第十話 非日常に見出す日常
只今教室前から転移魔法によって、コロッセオのような場所の上空へとやってきました。これから俺はクラスメイト達が待っているところへと行きたいと思うのだが、上空からの降下はあまりしたくないな。
男にしかわからないのだが、落ちる瞬間にジェットコースターとかで味わう、股間がフワッとする現象に襲われるのだ。
スカイダイビングとかしている人はこんなの日常茶飯事なのだろうが、俺は慣れる気があまりしないな。
「はぁ、行くか……」
転移してそのまま空にいるわけにもいかないので、それなりにスピードを出してみんなのいる場所に向かった。この世界に来て何度か経験していることなので、飛び出してしまえばどうってことはない。
上空で制服姿なのは寒くないのかと疑問に思っただろうが、心配は無用だ。俺は・したと同時に炎魔法で体を温めているので、全然寒くない。こういう時魔法が使えるっていいなって思うよ。
段々と目的の場所に近づいてくると、みんなもこちらの存在が見えたのか、何やらこちらを見上げているようだった。中には指をさしている人もいる。
この世界では、風魔法で空を飛ぶというのは意外と多くの魔法師たちが出来ることなのだ。中にはできない人もいるが、学生の内からできる人も何人かいるため、それほど珍しいということはない。
だから俺は空から堂々とやってくることが出来たというわけだ。
さて、間違って誰かに当たってはいけないから、誰もいないところへ向かった。近くなってきたら速度を落として、クレーターが出来ないようにしっかり着地をした。
普通は人間が地面に激突したらただでは済まないのだろうが、俺は神の使徒であるために体がものすごく強化されている。だから、前に着地をミスしたときは結構大きめのクレーターが出来てしまったのだ。
もちろん沙耶以外の誰にもバレないように急いで直したぞ?たぶん誰にもバレていないだろう……。
それにしても、わざわざ上空の、それも普通の人からはほとんど見えないような場所から来たので、多少時間はかかったがようやく登校することが出来た。いや、これは登校と言っていいのだろうか?はなはだ疑問に思うな……。
まぁそんなことはどうでもいい。まずは先生らしき人に話しかけておかないとな。
「すみません、遅れましたー」
先ほど教室に入った時のように、何事もなかったかのように教師らしき人に伝えた。みんな疑問や驚きが顔に出ているな。そりゃあ、俺だって空からヤクザ顔が降ってきたら驚くだろうから、この反応は普通なのだろうな。
「……えっと、君は?」
やっと正気を取り戻した先生らしき人に、自分が誰かと少々怯えた様子で尋ねられた。この高校の制服を着ているんだから、そんなに怖がらなくてもいいのに……。まぁ、今に始まったことじゃないから、あまり気にしていないから別にいいんだけどね。
「初めまして。俺はこのクラスの纐纈翔夜です。」
出来るだけ丁寧に、朗らかな笑みを浮かべて先生らしき人に挨拶をした。初対面というのは結構重要になってくるからな。ここで怖がらせるようなことを言ってはいけない。元々が怖いんだから。……ぐすん。
「あ、あぁ。纐纈君か。初めまして」
この人もようやく落ち着きを取り戻してきたのか、話に詰まることなくスムーズに次の発言に繋げた。
「私はこのクラスの魔法実技を担当する、橋本義人といいます。これからよろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
先生も朗らかな笑みを浮かべて自己紹介をしてきた。なんだ、思ったより結構いい人そうだな。前世ではほとんどの人間が俺と対面すると、ずっと警戒をしていたから俺と対面していても全然警戒していない人というのは珍しい。
「ところで、遅れてきた理由は何かな?」
少し困ったような表情になって俺に聞いてきた。段々と周りから、疑問の目から奇異な目で見られ始めているのがわかる。
「……あー、寝坊しました」
最初は適当な嘘をつこうかと思った。だが、ここは嘘なんてつかずに堂々とした態度で行こう!
