2
第一章☆エコスフィア
年上のイーサンが、船内のライブラリで宇宙船の設計図を呼び出した。
レイとアランはイーサンを手伝おうにも知識不足で「あっちへ行っててくれ」とお払い箱になる始末だった。
「イーサンは宇宙船の故障箇所を調べてるけど、一人で修理できると思う?」
レイが年下のアランに聞くと、アランは首を横に振った。
「私たちはどうしようか?」
尋ねるレイを無言で引っ張って、アランはライブラリの展示スペースへ入っていった。
宇宙服の構造を説明してある場所で、アランは精一杯背伸びして銀色に光るヘルメットを外側から覗きこんだ。アランはまだ10才くらいの少年で、16才のレイからするとちっちゃな弟みたいな感じがした。
「僕にはこの宇宙服は大きすぎる」
「そうね」
「あっちのはなんだろう」
ちょこまか展示物を見て回るアランを、レイはかわいいな、と思いながらついていった。
「エコスフィア」
アランが興味を示したので、レイはアランの隣に立ってそれを見た。
硝子の球の中に、水と空気と、砂と、海草と、赤い小さなエビが入っている。
「半永久的に循環する一個の世界」
見えないバクテリアも入っているそうで、生態系が確立しているらしい。
「地球の小さな模型的世界・・・これはどういう意味?」
「ええと・・・そうね。地球もこんな風に循環して成立する生態系の世界ってことかな」
「食べて食べられて、分解されて、また循環するの?」
「うん」
「じゃあ、この宇宙船もこんな感じで循環しているの?」
「多分」
レイはアランの好奇心に感心していた。
「僕、お腹がすいたよ」
「そうね。私もよ。きっとイーサンもお腹すかせてるわね」
レイたちは宇宙船の食堂に行くと、自動調理装置のスィッチをオンにして、冷凍乾燥された材料を投入口に入れた。
大勢の乗組員の食事を提供してきたマシーンは、たった3人分の食事も文句も言わずに作ってくれた。
レイとアランはイーサンを呼んできて、三人で食事をとった。
イーサンは成人したばかりの青年で、正直なところ、宇宙船の修理なんてお手上げだったので、食事に呼ばれると喜んで食堂にやって来た。
「素直に救助が来るまで待ってるしかないな」
「そっかぁ」
ちょっとだけ今の状況を楽しんでいるレイだった。
深刻に悩んでいてもきりがないし、なにより、他にも人がいる安心感があった。
「そういえば、私、脱出ポットの中で変な夢を見たわ」
「どんなの?」
「エニグマと名乗る声が、謎の設計図を探すようにと言う夢」
「エニグマ・・・なんか、俺もぼんやりそんなのを見た記憶があるぞ」
イーサンが言った。
レイとイーサンはアランを見たが、アランは食べるのに夢中で聞いていなかった。