第一話 転生しました
空を見上げると、雲一つない実によい快晴だった。
この俺、纐纈翔夜は医療系大学に通う勉強嫌いな大学二年生、二十歳を迎えた童貞だ。
別に二十歳を超えているのに童貞とか何とも思っていないからな?大学のリア充みんな爆発しろとか思っていないからな?いやマジで。
今日は本来なら俺は大学へ行き、いつものように眠くなる講義を受けている。
だが、俺はサボって海へとやってきて、自分の足元まで届きそうになる波を眺めながら黄昏ていた。
ここへ来た理由は単純明快、前から好きだった子に告白して振られたのだ。
「はぁ……」
振られた理由は、俺は顔が怖いからだそうだ。
そんなことで……とは思ったが、確かに俺はよくいろんなところでヤクザと間違われる。
体も鍛えていて身長も百九十センチと長身なので、威圧感が半端ないと家族や友人にも言われる。
なんで家族にも言われなきゃいけないんだよ……。
まぁ、そんなこんなで俺に近づく物好きな女は今までいなかったよ。
寧ろ、今思えば避けられていたんじゃないかとさえ思えるな……。
「人生なんてクソゲーだろ……」
恋は盲目とはよく言ったものだ。
確かに告白する前は色々見えていなかったかもしれない。
けれど、告白してみればいろいろと自分を見返すことが出来るようになったよ。
べ、別に泣いてねーし!お豆腐メンタルだけど、目から出ているのは汗だし!
「……はぁ、もうこんなこと忘れて帰ってマンガ読もう」
いつまでも落ち込んではいられないしな。
落ち込んでいたって何かが変わるわけでもない。
だったら好きなものに没頭しよう。うん、そうしよう。
最終的には病院に就職するんだし、そうしたら精神的につらいことなんて当たり前なんだ。
だから、こんなことでクヨクヨしていられないな!
そう思い帰路に就こうとすると、それは突如として現れた。いや、正確には上から降ってきた。
それを目視するとそこで俺の意識は途切れてしまった。そして意識が途切れる直前に見たものは、とても大きな真っ白に輝く槍だった。
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「うぉ、どこだここ?」
気が付くと、俺は辺り一面が真っ白な空間にいた。
とりあえず周りを見渡すと、外国人と思われる金髪のイケメンな青年と、どこかのモデルなのかと思うくらい文句の付け所のない黒髪のイケメン男子と、今まで見たことのないような金髪の絶世の美女が一人いた。
男三人が座っていて美女が立ってこちらを見下ろしているので、この現況を美女が何かしら知っているだろうと即座に判断する。
なんか、俺だけ浮いているような感じだな、ヤクザ顔だし……。
くそぅ、イケメンに生まれたかった!
「さて、全員そろったことですし、お三方にはなぜここにいるのかを説明しましょうか」
悔しがっていると、美女が淡々と説明を始めた。
やっぱりこの美女は今の状況を知っていたか。
「まず、私は神様です」
……まぁ、なんとなく予想はしていた。
予想はしていたが、少し動揺するくらいには驚いている。
だが、友達の持っているラノベではこういう展開はよくあったからな。
読んでおいたから少しだけ驚くだけで済んだよ。そして、そのせいで寧ろ喜んでいる節さえあるぜ!
しかし、ほかの二人はあまり驚いていないな。なんでだろう?
というか、神様のドヤ顔ムカつくな。頭を引っ叩いてやりたい……!
「あれー、思った以上に驚かないんですね?」
神様は俺たちに驚いてほしかったのか、少し残念そうにしていた。
表情豊かな神様だな。
「いえ、これでも結構驚いていますよ。ただ、驚いていても仕方ないので、これから自分たちはどうなるのか考えていました」
「右に同じく」
そしてその残念美女とは正反対に、金髪イケメン君は真面目そうだな。
これからのことをしっかり考えているんだしな。
俺はただ困惑しつつも少し喜んでいるだけだったよ。
これが、出来る奴と出来ないやつの違いか……!
