ボストニア公国
「はぁ・・・・・・・・・・しつこいな」
ある学園に向かう途中、ハヤトはたまたま道に倒れていた男性を介抱しようとしたところ、その男性は突如起き上がり、俺に斬りかかってきたのだ。
そして、おそらく仲間だろうが、路地裏からぞろぞろと現れ、ハヤトのことを執拗に追い回していた。
普通のチンピラならなんでも無いし、すぐに撒くことも出来るが、あまり来たばかりの街で目立ちたくは無い。
もし、暴力行為ということで騎士団に拘束でもされたら、この街に来た意味がなくなってしまうからだ。
「しょうがないか」
ハヤトは勢いよく路地を右に曲がり、助走をつけて、壁を蹴ることで屋上に登ろうと考えた。
プロの殺し屋ならまだしも、チンピラくらいならこれで撒けるだろう。
「よしっ!」
強く右足を踏み込んだ瞬間、目の前に突如少女が現れた。
勢いよくぶつかり、辛うじて体勢を変えたハヤトは頭から地面にぶつかる。
「・・・・・・・・・いてててて、なんでこんなところにクッションが・・・・・・・・・・・いや、これは・・・・・・・まさか!?」
柔らかい、焼き立てのパンのように柔らかく、そして肌触りの言い布の感触にハヤトは思わず、時間を忘れそうになった。
「・・・・・・・あ、あの、そろそろどいていただけないですか?」
ハヤトは質感の良い制服から出ている柔らかそうな2つの胸を見事に鷲掴みにしていた。
少女に言われて、ハヤトは素早く少女の体からどいた。
少女は少しほほを赤くしているが、事故だということをわかってくれているのか、逆鱗に触れたということではないようだ。
「ち、違うんだ。これは!」
「おうおう、もう逃げないのかい?」
「マズイ」
ハヤトを最初に追いかけた時の人数よりもさらに増えている、おそらく追走の途中で仲間たちがあん詰まったに違いない。
だが、この人数ならばハヤト1人なら本気になれば逃げられる。しかし、この子を置いて逃げるわけにはいかない、ここは気絶でもさせて逃げるしかないのか。
そう考え、ハヤトは腰をぶら下げている一本の刀に手を伸ばす。
「追われてるの?」
「道端で倒れていた人を助けたら襲われた。 多分このあたりのチンピラか盗賊だとは思うんだけどな」
「じゃあ、君が悪いことしたとかでは無いんだね」
「え?」
少女はスカートに巻いているベルトから、双剣を抜いた。
綺麗な刃に、持ちやすそうな柄、何より、彼女の異様な雰囲気にハヤトは目を奪われるしかなかった。
この娘は・・・・・・・・強いと、ハヤトは確信する。
「お嬢ちゃんも相手してくれんの? 」
「あなた達のような人は許せない、人というのは支えあうものなんだから」
「けっ、ガキが・・・・・・やっちまええ!!!!!」
「おおおおおおおおお!!!!!」
斬りかかってくる男達の攻撃を交わしながら、逃走ルートを確認するが、十字の路地はきっちりとどの道も塞がれていた。
思っていたよりも、チームプレイがしっかりしている組織のようだ。
「おっと」
考え事をしていたら、思ったよりも攻め込まれてしまった。
「えっと、君はそっちの全員お願いしていいか? 」
「うん、任せて」
「くっ・・・・・・・・・・剣が動かねえ」
「その図体でそんなもんか? 俺の師匠なんか俺と身長自体は変わらないけどな、砲台を投げたことあるぞ」
「それって人間の師匠さん?」
ハヤトの話に合わせて、攻撃をヒラリヒラリと交わす彼女はやはり只者では無い。
しかも、双剣で攻撃を受け止め、体術で気絶させている。
「ふぅ、だいぶ片付いたな」
「今ので最後だと思うけど?」
「お前ら・・・・・・・・何者なんだ」
「俺はハヤト、最強の魔導士になる男だよ」
「助かったよ、ありがとう。えっと」
「私はサラ・リズワーナ。ボストニア学園に通っています」
「まじか!?」
よく見れば、彼女の胸には金のバッジに、龍の刻印が施されていた。
セーラの言うことが正しければ、サラはボストニア学園の生徒なのは間違いない、ならばハヤトが言うことはただ一つだけだ。
「俺をボストニア学園に連れて行ってくれ!」
「・・・・・・・・・へ?」
サラはポカーンとした顔で、まん丸の目を更に丸くしていた。
「じゃあ君はそんなに遠いところから来たの? それは一文無しになるよ」
「あはは・・・・・・・・・・」
ハヤトは多くの馬車や、船を乗り継いできたおかげで、持っていた所持金を使い果たしてしまって、サラにホットドッグをご馳走になってしまったのだ。
「でも、君が只者じゃ無いっていうのはわかったかな。あの人たち、この辺だと結構危険視されてた盗賊なんだよ。それをいとも簡単に撃退するなんて、ウチの学園でも結構ランキング上位に行けるんじゃ無いかな?」
「ランキング?」
「うん、詳しいことはまだ入学してないハヤト君には言えないんだけど、基本的にこの辺りの国ではランキングを取り入れて、大会を開いたりしてるんだ」
「あー、聞いたことあるな。俺はずっと山に篭って剣術の修行してたから世間に疎くて」
「あはは」
ハヤトの話で笑ってくれるサラの笑顔に俺の長旅の疲労がどこかに消えていくように感じた。
「美味しかったよ、ありがとう。必ず返すから」
「いいよ、それではご案内します。我がボストニア学園に」
サラは女の子らしい白く細い手をハヤトに対して差し出し、ハヤトはそれに応えるように手を置いた。