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ミルカの過去

「かったるい」


「クエト様の命令でしょ、良い加減にしないと、殺すわよ」


「ちっ」


ハヤトたちが森へと向かう少し前に、ザルドとミルカは大きな布袋を持って、ある男のところへと向っていた。


ボストニアという国、学園を滅ぼすための手始めとしてだ。


「しかし、そこら中封印だらけじゃねえか、こんなところだとガキが使うような低級魔法すら使えねえだろ」


「だからこそ、どの国も情報を掴めてないんでしょ、私たちですら向こうからのアプローチがないとここには来れなかった」


「ここか」


「みたいね、そこら中に私たちを監視している人たちが隠れてるし、これだけいたら殺すまでに多少は喰らうかしら」


ミルカはニヤリと笑みを浮かべつつ、蕗に手を添えた。


「やめとけ、お前の遊びに付き合える奴らじゃねえよ」


「え〜〜、ミルカは〜、か弱いし〜、そんな暴力しないもーん」


時折見せるぶりっ子演技に、ザルドはイラつきを覚えるが、ミルカはこの演技で様々な男たちを籠絡してきた。


この少女に少しでも隙を見せれば、同じ組織に所属しているとはいえ、いつ首を取られるかわからない。


ミルカ、フルネームはミルカ・バートリック。


幼い容姿を利用して様々な国の要人の暗殺を請け負っている強者だ。


その真の実力は、ザルドも見たことは無い。


全く真意の見えない彼女の態度の裏側に感じる恐怖感、そして時折見せる冷たい目、人を殺すことに対しての一切の躊躇も後悔もないミルカが勝てないという話をザルドは聞かなかった。


