霊3:金髪ツインテールの少女はバンパイアにて
これ以上粗相をしていたらもう目もあてられない始末になってしまいそうだったので僕と狼牙は急いでくじ箱からくじをひき、指定された場所へと足を運ばせた。
「まさか見学まで同じチームになるとはなー。これってもしかして運命的ななにかだったりするのかもしれねぇな」
「なにその唐突なホモ発現?」
「…………し、しかしあれだな。クラスも一緒で席も近い。こいつは偶然とよぶには何かしらの策略を彷彿とさせるな」
「クラスが一緒なのは狼牙が問題児なだけであって席が近いのも確率論上決して低くないだけだしチーム分けに関していっても30人しかいないクラスから五人一組という大きな区切りで分けるから同じチームになるのはなんらおかしくない話なんだけど。もしかして運命とかなにか感じてるんだったらすみません自分勝手な妄想も程々にしてください。僕は狼牙のことを1ナノだって運命の相手だとか相棒だとか思ってないからそこらへんはしっかりとしてくれないとこれから三年間一緒のクラスでやっていけないしおかしな噂をたてられたら困るしあとは」
「………………ごめんなさい」
「分かれば良いんだよ」
そういって僕は涙を流しながらその場に泣き崩れる狼牙の肩に優しく手をおいた。
僕が紳士的なジェントルマンで助かったな狼牙。
そんな見るだけで気分も晴れやかになりそうな映画のワンシーンを披露していると横合いから誰かが僕の制服を後ろからちょいちょいと引っ張ってきた。
引っ張られた方を見てみるとそこにいたのは金髪ツインテールで色白な女の子がいた。
そう、ただの女の子がいたのだ。
ごっつい甲冑を身に纏った落ち武者でもなくテレビから這い出てくる女の幽霊でもなく、ごく普通のどこにでもいそう(人間界にという意味で)な少女がそこにいたのだ。
「あのさ……」
「いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!僕はやっと帰ってこれたんだぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「へ?帰ってきたって……は?」
戸惑う少女を無視して僕は目をキラキラと光輝かせながら未だに泣き崩れている狼牙を強引に立ち上がらせる。
「ほら見てよ狼牙!ここに僕と同じ人間の女の子がいるよ!ということはつまり僕は人間界に帰ってこれたってことなんだよね!?あれ?でもそうしたらなんで狼牙がここにいるわけ?間違ってついてきちゃったの?」
あれ?あれれれ?と頭上にクエスチョンマークを無数に浮かべる僕になんのこっちゃという感じで狼牙が声をあげる。
「おいおい直輝。一体この世界のどこにお前以外にも人間がいるっていうんだ?そろそろ現実を受け入れろよ」
「うへぇ?だってこの子はどう見たって渋谷辺りを歩いてそうなかわいい女子高生そのものじゃないか?」
僕は改めて少女に視線を移す。
金髪ツインテールと色白な肌。
活発そうな顔立ちをしていて制服の上から黒いマントのようなものを身につけている。
「………ん?マント?」
「えっとシブヤ?とかそういうのは分からないけどウチは人間じゃないんだなこれが」
「いやいや何を馬鹿な事を言ってるのさどこからどうみたって僕と見た目に変わりなんてないじゃないかー」
「うーん…まあ見た目に関しては確かにほとんど一緒なんだけどウチはこれでもれっきとしたファントムなのだっ!!」
いうなり身に纏っていた黒いマントをバサリと風になびかせる金髪ツインテールの少女。
それからニカッ!と歯を剥き出しにするように大きく口を開いてみせる。
「ウチの名前はナーシャ!種族は知名度だけならナンバーワン!夜の帝王ことバンパイアちゃんだっチューに!!」
ドカンッ!!と爆発ありのヒーロー戦隊の登場さながらの決め台詞をバシッと決めたナーシャというバンパイアちゃん。
なるほど確かにその歯は狼牙のように全部が全部ナイフのようにとがっているわけではなく犬歯だけが牙のように鋭い光を放っている。
「えと、ナオキとロウガだったっけ?ウチも二人と同じ三番なんだー!ってなわけで一緒に仲良くしようぜー!」
「あ、そうなんだ!実は最近わんわんおしか隣にいなくってむさ苦しいと思ってた所だったんだ!ナーシャみたいな子がきてくれて良かったよー!」
「でっしょーーッ!ウチがクラスの華でナオキが学校1の有名人、そんでもってわんわんおが家来でパーティー構成としては完璧だっチューに!」
「だから犬じゃねぇって言ってんだろうがぁぁっ!!」
「……ね、ナオキ。あれってナオキの知り合い?なんかすんごい騒いでるんだけど…?」
「馬鹿だなぁナーシャは。あれはねゾウリムシっていう微生物の一種だよー」
「なるほどっ!流石学校1の有名人!思考回路が常軌を逸してるねっ!いよっ!脳細胞に見切りをつけた伝説の男!」
「いやーそこまで言われると照れるなー」
「……それ直輝も馬鹿にされてないか?」
と、まあそんな感じでナーシャの明るく人懐っこい性格が上手く僕らとマッチし、出会うなり直ぐに仲良くなった僕らは同じ見学チームのメンバーと合流するために指定場所へと一緒に向かった。
「えっと五人一組って言ってたから僕と狼牙とナーシャをいれて後は二人かぁ。一体どんな子とチームになるのかなぁ?」
「さあな。どのみちここにいる連中は俺も含めてろくな奴がいないみたいだし、過度な期待はしない方がいいんじゃないか?」
「うわナオキ今の聞いた?」
「聞いたわ聞いたわ。何よまるで自分は他の奴らとは違うみたいな言い方しちゃって。悪いけどね!私なんてたった1人の人間なのよ!?オンリーワンで実質ナンバーワンなのよ!?」
「ウチだって知名度だけならナンバーワンのアイドル的存在なのよっ!そんなウチらを無視して頂点に立てると思ってんじゃないわよこの毛むくじゃら!!」
「だから俺も含めてって言ってんだろうがぁっ!!ってかお前ら本当にさっき会ったばかりなんだよな!?」
と、他愛もない会話をしながら歩いていると指定場所の席に座って待っている同じチームのメンバーを発見。
これは狼牙ごときに無駄に時間をさいている暇なんてない。
そう思った僕とナーシャはギャーギャー騒いでいる狼牙を無視して指定場所で健気に待ってくれているクラスメイトのもとへと、いそいそと駆け寄っていった。