黒髪イケメン君は一応金髪イケメン君に同意はしているが、とても眠そうにしているな。
目が半開きだし、もうすぐ眠るんじゃないか?
あれじゃあ考え事もままならないだろうに……。
「う~ん、驚いてほしかったのですが残念ですね。じゃあ気を取り直して———」
「ちょっと待ってください。なんで俺たちは会話が出来ているんですか?おそらくここにいる人が全員同じ人種ではないと思うのですが」
女神の発言を遮って、金髪イケメン君が素朴な疑問を投げ掛けた。
確かに、この金髪イケメン君は見た感じ海外の方っぽいのに、流暢に日本語を話しているのは不自然だな。
いやまぁ、日本育ちという可能性もあるんだけど、本人がそう言っているからたぶん違うんだろう。
「あぁそれはですね、言語翻訳という能力をあなた方に付与しました。私神様なのでそんなこと造作もありません」
そう言うと、背筋を伸ばして真面目な顔つきになり、俺たちに説明を始めた。
能力付与とか、神様ってすげぇな!
「では説明を再開しますね。ここはあなた方でいう、現世とあの世の狭間にいます」
通りでさっきから何の音も臭いもしないわけだな。
さっき周りを見た限りだと、俺たち以外に生物どころか物が何もなかったし。
俺は全然実感がないからあまり驚いてないけど、ホントに何でこの二人は驚かないかね?肝が据わりすぎなんじゃないの?
「あなた方は、私の所有している『神の槍』というものによって死んでしまいました。本来は天の裁きを与える為のものなのですが、私が現世の営みを覗き見ているときに、この槍を近くに落としたら面白いかなーなんて思っていたら、誤って落としてしまいました。それが運悪くあなた方の頭上に落ちてしまったのです。本当に申し訳ありません」
ふむふむ、なるほど……。
……えっ!?
「おいこらちょっと待て! え、あの槍ってそんな理由で降ってきたの!? じゃなくて、そんなことで俺たちは死んだのか!? どうしてくれんの!? というか神様趣味悪いなっ!」
目の前で頭を下げている女神に対して、無礼にも俺は立ち上がって思い切り叫んでしまった。
いや、相手が神様とか関係ねぇから! 今まで読んだラノベの中にもこんなひどい理由はなかったぞ!? 神様は意外と暇なのか!? いや、変態なのか!?
「だってだって、野外であんなアクロバティックなものを見つけたら、覗き見したくなりますよっ!」
ガバッと顔を上げてなんかズレた抗議する神様に、もう敬語を使うなんてことは頭の片隅に追いやった。
さっきまで神様すげーなんて思っていたのに、尊敬できなくなってしまった。
なんでこんな奴が神様をやっているんだろうか……。
もう恐らく地球に帰ることは出来ないだろうが、とても心配になってきたよ。
「知らねーよそんなこと!というか、俺たちはこれからどうなるかを早く教えてくれよ!」
こんな不毛な会話するより、早く俺たちがどうなるかを知りたかったので、相手が神様だろうと急かした。
見てみろ、ここにいるイケメン達は先程はとても平常心だったのに、俺たちのことを呆然とした様子で眺めているぞ?
早めに会話の軌道を修正したほうがいいだろうよ。
だからさ、さっきからヤクザ顔めとか、童貞だって知ってるんだぞとか、告白失敗したの見ていたんだぞとかさ、ぶつぶつ言ってないで進めてくれないかな? 神様だろうと女だろうと思いっきりぶん殴るぞ? 仕舞には俺泣くぞ!?
