ワイバーンの群
「ハヤト君、これがボストニアの大広場だよ」
ハヤトたちはぶらぶらと歩きながら、大きな泉のある広場にやってきた。
「あの大きな時計があるのが、ボストニアで一番大きな教会だよ、その反対側には各国から来た来賓の人ための宿泊施設」
サラの言う通り、目の前には顔を上げると、首が疲れそうなほど大きい立派な建造物があった。
「・・・・・・この国は立派な建造物が多いな、100年以上の歴史のある街だしな」
「・・・・・・幼少期はボストニアの歴史を覚えさせられたのを思い出しますわ」
「・・・・・・・苦手だったなあ」
サラとリエラのお嬢様コンビは仲良く遠い目をして、空を見上げていた。
「そういえば、この泉に目を瞑りながらコインを投げて、あの壺には入ると、恋愛が成就するって言われてるよね」
「の、ノーラは・・・・・・そ、そういうの信じてるのか?」
先ほどまで何事もなく話していたアルジオが露骨に焦り始めた。
「うーん、私はそういうのに頼りたくはないかな」
「・・・・・じゃあ、ノーラはどういうのがタイプだ?」
「・・・・・・・・・私より強い人かな」
ノーラの発言にアルジオは脳内で考えていた。
「(ノーラより強い男子・・・・・・この学園には上位10人は全員女子・・・・・・いや、ハヤトがいるじゃないか、ま、まさか・・・・・・ノーラの好きな人って・・・・・・いやいや、ノーラとハヤトは今日会ったばかりだ。一目惚れとかでなければ・・・・・一目惚れ!?)」
「・・・・・・なんかアルジオに恨めしい目で見られてる気がする」
「ハヤト・・・・・・俺はお前を信じてるからな!!」
ハヤトの両肩を掴み、アルジオは大きくハヤトの体を揺らしながら言った。
「アルジオ、ハヤ君が困ってるよ」
「ハヤ君・・・・・・??」
「ハヤトだから、ハヤ君。 ・・・・・・・・ダメかな?」
「ハヤト・・・・・・・信じてるからなっ!」
もう一度肩を大きく揺らしているアルジオの強い視線を無視しながら、ノーラの発言に返答する。
「ノーラがそれで呼びやすいならそうしてくれて構わないよ」
「ありがとう。 アルジオ何してるの?」
「な、何もしてない! 」
アルジオの行動で、ハヤトは確信を持った。
「・・・・・・なるほどね」
「やっぱり気付くよね」
いつの間に移動したのかハヤトの前にいたサラが、ハヤトの右側に立っていた。
「アルジオが、ノーラを好きってことか?」
「うん、アルジオはすごいんだよ、ノーラに告白するためにはノーラより強くならないといけないからって、ランキングを50位くらいから上げたんだよ」
「凄いな」
「・・・・・・・」
「なんだ?」
「にゃ、にゃんでもない・・・・・・・」
舌も回って居ないし、明らかに動揺しているのだが、ハヤトは追求せず、言葉を飲み込んだ。
「しかし、いい街だな、ボストニアは」
「うん」
突如、2人の良いムードをぶち壊すかのように、突如爆炎が上がった。
「な、なんだ!?」
ハヤトたちは咄嗟に武器を手にする。
「あれは・・・・・・なんだ」
「そんな・・・・・・なんであれがこんなところに・・・・・」
動揺するサラの視線の先には、赤い肌を保つワイバーン型精霊がハヤトたちを見下ろしていた。
「サラ、どうしたんだ」
「・・・・・どうして・・・・・」
ワイバーンはサラに向かって、咆哮を吐いた。
「危ない!」
間一髪のところで、ハヤトはサラの体を抱きよせ、攻撃を交わした。
「ハヤトさん、サラを頼みましたわよ、私たちは手が離せないですから」
「・・・・・・・これは」
目の前には、ワイバーンの群が天空から降りてきている。
「・・・・・解放。踊りなさい、バルドール!」
解放呪と共に、リエラの剣が光り輝いた。
「・・・・・輝きなさい シャイン ソード」
リエラの剣は元々の刀身に光の刃が更に加わり、二倍以上の長さになった。
「ギャアアアオウ!!」
「・・・・・・遅いですわよ」
襲いかかったワイバーンはリエラの一振りで真っ二つになり、消滅していく。
「おらよっと!!」
「はぁっ!!」
アルジオとノーラの2人も次々とワイバーンを撃退していく。
「・・・・・・サラ、俺がついてる」
「・・・・・ギャアアアオウ!!!!!」
「・・・・邪魔だ」
ハヤトはリエラの一振りより早い居合切りで、ワイバーンを切り捨てた。
「ハヤト、平気か!」
そこに離れたところで戦っていたアルジオが駆けつけた。
「俺は平気だが、サラは戦意喪失してる」
「そうか・・・・・・ハヤト、見えるか。 あの空にいるでかいワイバーンを」
「ああ、あれはおそらくこいつらの親玉だろう。 俺が斬る」
「・・・・・は? この距離だぞ? 遠距離攻撃が出来るルティアが来るまで待とう、近距離の俺たちには無理だ」
「・・・・・・俺は最強になりに来たんだ、そして、俺は俺も受け入れてくれたサラたちに恩を返す」
ハヤトはサラをアルジオに預けると、数歩離れたところで、刀を構えた。
「・・・・・この技は剣術というにはあまりにも雑で、振りが大きくて、試合なんかには役に立たないがな、この技なら飛んでいても関係ない・・・・・・≪神速流奥義 六ノ型 雷光≫!!!!!」
ハヤトはまるで薪割りのように、刀を担いだ。
そして、魔力を一気にニオへと流し込む。
「・・・・・・マスターの力受け取りました」
「おおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
空気が真っ二つになるような斬撃が、巨大なワイバーンを切り裂いた。
残骸が落下しながら光に包まれ消滅していく。
「・・・・・・終わったか」
刀を鞘に戻し、サラの元へ駆け足で戻る。
「・・・・・大丈夫か、サラ」
「うん、もう平気」
全く平気には見えないが、サラの気持ちを察して、ハヤトはぐっと言葉を飲み込んだ。
「ハヤトさん、私たちは街への被害の確認に向かいます。 なので・・・・・・・・サラのことお願いしますわ」
「わかった、サラ行こう」
「・・・・・・おんぶしてくれる?」
「うん」
ハヤトはサラの体を背負うと、転移石を使わずに、歩いて部屋へと向かうのだった。