「お前か、俺らを呼んだのは」


「はっはっはー、良いねえ〜、そういう闘争心丸出しの人」


「んだと?」


「貴様、この方になんて口の聞き方を」


「俺らが本気を出せば、この場にいる奴らは殺せる、黙ってろ」


「私は〜、そんなことしないよ〜」


「俺らも暇じゃねえ、要件を言え」


ザルドが話を切り出すと、待っていたとばかりに、男は笑みを浮かべつつ、小袋を取り出した。


「前金だ、君たちもボストニアには恨みがあるのだろう? 我々があの国を手に入れる為に協力して欲しいのだ」


「なるほどな、覆面をしているが、俺はお前の正体がわかったぜ」


「ええ〜、ミルカわかんなーい」


「お前はいつまでそんなことしてんだよ」


「これ、疲れるのよね。 で、誰を始末したら良いのかしら」


「ボストニア学園のランキング上位のメンバーは最低限だ」


「良いわよ、その代わり前金の5倍は貰うわ」


「貴様!」


取り巻きたちはナイフを取り出すが、ミルカの視線に身動きが取れなくなる。


「なっ、なんだ・・・・・・これは」


「東洋の諺にこんな言葉があるの『蛇に睨まれた蛙』って」


「こいつは俺よりも気が短いぜ、黙っておいた方が良いかもな」


「素晴らしい! その目は人を殺めることに迷いのない目だ!」


「お金の件、よろしく」


ミルカは能力を解き、ザルドと共に部屋を出た。




「しかし、なんつう不気味な男だよ、お前のあの能力を見て身震いすらしてなかったぞ」


二人は召喚した魔獣に乗り、アジトへと戻っていた。



「イカれてるわね、多くの人間を殺し過ぎると人間は狂うのかしら。 まぁ、私も人のことは言えないけれど」


「でも、あいつ・・・・・・クエトに会ってから、お前は少なくとも人間には近づいたんじゃねえか、お前の噂を初めて聞いたときは俺でも正直怖くなったぞ」


「噂ねえ」


ミルカはタリアーナ王国出身で、物心ついた時から物乞いや家事の手伝いをして過ごしてきた。


一緒に育った少年たちから聞いた話によると、ミルカのことをよろしくと言って少年たちに預けた女性がいたのだという。


ミルカは周りの助けにより、たくましく育っていった。



そして、ある日仲良しの女の子と共にある男に拾われた。


二人は今までにないくらいの裕福な生活をし、毎日毎日腹を満たし、欲しいものはぬいぐるみ、化粧品、音楽楽器、馬、馬車、執事なんでも手に入れることができた。


いつの日からか、使用人たちが居なくなり、不自然な人形が増えるようになったが、男の趣味か、魔道士である男には必要なものなのだと思った。


カリサとミルカの二人はいつまでもこの生活が続くと思っていたが、ある日ミルカの友達だった女の子は忽然と姿を消したのだ。


「おじさん、カリサは? ねえ、どこへ行ってしまったの?」


ミルカは小さな体で大柄な男の体を揺すった。


そして、男は気味の悪い笑みを浮かべてこう言ったのだ「カリサちゃんかい、そこにいるじゃないか」


「え?」


ミルカは辺りを見渡したが、カリサの姿などどこにもなかった。


あるのは男に開けることを禁止されている大きなタンス、音楽が好きなカリサが欲しいとねだった一流職人の作ったオーダーメイドのグランドピアノ、どこへの国の画家が描いた名のわからない絵画、いつも綺麗に咲いている花瓶とそこに刺さっている花。


カリサなどそこにはいなかった。


「え、カリサ? どこなの!」


「この子だよ? いつも一緒にいたのに忘れてしまったのかい?」


いや、ミルカは一つだけ見落として居た、いや、一つというより大勢といった方が正解なのかもしれなかった。


そこにあったのは、いつからか増え始めた大人サイズの人形だった。


その中に大事そうに抱えられてミルカの身長と同じくらいの人形を手に持ち、男はミルカに手渡した。


「・・・・・・・え?」


「どうしたんだい? 仲良しのお友達のことを忘れてしまったのかい?」


「・・・・・・・だ、だってこれは人形で、カリサは人間」


「いやあ楽しかったなあ、やはり子供は良いねえ、内臓を取り出す時なんか耳の鼓膜が破れそうになるほどの悲鳴をあげてくれたよ、ふふふ」


「人形・・・・・・・・じゃない」


ミルカは男がカリサだという人形の手足の皮膚感を確かめ、そして認めざるを得なかった。


肌の質感はどう考えても人形のような作り物などではなく、人の肌だったからだ。


よく見ると、他の人形たちの顔にも見覚えがあった。


彼らは二人の世話をしてくれていた使用人たちだ。



「ミルカちゃんにプレゼントだあ、まぁすぐに君も同じにしてあげるよ」


「・・・・・・・い、いや」


「ミルカちゃんはどう泣くのかな? それともすぐに気絶かな?」


ミルカは必死に逃げようと足をバタつかせるが、足に力が入らず立ち上がることができないでいた。


「まずは目をくりぬいてガラス玉を入れる所からかな」


「来ないでっ!」


ミルカの言葉なと聞こえないかのように、男はミルカに近づいた。


「来ないでえええええ!!!!!!!!」


男がミルカに触れようとしたその瞬間に、ミルカの両目が光を放った。


「な、なんだ!? か、体が・・・・・・・石に・・・・・・・動けない!」


「よ、よくも私の友達を!」


「ま、待って、すぐに新しい子を買うから、今度は人形になんかしないからさ!」


「・・・・・・・・・死になさい、ゴミが」


「お願いだ、まっ・・・・・・・・・・」


無慈悲にも男が言い終わる前に、身体は全て石化した。


「・・・・・・・カリサ、ごめんね、仇を討つからね」


ミルカはタンスの中にあったピッケルを取り出した。


「バラバラになりなさい、カリサの苦しみはこんなものじゃなかったんだから」


振り下ろされたピッケルは石化した男の頭部を直撃した、粉々に砕け散ったその破片をミルカは窓からばら撒いた。


「・・・・・・・これからどこに行こうかな」


ミルカは街を彷徨った。


親類のいない彼女を助けてくれる人などいなかった、だからこそ盗みもした、殺しもした。


そうでなければ生きていけなかった。


「おい、ミルカ」


「えっ、なに?」


「もう着くぞ」


思い出している間に、アジトへと到着していたようだ、飛行魔獣は二人の仲間に連れられ檻へと連れて行かれていった。


「疲れたわ、少し寝るわね」


「ああ」


ミルカは小さく欠伸をしながら部屋へと戻っていった。

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