リズワーナ家の当主候補
「ハヤト君、おはよう」
起きて部屋を出ると、サラが朝ごはんを作っている途中だった。
エプロン姿があまりにも似合ってるせいか、朝から体が熱くなるのを感じた。
「・・・・・ハヤト君のエッチ」
「俺何もしてないだろ!」
「・・・・・・・・・じー」
サラがジトーとした目でハヤトを見てくるが、気にしないでおこうと考え、椅子に座る。
「はい、どうぞ」
「美味しそうだ、サラは良いお嫁さんになるよ」
「お嫁さんひゃん!? そ、そんにゃこと・・・・・・・」
「?」
ハヤトは何かマズイことでも言っただろうかと心配になっていると、サラは後ろを向いて、ブツブツと何か呟いている。
「・・・・・・ずるいよ、ハヤト君」
「・・・・・??」
「・・・・・・・・ もう、あっ、ハヤト君はこの町って観光とかもうした?」
「いや、忙しくて、なかなか行けてないな」
その言葉を聞いて、サラの顔がパアッと明るくなる。
「じゃあ、出かけない? 」
「ボストニアをか?」
「うん、流石に広いから難しいけど、学園の周りくらいの地理は把握しておいた方が、何かと便利だと思うし。 」
「そうだな、わかった。 案内お願いな」
「うんっ! 任せて、ボストニア屈指の歴史のある町、フォーザックをご案内ですっ!」
こうして、ハヤトはサラとボストニアを散策することになった。
セーラから聞かされていた通り、ボストニアは世界屈指の歴史のある国らしく、町の所々に、おそらく名のある職人が作ったのだろう。
様々な形をした銅像や建築物が建てられている。
橋沿いを進んでいくと、外装は立派な大理石で造られている建物が存在感を示しており、観光客だろうか? 景色を記録できる水晶を取り出し、建物の前で撮影を行っていた。
「なぁ、サラ。 あの建物は大使館か何かか?」
「ん? あれはね、美術館だよ、結構立派な美術館だよ。確か、ボストニアで一番大きいんじゃなかったかな」
「へえ。サラは絵は描いたりしないの?」
「・・・・・・もう、何年も描いてないかな。 それどころじゃなかったから」
「・・・・・・・ごめん、言っちゃいけないことだったよな」
すると2人が気まずくなっているところに、1人の少女が通りかかった。
「あら、サラ。 どうされたんですの?」
「リエラ!」
リエラと呼ばれた少女は髪を長く伸ばし、口調と、綺麗な金髪から、名家の出身であることが伺えた。
「サラと一緒にいるその殿方はどなたですの?」
「ハヤト君は私のルームメイトだよ」
「よろしく、ハヤト・シノハラだ。えっと、ランキングも言ったほうがいいのかな、学園長とリスベットからは6位だって言われた」
「なら、もしかしたら一緒に剣技祭に出ることになるかもしれないんですのね、こちらこそ、リエラ・アルミットと申します。以後お見知り置きを、学園でのランキングは3位ですわ」
「ああよろしく」
リエラはスカートを両指でつまみ、少しだけ持ち上げながら、お嬢様らしく、ハヤトに会釈した。
「・・・・・・・」
「ハ、ハヤトさん・・・・・・・・そんなにジロジロと見られると、恥ずかしいですわ」
「あっ、ごめん。お嬢様って本当にこうやって会釈するんだなって思ってさ」
「・・・・・? 何言ってるんですの、サラだって名家の出ですし、会釈くらいしたのでは・・・・・・な、何でもないですわ」
リエラは自ら言葉を途中で遮り、気まずさをごまかすためなのか、髪を触り始めた。
「リエラも気にしすぎだよ、何年も前のことだよ」
「そういうわけにはいきませんわ。 友人として、心配することが悪いこととは思いませんもの」
「そっか・・・・・・・ありがとう。リエラ。 ハヤト君にフォーザックを案内してたの」
「そうでしたの、この町は歴史と伝統が溢れる町ですから、異国から来られた方にはとても新鮮だと思いますわよ」
「・・・・・・サラも名家の出だし、リエラもそうだろ? 2人とも随分と口調が違うんだな」
「わ、私の喋り方・・・・・おかしいですの?」
心配そうなリエラにハヤトは首を横に振って答えた。
「いいや、可愛いと思うよ。 口調や態度って立派な個性だと俺は思うしね」
「//////////あ、ありがとうですの・・・・・・・」
「??」
顔を赤くしているリエラとその理由がわからず、首を傾げているハヤト、そしてそのハヤトをジト目で恨めしそうに見ているサラだった。
「・・・・・・・なんか、小腹空いたな」
ハヤトは思い出したかのように、ポツリと言った。
「えっと、この辺りに何かあったかな」