「はいはいわかりましたよー。じゃあ気を取り直して。えーっと、あなた方の肉体は『神の槍』により跡形もなく消滅してしまったので、生き返らすことは出来ません」
不貞腐れた様子で答えるつもりなのかと心配したが、説明する時は凛とした表情になって話し始めたので安心した。
神の槍って威力がとんでもないんだな。
俺、肉体が消滅したなんてフレーズ初めて聞いたよ……。
「なので、私の管理するもう一つの世界に転生させようと思います。もちろん、ただでとは言いません。私が間違って殺してしまったので、あなた方には特殊な能力を授けてお送りいたします」
凛とした表情から一変、今度は本当に女神のような柔らかい表情を浮かべてこれからのことについて答えてくれた。
まぁ表情とかそんなことこの際どうでもいい!特殊な能力?なんだその魅力的な言葉は!?
「特殊な能力って何ですか?」
「確かにそれは何か気になるな!」
俺と金髪イケメン君は特殊な能力というのがどんなものか気になる。
流石にスプーン曲げや透視みたいな能力ではないだろうけど、気になるな。
「そうですね、まぁあなた方の世界で言うところの、チート能力というものでしょうか」
「ほぅ、なるほど。具体的にどんなことができるんだ?」
自分の口角が上がっているのがわかる。
チートという響きは素晴らしいなっ!
「そうですね~。例えば、地球を破壊したりできますよ」
「おい、俺たちはいったい何と戦うんだ?そんな力要らないだろ……」
何でもないことのように言うんじゃねぇよ。
さっきワクワクしながらワン〇ースとかNA〇UTOとかを頭に思い浮かべて喜んじゃったよ。
結構思っていた以上に危ないじゃないか。
もしかしたらあんたの世界を破壊しかねないんだぞ?まぁそんなこと好き好んでしないけどよ。
「転生するにしても、神々の中で色々制約が出来てしまったので、私の使徒という感じで転生する形になります。なのでどうしても力が強くなってしまうんですよー。そのおかげであなた方は、とんでもなく強い体を持つので簡単には死にませんし傷つきません、神の使徒なので。どう、結構すごいでしょう?でも、前まではちょっと才能を与えて転生させるだけで済んでいたのに……。まったく、めんどくさくなりましたよ……」
「おぉ、すごいな……」
手を頬に当てて少々めんどくさそうに、これから俺たちの扱いがどうなるかの説明をした。
先程の神様のような態度はいったいどこに行ったんだよ……。
今は威厳もへったくれもないぞ?
しかし、まさかの神の使徒かよ、すげぇな。
肉体強化までされているとは、恐れ入ったぜ!
……ん?あれ?
「もしかしなくても、今までも俺たちのように神の槍を落として人を殺していたのか?」
「……てへぺろ☆」
……美人だけど殴りてぇ! 超殴りてぇ! まるで子供が悪さを誤魔化すかのような感じで、あざといんだよ!
「あんたなぁ、いったい今まで何人殺してんだよ!? 馬鹿なんじゃないか!? あんたは神は神でも死神だろ絶対!」
こいつは人殺し常習犯か!? なんでこいつが神様なんだ!? というか、さっき言ってた制約って絶対こいつが原因だよな! こいつが槍を落としまくるからだよな!?
「はぁ? 死神は失礼ですよ!? これでも―――」
「五月蠅い。過ぎたものはしょうがないから早く話を進めてください」
女神の言葉を遮って、眠たそうにしながら黒髪イケメン君は言った。
いきなりだったから、みんな唖然としてるよ。
「「ご、ごめんなさい……」」
なんか言い争っていたのが申し訳なくなって、咄嗟に口から謝罪の言葉が出てしまった。
女神も俺と同様のことを思ったのか、同じタイミングで謝罪をした。
「こほん。では、話を戻しますね」
咳ばらいをして、再度真面目な様子で説明をし始める。
「えーっと、転生についてですよね。転生先は私のほうで決めさせていただきます。そして、転生をしたあなた方は赤子からのスタートとなります。記憶は引き継ぎますし、能力の使い方も頭でわかるようにしておくので問題ありません。また、転生させる世界はあなた方がいた世界とあまり変わりません。ただ魔法があり、魔物と呼ばれる化け物が跋扈しているくらいしか違いがないので、問題ありません」
「いや問題大有りだよ」
まさか最後に爆弾落としてくるとは思わなかった。
話を聞いていると、魔法〇高校の〇等生みたいな感じの世界なのかな~って思っていたのに、まさかそこに化け物が加わるとは思わなかった。
そして金髪イケメン君よ、口をあんぐり開けて呆けていると、カッコいい顔が台無しだぞ?
