団欒
「・・・・・・・思いつかないね」
「ペットの名前考えるのって大変なんだな、そんなに考えることは無いって思ってたけど、やっぱり名前って大事だしな」
「にゃ〜」
「・・・・・・・・・にゃ〜じゃなくて、あんたも希望の名前とか言いなさいな」
「にゃ?」
「ネリー、猫の言葉がわかる魔法とか無いのか?」
「・・・・・・うーん」
ネリーは子猫の頭を撫でながら、煮え切らない様子で答える。
「・・・・・・無くはないんだけど、というか、そういう研究はされてる。 でも、まだ完成してないし、猫への影響もまだ不明だったりするから」
「そうか、それはリスクが大きすぎるか」
「ネリー、この本見ていい?」
「良いよ」
サラは本棚から別の分厚い本を取り出した。
それを机に置くと、一生懸命にページをめくる。
「・・・・・茶トラの子はココアって言うのはどう?」
「それって、飲み物の本か?」
「うん、みんな色はバラバラだから、この方がわかりやすいかなって思って」
「次は君ね、白猫君」
「にゃ〜〜」
「・・・・・・・白猫かあ、白い飲み物というと、カプチーノかミルクってところか?」
「あなたはどちらが良い?」
「にゃー」
「・・・・・・・・じゃあ、カプチーノね」
「あっ、恥ずかしくなったんだ」
「やっぱりそうよね」
「違うもん!」
「ココア、カプチーノ、ラテ、モカ、母猫の名前はミルクだね」
「・・・・・・・この子たちはみんな聞いてないけどね、気持ち良さそうに眠っちゃってる」
「お母さんと安全な所にいるから、安心したんだよね、良かった」
「だな・・・・・・・・ん?」
外を見ると、いつの間にか雨が強まっていた。
「・・・・・・・・これは帰るの厳しいな」
「泊まっていけば良いよ、人数分の布団はあるから」
「俺まで世話になって良いのか?」
「サラの友達を雨の中を返すほど、私は人間として腐ってないからね、シャワー室はあるから、浴びてきなさい」
「サラ、先に浴びてこいよ」
「それじゃあ、お言葉に甘えるね」
サラはネリーから渡されたタオルを持って、シャワー室へと向かって行った。
「さてと、ハヤト。 ここに来て3ヶ月経つけど、もう学園には慣れた?」
「未だに迷うことはあるけどな。 みんな良いやつだし、やっていけそうだよ。 ただ、リスベットにはあの時以来会ってないな」
「リスベットは学園最強ってこともあって、1人で、色んな学園との話し合いや偉い貴族の人との会合とかあるから、ほとんど学園にはいない」
「1人? 護衛とか要らないのか」
「そっか、リスベットの能力知らないんだ。 彼女には誰にも近づけない。 全てをねじ伏せる力がリスベットにはある。 興味があるなら、模擬戦の申請してみたら? すぐとはいかないけど、ランキング上位者の希望なら通過しやすいと思うし」
「そういえば、俺自分よりもランキング上の人と試合して無いな。 いつも格下相手だ」
「その格下相手に負けてたら、かなりポイント失うけどね」
「そうなのか?」
「ランキング50以下の生徒はそれよりも上の生徒との試合で勝てたら、かなりのポイントが稼げるけど、ランキングが高い人は負けたらかなり厳しいの。 まぁ、ランキング上位者同士の試合だと、ポイントの上下はあまりしないけどね。とは言っても、本気で戦えば、リエラの方がルティアよりも強いとは思うけど、まぁ仕方ないよね」
「なんか、みんな謎が多いよな、人のこと言えないけどさ」
「そうね、本当は色んな組織を声をかければ、ハヤトのことを知られることも簡単なんだけどなあ〜」
「・・・・・・・・・いつか言うから、待ってくれないか」
「サラのことを泣かせないであげてよ? 彼女なんでしょ?」
「え?」
ネリーの口から出た『彼女』という言葉にハヤトは猫を撫でていた手を止め、ネリーを見た。
「どうしたの? 変なこと言った?」
「変も何も、俺たちは付き合ってないぞ?」
「嘘でしょ? あんなにいつも一緒にいるのに、サラって男の子とあんなに仲良くしないっていうのにさ」
「・・・・・・・・・サラは素敵な子だと思う、でも本当は俺と一緒にいて良い娘じゃないんだ」
「・・・・・・・・ハヤトがそう思っていても、サラはハヤトのことそう思ってないと思うけどね」
「・・・・・・・・・・」
「ネリー、シャワーありがとう」
サラがシャワーを浴び終えて、2人の元は戻ってきていた。
