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第百十二話 試験前日


 クソ女神が返った後、俺と瞭太はその時の出来事はシスト隊員に言わないよう口裏合わせをした。


 このことは転生者には伝えるようにして、余計な被害を被らないようにしなければいけないと説明した。自分が痛い目に遭ったためである。


 その後瞭太は何か決心でもしたように、栂野さんとともに魔法の訓練を再開した。


 俺はというと、近々試験を控えているということで雪先生とともに勉強に励んだ。


 何度も喧嘩になって観月先生が介入することもしばしばあったが、一応は学力を向上させることはできていると自負している。


 そして現在、テスト前日に差し迫った学校にて。


「信じられない。どうして殺さずに送り出しちゃったの?」


「一応は記憶力上げてくれた相手だからな、今回ばかりは見逃した」


 俺は屋上で結奈と怜の三人で昼食を取っていた。


 三人になれる機会がなかったためずっと話せずにいたが、試験前日にて漸く話すことができた。


 クソ女神と出会ったことや沙耶を誘拐した本部を壊滅させたことを、かいつまんで二人へと伝えており、結果として結奈がキレた。


「あまい、あまいよ翔夜」


 俺としては記憶力も上げてくれた上に、魔王とは違う能力といったものを与えてくれたため逃がしてもよかったのだが、やはり結奈にとっては面白くないようで。


「その隙をついて殺しなよ」


「ナチュラルに怖いこと言うね……」


 そんな残酷なことを言う結奈とは対照的に、怜は止めるべきが迷っているように苦笑いを浮かべていた。


「まぁ僕に何も言わずに殺したら許さなかったけど」


「どっちだよ……」


 殺したら殺したで、自分の手で下すことができなかった悔しさで、もしかしたら俺が殺される可能性もあった。


 次会う機会があれば、結奈や雪先生も呼んで三人で殺しにかかるとしよう。


「だがしかぁし! 次あったら確実に息の根を止めてやるからな!」


「後でさっき言ってた『疑似・神の槍』教えてね」


「おう」


 雪先生から教えられたその魔法を俺のわかる範囲で教えていると、屋上にある唯一の扉が開かれた。


 立ち入り禁止のこの場所に来るのはいったい誰なのだと、全員が扉のほうを見やる。


「翔夜、ここにいたの?」


「沙耶、どうしたの?」


 やってきたのは、沙耶とエリー、そして陸と奈那の四人だった。


「三人が昼休みにそそくさとどこかに行ったから気になって来ちゃった」


 お弁当をもって、ちょっとお茶目な反応を示す幼馴染に対し、俺は心がポカポカしていく。


 なんだろう、クソ女神へと向けていた憎しみが消えていくような感情に襲われた。


「……僕の友人をそんないやらしい目で見ないでくれない?」


「見てねぇよ!」


 結奈が俺を犯罪者でも見るような目で見てくるため、即座に否定する。


 可愛いとは思ったけど、流石にいやらしい目で見たりなんてしない。俺、幼馴染なんでね。


「それより翔夜、約束は覚えているよね?」


「あー、なんだったかなぁ?」


「私が試験で勝ったら、翔夜の好きな人を教えてもらうっていうやつだよ!」


「覚えていたかぁ……」


 俺の隣に来て、顔を覗き込んでまでしっかりと確認をとる沙耶に、わずかばかりの希望として忘れていることを願った。


 だが願いは空しく打ち砕かれ、望んでもいない勝負をすることが決定してしまっている。


 もちろんそんな踵部がなかったとしても、俺は母さんとの約束があるため勝たなければいけないがな。


「忘れるわけないじゃん。大事なことだもん!」


「なんでそんなに俺の好きな人を知りたいんだ?」


「……内緒っ!」


 どうしてそんなくだらないことを知りたいのか尋ねたが、そっぽ向いて答えてくれようとはしなかった。


「あれで隠しているつもりなんでしょうね」


「まぁ、本人たちが知らないならいいんじゃないのかな……」


「ちょっとムカついて翔夜のこと殴りたくなってきた」


「おっとそこのお三方、俺には聞こえてしまっているぞ? もう少し声のボリュームを下げなさい」


 俺たちへと聞こえるように話している三人を尻目に、陸がとんでもない爆弾を投下しようとした。


「みんなと関わって日が浅いんだけど、もしかして翔夜の好きな人というのはさ———」


「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 陸の口を物理的に閉じさせ、俺はその先の発言が聞こえないように今日一番の大声を上げた。