いや、遅刻して堂々としているのは自分でもどうかとは思うけどさ、変に誤魔化すよりはいいだろうと思いなおして正直に答えた。
「まぁ今日は授業の初日だし、大目に見るけど。次からは気を付けるようにね」
「うっす、わかりましたー」
俺の予想通り、軽く叱られる程度で終わった!いやはや、全然怒らない先生はいいもんだな!俺の前世の高校にいた先生は大抵俺に怯えて許してくれていた。だからこういう体験をするのは初めてだ!
あーいや、初めてじゃなかったな。前世の高校で一人だけ、俺に怯えずに怒ったら引っ叩いてきた気の強い女の先生がいたな。
あの頃は普通の人間だったから叩かれると痛かったな。あの頃はよかったと思うより、思い出したらなんだかムカついてきたな。あのクソババアめ……!
「あと、これから行うことは周りの誰かに聞いてねー」
こういう時、俺は本当に沙耶が同じクラスでよかったって思うよ。知り合いがいないと俺は誰にも聞くことが出来ずにおどおどしていたと思うからな。というか、軽くも説明してくれないんだな……。
「さてと、沙耶は何処にいるかな?」
そう誰にも聞こえないくらいの声量で呟いて、俺はクラスメイト達がいる方向を見渡した。すると、奥の方にいるのが視界に入ったので、俺はその方向に小走りで向かった。
「おはよう、沙耶」
「おはよう、翔夜」
こういう普通の挨拶ができるというのは素晴らしいと常々思っているんだ。前世では、男子たちとはよく挨拶をしていたのだが、女子とはしていなかったからとても新鮮だな。
とはいっても、こっちに来てほとんど毎日会っているから、この挨拶もいつものことなんだけどな。
「今日迎えに行ったんだけど、インターホン鳴らして反応がなかったから、先に来ちゃった。ごめんね」
挨拶をした後に、沙耶は申し訳なさそうに謝ってきた。この子はなんていい子なんでしょうか!俺はもう嬉しくて泣きそうだよ……。
「いや、起きなかった俺が悪いから、沙耶が謝る必要はないよ。起こしに来てくれただけでもありがとう」
先ほどの作り笑いではなく、本当の笑顔になって礼を言った。
ついでとばかりに俺は沙耶の頭を撫でた。いつもはこんなことしないのだが、なんだかんだ妹のような存在だと思ってしまっているので、つい撫でてしまった。
「えへへ……!」
俺に頭を撫でられて沙耶は朗らかな笑みを浮かべた。これは流石に嫌がられるかと思ったが、大丈夫だったようだ。
この顔を見ていると、こっちも幸せになるな。くそう、可愛い奴め!
「朝から二人は仲がいいね」
俺が沙耶の顔を見て和んでいると、近くにいた怜が寄ってきて茶化してきた。ふっふっふ、怜よ。羨ましいだろう!俺の近くにこんな可愛らしくも出来た美少女がいるんだからな!
「うわ……そのドヤ顔ムカつくな」
おっと、顔に出ていたようだ。
「あ、えっと、剱持君だよね。これからよろしくね!」
そういえば沙耶はまだ怜としっかり話していなかったんだよな。これから恐らく長い付き合いになるはずだから、今のうちに打ち解けていたほうがいいだろう。
「こちらこそよろしくね、東雲さん」
二人とも笑顔で話しているし、仲良くやっていけそうで何よりだよ。
「んで、これから一体何が始まるんだ?」
「今更だけど、朝から翔夜がスカイダイビングしてきたことは誰も突っ込まないんだ……」
呆れたように怜が独り言をつぶやいた。そんなもん、俺が怖くて聞けないんだろう。沙耶はもうそんなの見慣れたというか、俺がこういう人間だということがわかっているようだし、何も疑問に思うことはないだろうな。
「これから各々の魔力測定をするんだ」
「魔力測定?俺が頭に思い浮かべているもので大丈夫か?」
魔力測定っていうと、よく漫画やラノベで聞く、個人の魔力を測定するあれだよな?
よく異世界に行った主人公がガラス状の球体に手をのせて魔力を測るやつだよな?俺はそれしか頭に浮かばないぞ?
