されるでしょう。
「さて、本日で三日間の魔法学以外の試験が終わりました」
俺も精一杯頑張ることでなんとかみんなにしがみつくことができている。
「みなさんよく頑張りましたね。私はその頑張りを褒めたいと思います」
一か月前から対策している方もいれば、ほとんど対策していない結奈のような人もいる。
また俺のように全力で頑張っても、元々の頭が足りておらずいい成績を残せるか微妙な方もいる。
「そして皆さんに嬉しい報告がございます。なんと今回の試験、追試験なるものが存在するそうです」
そんな中、追試験の話を効くこととなり、多少なりとも安堵することとなった。
「校長本人に確認を取ったので間違いありません」
もし試験で赤点をとってしまっても、救済処置として留年ということは免れるのだ。
これほど嬉しい処置はないだろう。
「そのため、もし赤点をとってしまっても留年ということになることはないそうですよ?」
それで母さんから許されるわけではないが、それだけで心持ちが違ってくるというものだ。ありがとう、雪先生。
「いやぁ、本当によかったですね!」
「翔夜……」
俺は九教科を終え、少し余裕ができたということでみんなへとその報告をしていた。
しかし結奈が俺のことを可哀そうな人を見るような目で見てくるが、いったいどうしたというのだろうか。
「テスト、ダメだったんだね」
「……何も言うな」
そういえば結奈だけかと思ったが、みんながみんな可哀そうな人を見る目で俺のことを見ていた。
それほど俺はできないと思われていたのだろうか。
それとも、できなかったことが顔に出ていたのだろうか。
「でも、テストは明日で終わりだし、終わった後のことを考えて元気にいこう?」
「あぁ、テスト終わったな……」
「まだ終わってないよ?」
どこかのボクサーよろしく、俺は真っ白に燃えてしまった。
そんな俺に沙耶は優しく声をかけてくるが、もう俺は絶望しかなかった。
明日は魔法学の試験が残っているが、あれは他の強化とは違い全くできる気はしないのだ。
つまり九教科でどうにかしなければいけなかったのだ。
だが、そんな願いは気泡へと帰してしまった。
「沙耶、翔夜はこの三日間のテストにかけていたんだよ。なのに全部ダメだったから落ち込んでるの」
「まだわからないじゃないか!」
「実際、どのくらいとれたと思う?」
「な、七割くらい、かな……」
「あー……」
誰がそうため息をこぼしたのか。
みんながみんな、残念そうな表情をしており、俺の心中を察したようだ。
だが俺は一言申したいことがある。
「いや取れてる方でしょ! だって七割だよ!? 俺は十分頑張ったでしょ! なんでみんな満点目指してんの!? みんなの方がおかしいんだよ!」
七割取れた方でも褒めてほしいのだ。
赤点ギリギリを、高校のころからずっと続けてきた俺にとってはすごいことなのだ。
ましてやこの高校は全国屈指の高校である。
自分はここまでできたのだと、すごいだろうと、胸を張って自慢したいくらいなのだ。
「ちゃんと授業聞いていれば、満点取れるんだよ?」
「ちょっと僕でもそれはわからないね……」
「そういうのちょっとやめてくれません?」
授業だけ聞いていればできるなんて人は空想上の人だけかと思っていましたけど、まさかこんな近くにいるとは思いもよらなかった。
どこかに俺のようにできなかった仲間はいないものか。
「そういや、陸や奈那は途中からやってきたわけだし、試験の出来は俺と同じくらいかそれ以下だろ?」
途中入学してきた二人ならば、俺より勉強が足りていないということから低いのではないかと、内心喜んでしまった。
「あー、翔夜にはわるいんだが、俺も奈那も満点を目指しているんだ」
「えっ?」
「私たちも、頑張ったから」
「えっ?」
「え、翔夜もしかして、後から来た人に負けたの?」
「えっ?」
仲間を見つけられたと、嬉しく思っていた。
だがそんな希望は打ち砕かれることとなった。
「泣きそう」
後から来た人に負けるのって、こんなにも悲しいもなんだな。
俺の精神はまだまだ子供だから、そういうのを受け止めるのに時間がかかると思う。
「ですが翔夜さんは頑張りましたし、誇ってもいいと思いますよ?」
「ちょっと今優しい言葉かけないで、マジで泣いちゃう……」
「す、すみません」
辛い思いをしているときに野菜い言葉を嘆かれられると、誰でも泣きそうになるよね。
なんだか、もうどうにでもなれって思ってしまう。
「それじゃあ、話もここまでにして、みんな明日に向けて気を抜かずに頑張ろうっ」
丁度話が途切れたことで、俺たちはお開きとすることにした。
明日も控えてるので、これ以上話しているとみんなの邪魔になってしまうのだろう。
だが俺には少し要件があった。
「沙耶、悪いけど先に帰っててくれ。」
「どうしたの?」
「ちょっと明日の対策として、先生に色々と聞いてくるんだ」
「そっか、わかった……」
了承して沙耶はみんなと帰るが、少々寂しそうにした。
俺だって沙耶と帰りたいけど、それでも雪先生に会わなければいけないんだ。
それから俺は一人、校長室へと足を運んだ。
「よぉ、テストどうよ?」
開口一番、雪先生は俺のテストの状況を尋ねてくる。
それもそうだろう、俺ができなければ俺の母さんが何かするとのことだったからな。
どうするかはわからないが。
だから俺は自信満々に答えることとした。
「大丈夫だと思ってるのか?」
「お前の母親からの攻撃を防ぐ方法を探してるくらいには大丈夫だと思ってる」
「全くこれっぽちも大丈夫だと思ってねぇじゃねぇかよ!」
雪先生は俺のことを信用しているのかしていないのか。
「お前マジでテスト一教科でも東雲沙耶に勝てよ!? じゃないとアタシの命がなくなっちまうっての!」
「俺の母さんはそこまで……しそうだけど、でも俺の命もなくなっちまうって!」
「お前は身体が普通じゃねぇんだから別にいいじゃねぇか!」
「そういうことじゃねぇだろ!」
言い争いになったらお互いに止まらないことはわかっている。
だがどうしても引くことができないのは仕方のないことだろう。
そんな俺たちへと割って入ってくる人がいた。
「あの! 二人とも何話しているんですか?」
「おー、りほじゃねぇか。どうした?」
俺の担任である観月先生が、校長室から入ってきた。
「どうしたじゃないですよ。校長が呼んだんですよ?」
「そうだったそうだった、忘れてたよ」
「自分で呼んでおいて忘れないでください」
適当にしているから約束事を忘れてしまうのだ。
俺の前世でよくそういうことがあったからよくわかる。
しかしどうして観月先生がきたのだろうか。今から二人で話し合わなければいけないことがあったというのに。
「それで、要件は何ですか?」
「んあ、えーっと———」
「あの、どうして観月先生がここにいるんですか?」
何か話す前に、俺はどうしてここに来たのかを聞くことにした。
今から話すことはそとにばれてはいけないことだから、
「校長に絡まれてしまってね、纐纈君に協力することになったの」
「協力って、まさか……!」
「おう、そうだ。お前の思っていることは当たっているぞ」
俺は驚き雪先生と観月先生を交互に見て、そして悟った。
「りほにも、お前の『東雲沙耶告白計画』に協力してもらうことにした!」
「担任に人の恋路を知られるなんてどんな羞恥だよ!」
今まで話し合っていた、沙耶への告白のプラン。
俺は試験後に控えた沙耶への告白を、雪先生以外の、しかも担任に知られることとなった。