ケーキ作り
ハヤトはサラが出て行った後も、1人で考えていた。
自分の秘密をサラたちに話すべきなのかどうかを。
「・・・・・・マスター、どうされたのですか」
「ん? なんでもないよ。 心配してくれてありがとうな」
ニオはハヤトの膝の上に、ちょこんと座ると、ハヤトはそんなニオの頭を撫でてやる。
「・・・・・・・んっ・・・・ああっんっ、ま、マスターは・・・・・・テクニシャンですね」
「・・・・・・そんな声出す必要あるか?」
「世の女の子が、1人でいる時に何かしている時はこのような声を出すのではないですか? 」
「・・・・・・・・それは俺が答えていい質問じゃないよな」
何がですか?という顔をしながら、ニオは小さく首を傾ける。
「まぁ、いいや。 それより退いてくれないか、動けないんだが」
「・・・・・・・・マスターは私がお嫌いですか」
「いや、嫌いとかではなくな。 ただ、トイレに行きたいんだ」
「マスターは私をトイレとして使わないのですか」
「そんな特殊な趣味はない・・・・・・・・・というか、どこでそういう知識を覚えてくるんだ、ニオ」
「私は精霊なのですよ、わからないことなど無いのです、えっへん」
無表情な上、全くない胸を張るニオを見ていると、威嚇の際に体を大きく見せようとするミーアキャットを見ているような気分になってくる。
「・・・・・・マスター、今失礼なこと考えてませんでしたか?」
「か、考えてないって」
「・・・・・・・・言っておきますが、私はこんなんでも、凄い精霊なのです、敬ってほしいです。讃えてほしいです。褒めてほしいです」
「・・・・・・ニオ、なんだか態度が大きくなってないか? もしかして・・・・・・・怒ってる?」
「・・・・・・・怒ってません」
ニオはぷいっと顔を背け、頬を膨らませる。
「マスターは精霊である私の機嫌をとる必要があると思います。 ケーキ食べたいです。ケーキ食べたいです」
「って言ってもなあ」
窓の外を見ると、先ほどまではポツポツと降り始めていた雨が、強く降り始め、窓ガラスもガタガタと音を立てていた。おそらく、風も吹き始めたのだろう。
「こんな天気だと、ケーキも美味しくないぞ? 」
「なら、マスターが作ってください」
「俺が?」
ケーキの作り方は以前本で読んだことがあるが、セーラと住んでいた家にはオーブンが無かったため、ケーキを作る機会が無かったのだ。
「うーん、材料あるかな」
「ワクワクです」
「・・・・・・ミルクが無いな」
冷蔵庫の中を探しても野菜や肉はあるものの、飲み物といえば、水とサラが健康のために読んでいる野菜ジュースくらいしか無い。
「・・・・・・・作れないのですか?」
「うっ・・・・・・・待ってろ、誰かから貰ってくるから」
ニオを部屋に残し、ハヤトはミルクを貰いに、厨房に向かう。
「あのすみません」
「なんだい?」
「ケーキを作るためのミルクを切らしてて、少しだけもらえないですか」
厨房の男性コックは少しだけ困った顔をしてから答えた。
「すまないね、生徒に材料の提供はしてはいけないことになってるんだ。昔、トラブルがあったりしたから」
「そう・・・・・・ですか。 どうしようか」
「ハヤトだ」
「あっ、ネリーミルクを少しだけ貰えないか?」
「・・・・・・なんでミルク?」
ネリーは一瞬考えてから、何か思いついたような表情を浮かべてから、ハヤトのことをジト目で睨んだ。
「まさか・・・・・・サラとミルクを使ったプレイを・・・・・・・」
「俺とサラはそういう関係じゃ無い!!」
若干引き気味のネリーにツッコミを入れるハヤト。
その様子に、コックの男性は思わず笑いをこぼした。
「・・・・・・ それでミルクでしょ? なら部屋にあるから付いてきて」
「リエラ、入るよ」
「リエラ?」
部屋に入ると、リエラが花瓶の水を替えていたところだった。