いや、勉強したからわかるだろって思うかもしれないがな、俺だってまだ知らないことだってあるんだよ。勉強嫌い、なめんな!
「たぶん想像通りだと思うよ。自身のまとっている魔力を測定して、数値化するんだ」
「は~ん、なるほど」
こういうのって大体色分けされていて、適性のある属性とかも分かるはずだよな?いや、この世界ではわからないかもしれないんだけど。
でも、俺は神の使徒だから、適性とかなくたって普通に使えちゃうんだよな~。……そうだ、俺って普通の人じゃなくて神の使徒だった。
「……俺たちの魔力量って、絶対普通じゃないよな?」
怜にしか聞こえないように近くに寄って聞いた。
「まぁ普通じゃないだろうね」
そうだよ、俺と怜は神の使徒なんだから、魔力量が普通なわけがないんだよ。あー、目立つだろうな~。
「大丈夫なのか?」
正直俺は不安でしかないぞ?
「こればっかりはなるようにしかならないでしょ」
怜はどうとも思っていないように答えた。俺も怜のように気楽に考えられるようになりたいな……。だけど、俺は昨日聞いたアポストロ教のことを考えたら、結構慎重になってきちゃっているよ。
「あと、さっきまでは先生の説明とか話だけだったから、まだこれということはしていないよ」
「そっか、それはよかった。急いで来たかいがあったよ」
俺も怜を見習って今だけでも気楽に物事を考えよう!
「もしかしなくても、転移」
今度は怜が俺に近寄ってきて、俺にしか聞こえない声量で聞いてきた。
「それ以外にあるわけがないだろう?」
俺も声量を絞って答えた。今更だが、こういう会話をこんな場所で話していていいのかな?いや、他の生徒たちは魔力測定を始めた先生の話を聞いていて、こっちなんて見向きもしていないけどさ。
「二人っていつの間にそんなに仲良くなったの?」
俺たちが内緒の話をしているのが気になったのか、沙耶が仲良くなった理由を尋ねてきた。だけど、ここで神の使徒だっていうのは流石にダメだろう。う~んどうしよ?……あ、そうだ!
「同じ穴の狢だったんだよ」
これは我ながらいい解答が出来たと思う!これ以上ないほどにいい表現方法だろう!
「合っているけど、なんか悪い表現に聞こえるからもう少し言い方を変えてくれないかな?」
怜が嫌そうに改めるように言ってきた。いや、でもこれは結構いい解答をしたと思ったんだが、怜にはお気に召さなかったようだ。
「えっと、僕たちは使い魔を召喚できることで意気投合してね、昨日のうちに結構話すようになったんだ」
なんと、怜が俺よりもしっかりとした終着点を用意してくれた。確かにこの理由に比べたら同じ穴の狢は少々抽象的すぎたかな。
さっき、この理由は流石だなって思っていた自分が恥ずかしいよ……。
「あ、剱持君も使い魔を召喚出来るんだ~」
自分と同じく使い魔を召喚できることが嬉しかったのか、表情がぱぁっと明るくなっていくのがわかる。あと、嬉しそうにしている反面、使い魔を見てみたいと目が訴えている。
「まだ教えてはくれないがな」
使い魔が何かわからないと教えつつ、皮肉な意味も含めて俺も教えろと言外に訴えた。
「いつか教えるよ」
またここでも躱されてしまった。いったいいつなら教えてくれるんだこいつは?
「そこ、私語は厳禁ですよ」
「すみませーん!」
普通に会話をする声量で話してしまっていたので、叱られてしまった。
というか、なんで沙耶と怜は謝らないんだ?いやまぁ、俺だけの声が大きいせいで怒られたんだけどさ、一緒に謝ってくれても良くない?あー、はいはい、俺が悪いですよー。
さてと、まぁ今しがた怒られたことは忘れて、これから魔力量を測るわけなんだが、どうかある程度模範的な数値であってくれ!みんなが許容できるくらいの数値であってくれ!マジで頼む!