殺さない剣術
「・・・・・これか?」
「うん、あっ、ハヤト君の名前あったよ」
サラの言う通り、模擬戦日程表と書かれた下に、参加者の名前が記載されており、その中央にはハヤトの名前と本日行うということと、隣には対戦相手の名前があった。
「ジョン・エクターナ・・・・・・会ったことないな、どんな奴なんだ?」
「えっと」
「俺に何か用かよ、新入り野郎」
「??」
2人の後ろには、屈強な体つきの男が仁王立ちしていた。
「お前が、ジョン・エクターナか」
「ああ、どうやったのかは知らねえが、いきなりランキング6位だなんてふざけてるぜ、俺がボコボコにしてやるよ」
「ハヤト君は強いんだよ!」
「生き残りの姫か、お前だって俺と当たれば勝てねえんだ、良い気になるなよ」
ハヤトは高速で刀を抜き、ジョンの首元に突きつけた。
「なっ!?」
「・・・・・・・・・・それ以上言ったら、お前の首を叩っ斬るぞ」
「ハヤト君、だめだよ!」
「お前、そいつの兄貴が何したと思って・・・・・・・」
「知ってるさ、でもな、サラがその話になると泣きそうになるのも知ってんだよ」
「何してるの!」
たまたま近くにいたネリーがジョンとハヤトの仲裁に入る。
「・・・・・・お前、負けたらここから出て行け」
「良いぜ、その代わり、俺が勝ったらサラをバカにしたこと謝れよ」
「けっ」
ジョンは不機嫌そうにその場を立ち去った。
「ハヤト君、ごめんね、私のせいで」
肩を落とすサラの頭をハヤトはぽんぽんと手で叩いた。
「な、なに・・・・・・??」
「元気出せよ」
「う、うん・・・・・・」
「・・・・・・・・おーい、そこのいちゃついてるお二人〜、ちょっと良いですかあ」
ネリーが2人の間に割って入る。
「な、なんだよ」
「喧嘩はだめ」
「わ、わかった 」
ネリーの予想以上の気迫に押されるハヤト。
ネリーは少しハヤトを見つめた後、肩にかかるくらいの長さの髪を翻して去って行った。
「しかし、当日まで対戦相手がわからないんだな」
「あ、う、うん。 どんな状況にも対応出来るようにっていうことで、当日まで不明なんだよ」
「そうなのか。 にしても、ネリーは凄い剣幕だったな、俺何かしたかな」
「多分ね、ネリーはハヤト君たちが喧嘩して大事になったら、この学園に被害が及ぶからって考えたんだと思う」
「被害?」
「ネリーは学園に恩があるからね、学園が引き取ってくれたから、ネリーは行き場が出来たって言ってたから」
「そっか」
「・・・・・・ハヤト君は負けないよね、居なくならないよね?」
ハヤトの制服の裾をつまみながら、サラは上目遣いで尋ねる。
「・・・・・・・・・行かないよ、俺はこの学園が好きなんだ。 もっとここで色んなことを学びたいからな」
「良かった」
本当にホッとしたのだろう、サラは胸を撫で下ろした。
「じゃあ控え室に行こうか」
サラに案内され、模擬戦参加者の控え室に到着した。
「私は観客席から見てるからね。 頑張って」
「おう」
サラは少しだけ心配そうに、控え室を後にする。
控え室の中を見渡すと、緊張しているのが伝わってくる者、武者震いを起こしている者もいた。
そして、その奥には、先ほど一悶着あったジョンの姿もある。
ハヤトの姿には気づいていないようで、武器の点検に集中していた。
「お待たせしました、本日の模擬戦第一回戦 ジョン・エクターナさん、ハヤト・シノハラさん、準備をお願いします」
「いきなりか」
アサシンの特訓で動揺しない訓練は受けているため、これくらいのことなら緊張などしない。
「逃げなかったのか」
「逃げるかよ」
「では、こちらです」
案内係りについていくと、長い通路には入り、その先は外につながっているのか、光が差し込んできていた。
「ではこの先に進んで、お互いゴングが鳴るまで対峙していてください」
言われた通り進むと、コロッセオ型の闘技場の中に生徒たちが八方に座っている。
目を凝らしてよく見ると、サラたちが座っているのも確認できた。
「その腹立つ顔、ボコボコにしてやる」
「やってみな」
火花を散らす2人が武器に手をかけようとしたところで、笛の音が闘技場に響き渡った。
「行くぜえええええええ!!!!!」
「ふっ!!!」
一斉に2人が飛び出し、ジョンは武器である斧を振り下ろし、鞘から刀を抜いたハヤトはそれを受け止める。
「クッソがあ」
「・・・・・・・・お前のそれは独学か、それとも誰かの弟子について得たものなのか、どっちだ」
「・・・・・・お前には関係ねえ!!!」
振り下ろした斧を勢いよく振り上げる。
「もしそれが独学なら大したものだよ、けど明らかにお前の剣技には並々らなぬ努力を感じる。 一体誰に」
「だまれええええ!!!!!」
「・・・・・遅い!」
「くっ!」
ハヤトの速攻を辛うじて受け止めるも、刀の先端がジョンの首筋に傷をつけ、僅かに出血を起こした。
「・・・・・・ジョン・エクターナ。 お前は実力は申し分ないと思う。 ただ、いい時と悪い時の差がはっきりしすぎだ。 俺の敵じゃない」
「・・・・・っ!?」
ハヤトの言葉に、一瞬だけ隙ができたのをハヤトは見逃さなかった。
「しまった!?」
「終わりだ! 神速流奥義 三ノ型 連光斬!!!!!!」
ハヤトの人たちで、ジョンの持っていた斧はクルクルと宙に舞い、ドスンという音を立てて、地面に突き刺さった。
そして、試合終了の合図の笛が鳴る。
「・・・・・・ちくしょー」
「ジョン、いい試合だったよ」
「・・・・・・・強えな、俺なんかが勝てねえわけだ」
「そんなことないよ」
「サラ、来てたのか」
「お二人とも、そこにじっとしてください、治療しますわ」
サラに続いて、リエラも姿を現し、小さく詠唱を唱えて、回復魔法を発動し、ジョンの傷を塞いでいく。
「これが、リエラの魔法か」
ワイバーンを撃退した際は、リエラの剣術に驚いたものだが、ジョンの傷の治る早さからして、リエラの魔法はかなり高位のものだと推測できた。
「お疲れ様、ハヤト君」
「おう」
「リズワーナ、さっきは済まなかった。 この通りだ」
「気にしないでいいよ、リズワーナ家の事件を快く思ってない人なんて珍しくないから」
「いや、それでも俺がしたことは最低なことだってのはわかってる」
「ジョン、お前は俺に怒りをぶつけながらも、急所を外しながら戦っていたな、おそらくあれは人を殺すための戦い方じゃなく、簡単な組みあいをする時の剣術だ」
「・・・・・あの数秒でわかったのか、すげえな。 俺の師匠・・・・・まぁ、親父はな、人を殺さない武術を探していたんだ、それがこれさ」
「そっか」
人を殺す武術がある。 人の動きを利用し、倒す武術がある。
しかし、人を殺すとこに慣れてはいけない。
ハヤトもセーラに教わったことだ。 ジョンの父親もそれを知っていたからこそ、ジョンにこの剣術を教えたのかもしれない。
「何はともあれ、ハヤト君、お疲れ様」
ハヤトはサラからタオルを受け取り、顔の汗を拭った。