俺と彼女とトイレの個室[寧々] 【此処何処】
■ヒロイン4[繭美間 寧々(ねね)]■慧と行動を共にしている(自称)。ひどい時は、一日中ずっと付きまとっている。
俺の足音がダブって――二重に聞こえているような、気がする。振り返っても勿論誰もいないし、恐らく俺の思い過ごしに違いない。ああ、きっとそうに違いない。
そう自分に思い込ませながら、俺は教室近くのトイレの取っ手に手をかけ、中に入った。……よし、もう誰かが居る気配はしないな。
念のために個室の壁をノックして、中に入ろうとした。
コンッ コンッ コンッ
「はい、どうぞー」
おお、なんとも律儀なトイレだ。正に日本人の鏡のような心構えである。よりによって、中からこんな可愛らしい女の子の声が……
「って、んなわけあるかーー!!!」
引き戸をぶち壊す勢いで、ドアを開ける。
「よっす」
「よっす、じゃねえ!なにしてんだよ繭美間!さっきの謎の足音も、お前かっ!繭美間ぁ!」
「おうおうおう、よくそんな苗字何回も言えるよね。いやー一条君、一本取られたよ」
両手で『参った参った』とジェスチャーをしながら、そそくさとその場を後にしとうとする繭美間。
「おい、何もなかった風に出ていこうとすんな!何故ここにいる!答えろ!」
「そこに……君が居るから……かな……フッ」
「お前は『貴方はどうして山に登るんですか?』的な質問をされた時の、登山家かっ!」
彼女の付き添い()は、その後一日中続いた。