 口を手で覆うように塞いだのだが、陸は自分の状況をあまり把握できていないようだった。


 君は言ってはいけない人の名前を言うところだったのだよ。


「隠していることをバラそうとするんじゃない! というかなんでバレちゃったんだよ! 俺結構うまく隠している自覚あったんだけど」


「あの、私も知ってる」


「なん、だと……!」


 控えめに手を上げる奈那を見て、そんなに俺はわかりやすいのだろうかと改めて自分を客観視しようと決意する。


「翔夜、本人にバレていないのは奇跡なんだよ」


「嘘だろおい……」


 怜から告げられるそれは、俺には信じがたいものだった。


 沙耶以外が知っているということは、それはつまりみんな俺が沙耶のことを好きだと知ったうえで俺たちやり取り見ているということか。


 なんという拷問なのだろうかと膝をつきたくなった。


「ねえ、みんな何話しているの?」


「んー、翔夜は好きな人を教えることになりそうだなって」


「俺最後まであがくからな?」


 結奈がすかさずフォローしてくれたため、俺が沙耶のことを好きだということはバレていない。


 俺のことを貶してきたことは少々引っかかるが、それでもはぐらかしてくれたのだから大目に見よう。


「翔夜が頑張っていることは知ってるから、私も頑張ってるよっ」


「元から頭いいのに、それ以上に頑張らんでおくれぇ……」


「やったね翔夜、負け確定じゃん」


「何嬉しそうに言ってんだお前は?」


 やはりといったところか。沙耶は努力を怠らないようで試験へと向けてしっかりと勉強しているようだった。


 俺も今まで以上に勉強に勤しんでいるのだが、沙耶に一教科でも勝てるかとても不安になってきてしまった。


 そして結奈よ、俺が負けることは確定していないし、なに嬉しそうに頬を緩ませているんだ。


 そんな心境でいる俺に、エリーが話しかけてくる


「今更なんですけど、屋上で食べていていいんですか?」


「あー、えっとね……」


「真面目なエリーにいいことを教えてあげよう」


 ここの屋上は立ち入り禁止であるため、無断で入っていいわけがない。


 勿論俺たちはそれを承知の上で勝手に使っているのだ。


 はてさて、本当に真面目なエリーにどう答えたものかと悩んでいると、成績だけは真面目でいる結奈が答える。


「バレなきゃ問題ないんだよ」


「おいこら結奈、エリーをこちら側におびき寄せるのはやめなさい」


「チッ」


 俺たちはもう手遅れなほどいろいろとやらかしているからばれてもあまり気にしない。


 だがエリーは品行方正なのだから、態々こちら側へといざなうようなことはしないほうがいいだろうに、そんな悪いお友達が欲しいか結奈よ。


「じゃあ、私たちがここにいるのはまずいんじゃあないですか?」


「大丈夫だよ、バレても怒られるのは翔夜だけだから」


「なんで俺だけなんだよ……って言いたかったけど、たぶん怒られるのは俺だけなんだろうなぁ……」


 見つかったとして、俺だけは悪評が広まっており、ここには優等生ばかりが集まっている。


 俺だけが落ちこぼれであるため、無理やりといった感じで連れてこられたのだろうと教師陣は納得すると考えられる。


 主に雪先生がそのように誘導するのだろうなと、何となくだが予想できた。


「大丈夫だよ、怒られるときは私も一緒に怒られるからっ」


「沙耶……! 嬉しさで胸がいっぱい……!」


 俺一人に押し付けずに、自分も仲間だといっているようで歓喜する。


「僕は翔夜をおいてみんなで逃げるよ」


「結奈……。憎しみで胸がいっぱ……ごめん」


 一方結奈は人の心を持っていないのかと思うほど酷いものだった。沙耶を見習ってほしいものだよ。


 しかし胸がいっぱいというフレーズは、結奈にとってはとても酷い発言だろうと思い謝罪した。


 例え結奈であっても配慮が足りていなかったなと後悔した。


「おー翔夜いま踏んではいけない地雷を踏んでしまったようだね?」


「だからごめんって!」


「そういうことじゃあないんだよ。ワザとなの? 絶対ワザとだよね?」


「無意識です!」


 発言して途中で気が付いて、これは直ぐにでも謝ったほうがい身のためだと思ったための行動だった。


 だがそんなことで結奈が俺のことを許してくれるはずもなく。


「あーもー翔夜がいろんな女性と関係を持っていることをここに暴露します」


「いったい何を暴露してくれているの!? 俺がそんなことすると思ってるのか!?」


 陸ほどではないものの爆弾発言をした結奈に俺は全力で抗議する。


 シスト隊員と関わりを持ったということを言っているのだろうが、それだといかがわしいことだとみんながみんな捉えてしまう。


「翔夜、ほんとに?」


「そんな疑いの目で見るんじゃない! 俺はさ……一人だけしか好きじゃないんだから信じるなよ!」


 沙耶が心配そうに俺を見つめてくるため、俺は全力で否定する。


 だが急いで否定するために発言したため、危うく沙耶が好きだと発言しそうになるも何とか誤魔化す。


 俺は至って健全な少年である。


「でも、最近校長先生と仲がいいし、観月先生とも話しているのを見るし……」


「それは、俺はできが悪いから気にかけているの……って言わせないでくれ!」


 実際俺のことを気にかけてくれていることは本当である。


 勉強もほかの生徒より飲み込みがあまりよくなく、ついていくことでやっとという状況なのだから。


 国内屈指の魔法技術高校なのだから仕方がないといえばそこまでだが、それを差し引いても実技しかできないため、放課後いろいろと面倒を見てもらっていたりする。


 あと試験があるため、俺自ら尋ねたりもしている。


「そう……?」


「それじゃあ、明日から試験だけどお互い頑張ろうねっ」


「おう!」


 そういって各々が昼食を再び取り始めた。


「それで、沙耶に勝つ自信はあるの?」


「ははっ、全くない!」


 みんなが俺のことを訝しげに見ていたことは言うまでもない。



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