パジャマは無いため、服は制服のままだが、湿った長い髪の毛に、ハヤトは少しドキッとした。
「ほら、サラ可愛いでしょ?」
「・・・・・・・・・まぁ」
「私がいない間に、2人の仲が縮まってる!? もしかして・・・・・・・・そういう関係?」
心配そうに尋ねるサラに、ネリーは笑って否定する。
「違う違う。 ハヤトと猫のことについて話してただけだから、安心して良いよ。 私は恋愛に時間を割くことは出来ないから」
「ネリー可愛いのに勿体無いな」
「・・・・・・・なるほど、サラが惚れるのも分かった気がする」
「・・・・・・・・・・ハヤト君のばかっ」
「・・・・・・・・・・俺何かしたか?」
「・・・・・・・・雨止まないか」
「・・・・・・・・・・温かいです。 猫ちゃんが」
いつの間にか具現化していたニオは猫たちに囲まれ、温もりを感じていた。
「少し歩くか」
眠気がくるまで気分転換を兼ねて、ネリーの研究所を歩いた。
灯りはないが、元々アサシンのハヤトにとっては、これくらいの薄暗さは日中とそう大きくは変わらない。
「・・・・・・・・・ん? 足音」
暗い廊下をコツコツと歩いてくる音が聞こえる。
しばらく様子を見ていると、サラが灯りを持って近づいてきていた。
「なんだ、ハヤト君かあ、泥棒かと思ってビックリした」
「ごめん、眠れなくてさ。 サラはどうしてここに?」
「私も眠れなくて、猫ちゃんもニオちゃんもスヤスヤ寝てるから、起こしても悪いから出てきたの」
ハヤトがふと窓の外を見ると、だいぶ雨が収まっていた。 この分なら、朝には止むと見て良いだろう。
「私ね、明日模擬戦が入ったんだ」
「じゃあ、応援に行くよ」
「ありがとう。 もう覚悟は決めたから、剣技祭の代表になれるように、結果を残してくるね」
「うん」
「・・・・・・だから・・・・・・その・・・・・・・抱きしめて欲しいな、なんて」
「それで、サラが頑張れるなら」
サラの希望通りに、ハヤトはサラの体を抱きしめる。
ドキドキと鳴る心臓の音が、ハヤトの心臓と重なり合った。
「二人とも、朝だよ」
ネリーに起こされ、二人は目を開ける。
昨日までは弱り切っていた子猫たちが、お互いにじゃれ合っているのが見えた。
「良かった。 元気になったんだね」
「私の知り合いの動物医師を呼んだから、今日のうちに診てもらえるよ」
「ありがとう、ネリー」
「ハヤトに感謝されるのもなんか変だと思うけど・・・・・・・・この子たちの為だし」
「にゃ〜」
「その子たち、すっかりネリーに懐いたね」
「母猫が少し寂しそうにしてるから、みんな行ってあげてね」
ネリーの言葉を理解したのか、子猫たちは母猫の元へと戻っていく。
「さて、雨も止んだし帰るか」
「朝ごはん食べていく? 作るけど」
「じゃあ、ネリー、私と作ろうよ。 ハヤト君はここにいてね」
「うん」
「マスター」
「おはよう、ニオ」
振り返ると、頭の上に子猫を乗せたニオがいた。
精霊を怖がる動物は本来であれば多いのだが、ニオを怖がる様子は子猫たちには見られない。
その様子を見て、ハヤトは安心した。
「もうすぐ、ご飯出来るから、その子たちと遊んであげようか」
「わかりました。 マスター」
「・・・・・・・・・本当に手際良いよね、サラは」
「うん、料理は女の嗜みだからね」
サラは、食材を次々に切っていく、その手際の良さに、ネリーは驚きを隠せないでいた。
「こんな感じかな。 ベーコンとキャベツ炒め」
「持って行きましょう・・・・・・・・あれ?」
「良い匂いです。 マスター」
「二人とも来てたんだ。 もう運ぶだけなのに」
「ニオが良い匂いするから、早く食べたいって言っててな、俺が運ぶよ」
ハヤトは手袋をはめて、皿をテーブルへと運ぶ。
ベーコンの匂いに反応したのか、子猫たちの動きが活発になっていた。
「君たちには、これだよ」
ネリーは動物用の食事を皿に入れて差し出すと、最初は警戒していたものの、安全だとわかると、母猫が貪りつくように食べ始め、子猫たちは母猫の母乳を飲むために、母猫の腹へとまっしぐらに走る。
「サラ、今日の試合頑張れよ」
「うん」
「そっか、サラは今日だっけ? 負けないとは思うけど、頑張って」
「応援してます、マスターと共に」
昨日の天気とは打って変わり、サラの心は今日の天気のように、晴れ晴れとしていた。