「あら、ハヤトさん。 ネリーがおきゃくを連れてくるだなんて珍しいですわね」
「2人はルームメイトだったのか」
「はい。 ネリーは不器用ですから、なかなか他のこと仲良くなれないのです」
「言わないで!」
リエラの発言に、ネリーは小さな手で、ポカポカとリエラの胸を叩くが、衝撃を受けるたびに、ポヨンとリエラの胸が跳ねる。
それをネリーは恨めしそうに見つめていた。
「何を食べたらこんなに・・・・・・・ゴニョゴニョ・・・・・・」
「・・・・・それで、ハヤトさんは何かご用ですの?」
「ああ、それなんだが・・・・・・ミルクを貸して欲しい」
「ミルク・・・・・・私はま、まだミルクなんて出ませんわっ!」
「いや違うから!!」
「・・・・・・はっ、ま、まさか・・・・・サラとミルクを使ったプレイを!?」
「ネリーと同じこと言ってんな・・・・・」
「・・・・・違いますの?」
「リエラって・・・・・意外に天然なんだな」
リエラとあまり話したことは無いため、リエラは冷静沈着でしっかりした女の子だとハヤトは思っていたのだが、どうやらそのイメージを変える必要があるようだった。
「ミルクですわ」
「ありがとう、リエラ。 それじゃあ」
「ハヤトさん!」
リエラからミルクを受け取り、部屋へと戻って行く途中に、リエラに呼び止められた。
「な、なんだ?」
「料理するなら、私がアドバイスいたしますわ。 これでもアルミット家の淑女ですし、料理は一通り仕込まれていますの」
「・・・・そうだなあ、ケーキ作るんだけどさ、作り方は知ってるけど、作ったこと無いからお願い出来るか」
「ネリー行きますわよ」
「わ、私も?」
「・・・・・・人がいっぱいです。 マスター」
「賑やかだな」
普段はハヤトとサラとニオしか住んでないため、ネリーとリエラの2人が加わるだけで、部屋が狭く感じてしまう。
「ただいま・・・・・あれ? リエラとネリーだ」
リズベットの部屋を訪ねていたサラが、数枚の書類を抱えて戻ってきた。
そして、珍しくネリーとリエラがいる様子に、サラは驚いているようだ。
「ニオがケーキ食べたいって言うからさ、作ろうと思ったんだけど、作り方しかわからなくて作ったこと無いから、リエラに頼んだんだよ」
「そっか、リエラ料理上手だからね」
「この前なんて、食堂のコックさんに料理勝負で勝ってて泣かしてたわよね」
「凄いな」
ハヤトにはあの少し強面のコックが泣いている姿を想像が出来ない。
「そ、そんなこと無いですわ・・・・・」
「リエラの手料理もいつか食べてみたいな」
「もしかして・・・・・・・・私の料理美味しく無い?」
リエラのことを褒めていたハヤトの様子を見て、サラが露骨に落ち込んでしまった。
「あっ、いや、サラの料理も美味しいから!」
「これが女たらしか・・・・・・・・でも、悪く無いかも」
騒いでいる3人を少しだけ羨ましそうに、ネリーは見つめていた。
「・・・・・・はむはむ」
「これ美味しいな」
「甘すぎなくて、さっぱりした甘さだよね」
「本当に美味しい」
「喜んでいただいて良かったですわ。 このスポンジケーキは紅茶にもとても合いますわ」
「それじゃあ、人数分紅茶淹れるね」
「そういえばさ、今度模擬戦あるけど、ハヤトも出るの?」
「模擬戦?」
「ランキングってただ単に学園長たちが決めてるわけじゃ無くて、他学園との対抗試合や模擬戦で稼いだポイントでランキングを決めてるの」
「ハヤトも模擬戦で勝てないとランキング下げるよ」
「気をつけるよ」
つまり、サラたち含め、上位のメンバーはほとんど試合では負けなケーキ作りいということになる。
「模擬戦の相手は張り出されるから、今度確認しに行こうか」
サラは自分の分を含む、5人分の紅茶を注いでいく。
「みんな頑張ろうね」
サラは小さくガッツポーズを見せたのだった。