1 英雄
『ここはいったいどこじゃ?』
死後の世界でございます──
『わしは死んだのか?』
はい、かの英雄も寄る年波には勝てませんでした──
『ふむ……、百年近く生きてきたでな…。心残りがないではないが、大往生じゃのう………。して、お主は誰かの?』
私はファルフィーと申します──
神の一柱であり、貴方様が生きた世界を任されておりました──
『なんと、神様でしたか…!では、神様がいったいわしに何の用ですかの?』
魔神率いる邪悪な魔族との長き戦いに終止符を打った英雄──
貴方様は多くの人々を救い、世界に安寧と平和をもたらしました──
よって、神の名の下に貴方様に出来うる限りの恩恵を授けようと参りました──
英雄の最後の望みを叶えようと──
『それはそれはありがたい話ですな』
それだけのことを貴方様は成し遂げたのです──
それでは貴方様の願いをお教えください──
『願い……か………。わしはわしの人生に満足しておった。幼き頃から剣の道に進み、生涯のすべてをかけてその道を極めんとしました。毎日毎日ただ剣のことを考え、命を懸けて戦い、魂を削って剣を振るいました。迫り来る敵すべてを斬り伏せ、いつの間にか英雄とまで呼ばれていました。長く生きて得た物は数知れず、退屈のない良い人生じゃった。そのうえ、こうして神様に認められたのじゃから、文句などありますまい。満足しております。……………ただ、欲を申し上げますとな、弟子が欲しかったのです』
お弟子様…ですか──
しかし、貴方様に教えを請おうと集まった者はもはや数えきれず、数多のお弟子様をお持ちだったと記憶しておりますが…?──
『はい。ありがたくも、多くの者に慕われ、たくさんの弟子を持ちました。されど、真に業を受け継ぎし者はついぞ現れませんでした……。一番弟子でさえ、わしが納得するほどの業を体得できなかったのです。過ぎた願いかもしれません。しかし、わしが極めようとした道を、すべてをかけた業を誰かに継いで欲しいのです。もしも願いが叶うというならば、わしを越える才覚を持った弟子、そしてその弟子にすべての業を授ける時間を頂きたい…!』
……………その願い、承りました──