「・・・・・・・新しく出来たお店ですけど、ここでよろしいのではなくて? 昼食というより、おやつになりますけど」
リエラが指差す方向には、甘い匂いを漂わせているケーキ屋が建っていた。
「うー、この時間にケーキ・・・・・・・でも、後で動けば問題ないかな」
「・・・・・自分で言っておいてあれですが、最近食べすぎなの忘れてましたわ」
ハヤトの後ろで、2人がブツブツと何か言っているが、聞かないほうが良さそうなので、ハヤトは聞いていないふりをしている。
「よしっ」
「サラ、行きますわよ」
何を決心したのかはわからないが、サラとリエラは仲良くケーキ屋に近づいていく、その様子をハヤトは不思議そうに眺めていた。
「こ、これが・・・・・・ケーキか」
「・・・・・・悪魔の食べ物だよ」
「魅力の魔法でもかけてあるのかもしれませんわ・・・・・・・・」
3人がケーキをじーっと眺めているのをウエイトレスが、怪訝な目で見ているが、3人は気付かない。
「おっ、サラとリエラじゃん」
「え?」
声の方向には、ハヤトたちと同じ制服を着た2人が立っていた。
「・・・・・・何してるの?」
男の後ろには、ネリーと変わらないくらいの小柄な少女がひょこっと顔を出す。
「あっ、ハヤト君紹介するね。 アルジオとノーラだよ」
「なるほど・・・・・・・お前がハヤトか。 俺はアルジオ・ヘンドリックだ。 ランキングは13位だ」
アルジオが自己紹介を済ませると、ノーラはゆっくりとハヤトの前に立つ。
「ノーラ・ディラジオだよ、よろしくね、学園ランキングは9位」
「ああ、よろしく」
ノーラと握手を交わす際に、アルジオの笑顔が一瞬だけ引きつったことには誰も気がつかなかった。
「で、彗星ごとくランキング上位に食い込んだハヤトはさっそく女子2人をはべらせてハーレム構成か・・・・・・・手早いな」
「なんでそうなる!?」
「冗談だよ、しかし・・・・・・サラがすぐに心を開くなんてな」
後半は声のトーンを落としていたが、耳の良いハヤトは聞き逃さなかった。
「(心を開いた? どういうことだ)」
サラが何かを抱えていることは明白だが、プライベートなこともあるし、直接聞こうにも、タイミングがなかなか掴めない。
「・・・・・・なあ、全員で散歩しようぜ、ハヤトの案内も兼ねてさ」
ケーキを完食していたリエラとサラはアルジオの提案に、即座に賛成するのだった。
「ハヤト、少し良いか、みんなより少しだけ歩くスピード緩めてくれ」
「わかった」
アルジオの真剣な表情に、ハヤトは何も言わず従った。
「サラとルームメイトのハヤトになら話しても良いと思うから、サラの家のこと話すぞ」
「サラの・・・・・・・??」
「ああ、サラの家はボストニアの数ある名門の一つだ。ボストニアの歴代の王にはリズワーナから出たこともあるほどさ」
「凄いんだな、サラは」
「・・・・・・正確には"凄かった"だろうな」
「・・・・・どういうことだ」
ハヤトの質問に、アルジオは少し間を置いてから答えた。
「・・・・・サラと数人の使用人とサラの執事を残して、リズワーナ家は殺害されたんだ。 たった1人の男に」
「クーデタ・・・・・・・」
「その首謀者は、サラの実の兄で次代の当主になる予定だったクエト・リズワーナという男さ」
「なっ!?」
信じられないアルジオの発言に、ハヤトは思わず声を上げた。
「・・・・・・本当のことさ、サラが執事と外出中に、サラの家族はクエトに殺害された。 その後行方をくらましていて、殺害理由は今も不明なんだそうだ」
「理由って、王の座に早く就きたかったとかじゃないのか」
「それがな、クエトはサラを当主に推薦していたそうだ。元々魔力も低いし、戦闘も苦手だ。だからこそ、警備隊も敵わなかったのが不明なんだよ」
「・・・・・・・サラはそんな過去を抱えていたのか」
「だから、サラは男に対して、あんまり信頼をしてないんだ。 俺だって、サラとまともに話すようになったのはちょい前だしな。 だから、この話をハヤトにしたんだ」
ハヤトはリエラとノーラと共に前を歩くサラを見つめた。
過去にそんな重いものを抱えているとは思えないような、明るく楽しそうな笑顔を見せていた。
「・・・・・おっ、な〜に、ジロジロと見てんだよ。 あっ、もしかして・・・・・・・サラに惚れてる?」
「・・・・・・なんでそうなる ・・・・・・・・まぁ、可愛いと思うけど」
「ま、頑張れや」
アルジオの言葉を聞きながら、ハヤトはサラの笑顔を見つめていた。