「まぁ化け物がいても結構平和な世界なんですけどね。そこは安心してください。」
「あんま安心は出来ないが、行くことに変わりはないから許容するよ……」
断ることも出来ないだろうし、そして何よりこいつは人の話とか聞かなそうだから、正直もう何を言っても無駄だろうな。
それに、さっき強い体と地球を破壊出来るほどの力をくれるって言っていたし、まぁ何とかなるだろう。
「そう言っていただけると助かります。それで、あちらの世界に行ったら、しっかりと立派に過ごしてください。私からはそれだけです」
「……それだけですか?使徒ってくらいだから何かを強制させられるかと思ったのですが……」
俺たちの扱いは神の使徒だもんな、金髪イケメン君だって疑問に思うだろう。
俺だってこいつに何か変な命令を下されるんじゃないかって、結構ひやひやしていたんだから!
「いえ、何か頼み事があれば確かにしますが、ほとんど私は何も干渉はしません。基本傍観主義ですので、世界を破壊しなければ好きに生きていいですよ。これも間違って神の槍を落としてしまった私の責任ですから」
「なるほどなー、じゃあありがたく第二の人生を歩ませてもらうよ」
あれでも責任を感じている様子だし、しっかりと第二の人生を謳歌しますかね。
来世はみんなに頼られるイケメン男子にしてください!もう周りから怖がられたくないから、結構切実にお願いします!
「はい。それではお三方、第二の人生をお楽しみください」
「あぁ、ちょっと待って下さい!」
これから俺たちを転生させてくれると言っていたのに、それを金髪イケメン君が遮った。
どうしたんだ?これから華々しい第二の人生が始まるというのに、全く無粋だぞ?
「赤子からということですが、記憶が戻るのは、せめて十年経ってからにしていただけないでしょうか?流石にこの歳で赤子を体験するのは遠慮したいので……」
申し訳なさそうに、そして少し恥ずかしそうに金髪イケメン君が頼んでいた。
俺はこれからの人生がどんな感じになるか考えていて、そのことについて失念していたよ。
「確かにこの歳で赤ちゃんプレイは嫌だな。というか俺は勉強も嫌なんで、義務教育課程はすっ飛ばしてほしいかなー?」
「ん~、しょうがないですね。じゃあ中学卒業後に記憶を呼び戻すようにしましょうかね。バラバラは面倒なんで、お三方とも記憶を取り戻す時期は一緒でよろしいですか?」
図々しく頼んでみると、意外と承諾してくれた。
来世の中学までの十五年間の俺よ、いろいろと頑張ってくれ……。
出来れば彼女とか作ってくれていると嬉しいな!
「はい、問題ありません。赤子の時期を飛ばすことが出来ますし」
「俺も問題ないぜ」
「楽なら、僕も、いい……」
みんな異議はないようだ。
というか、もう直ぐ黒髪イケメン君は眠るんじゃないか? 舟を漕ぎ始めているぞ?
「では、これで本当に転生させますね。皆さん、第二の人生を謳歌してくださいね。いってらっしゃい!」
そう言うや否や、俺たちの足元に強い光が発生した。
とても眩しく、腕で目を覆っていると、俺の意識は段々とぼやけていった。
そして意識を失う直前に、不穏な言葉が聞こえてしまった。
「あっ!……まぁいいか」
ちょっと待て、今度はいったい何をやらかしたんだ!? なにが『まぁいいか』なんだ!? 俺たち大丈夫なのか!?
そんな思いも空しく、俺の意識はそこで途切れてしまった。