霊2:校内見学はお化けだらけのチームにて
拝啓、我が愛しのお母様お父様。
今日僕は学校の見学をするみたいです。
オープンキャンパスでもあるまいし、どうして入学した直後にこんなことをするのかと疑問に思うかもしれないけれど、なんでもこれがこの学校の決まりなんだという。
見た目さえボロボロで、いかにも足のない幽霊が井戸からでてきて皿を数え始めそうな雰囲気バリバリな学校だが見た目に反して中は広くなおかつ初見殺しの複雑ダンジョンとなっている。
理科室や体育館、図書館といったごく普通な場所もあるにはあるのだが中には入ったが最後生きては帰れない魔の部屋的な場所もあるらしい。
良く神聖な学び舎にそんな物騒極まりないものを建設したものである。
きっと校長は不滅のバーサーカーソウルの持ち主に違いない。
そういうわけで入ってもいい場所ダメな場所を分かってもらう為に、まず入学した新入生には校内全体を見て回ってもらい早いうちに覚えてもらおうという魂胆らしい。
「これは時期的に僕たちが賢者の石を守り抜くパターンなのではっ!?!スネイプです!スネイプがすこぶる怪しいです!」
「橘……お前は一体何を守ろうとしてるんだ?」
「え?だってこの校内見学って僕が賢者の石を手に入れるための布石でしょ?」
「お前は賢者の石を手に入れる前に教養を手に入れろ」
あっるぇー?と首を傾げる僕に担任教師ことミノタウロスの牛尾先生……別名バッファロー吾郎が呆れたような視線を送ってきた。
もしかして、これが俗に言う生徒と教師の垣根を越えたラブストーリーの始まりなのだろうか。
そう思うと自分の貞操が失われるかもしれないという緊張が肛門をひくつかせる。
急いで対レイプ用の鎖かたびらパンツバージョンを用意せねば。
「____というわけで、これから校内見学のチーム分けをする。決め方について何か提案がある者はいるか?」
「はいはいはいはーいっ!!やっぱり親睦も深めたいから体の相性なんかで決めるのが一番良いんじゃないかなって思いまーす!」
「………誰もいないようならくじ引きで決めるが文句はないか?」
「ちょっと牛尾先生!?僕を見て!僕という存在を認知して!こんなに貴方の目の前にいるというのに!」
「俺はミジンコ以下の存在を認知できるほど優秀じゃない」
「まさかのミジンコ以下!?」
わなわなと手をふるわせながら机に突っ伏す僕に隣に座る狼牙が声をかけてきた。
「どうしてお前はたかだか見学にそこまで騒げるんだ?あんなもんそこまで楽しくもねぇだろ」
「何を言うんだ狼牙!校内見学だよ!?見学ということはつまり本来入れないであろう場所に、うっかり入ってしまっても許される新入生に許された特権なんだぞ!」
「お前は死よりも恐ろしい拷問部屋にでも入りたいのか?」
「それは僕じゃなくってマゾ担当の狼牙の領域じゃないか。残念ながら僕は鋭利な刃物に興奮する性癖はないんだ」
「勝手に俺を拷問フェチに仕立て上げんじゃねぇ!」
「ほらそういいながら僕の頭に自分の爪をめりこませてくる!これが拷問フェチといわずしてなんと言おうか!?」
「少なくともそれでないことは間違いないんだが、な!」
そろそろ狼牙の鋭利な爪が僕の頭蓋骨を貫いて脳に到達しそうだったので、全力で頭を振ってそれを回避する。
ふぅ、右目の視力と足と手の感覚を失うだけに終わってよかったよかった。
「……それで、お前はどの部屋を見たくってそんなにハイテンションなわけ?さっきいってた賢者の石ってやつを探そうとしてんのか?」
「は?賢者の石?何言ってんの狼牙、頭大丈夫?」
この瞬間、突然横合いからとんでもない張り手をくらい聴力のすべてを失った。
さすが霊世界。
いきなり生活に支障がでる程の負傷事件も平気で起こる摩訶不思議な世界である。
「って、痛いよ狼牙!なんでそうやってすぐに物理攻撃にでるの!?特殊攻撃に縁のない初期のエビワラーか!」
「安心しろ俺はサワムラーで安定してるから」
「くそったれ!!とび膝蹴りを連続失敗して自滅しろ!」
「貴様等いいかげんにせんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁすっ!!??」」
いつまでたっても終わることのない僕と狼牙のエンドレストークについに腹をたてたバッファロー吾郎が、その屈強な体に備わった筋肉を解放して一気に僕らの背後にまわりこむ。
そしてそこらの石であれば平気な顔して握りつぶせそうな大きな手で僕らの頭をバスケットボール感覚で掴み、思いっきり締め上げてくる。
鼻から鼻水とも鼻血とも違うなにかしらの液体が出てきそうな衝動にかられながら、僕と狼牙は頭蓋を砕かれるという貴重な経験をした。
これでまたグラップラーに一歩近づいたと思えばやすいものである。
「えー……それでは前に座っている者からこのくじ箱から一枚くじをひいてくれ。大体五人一組になるようにしてあるから同じ番号の者は黒板に書いた場所に集まり自己紹介するように!以上!」
僕と狼牙をものの数秒で戦闘不能に追い込んだグラップラーバッファロー吾郎は、なにもなかったかのようにその後の指揮を行う。
他のクラスメイトも血の池を生み出す僕らに目をやることなく一直線にくじ箱が置かれた教壇に向かっていく。
「優しさってものがないのか!お前ら人間じゃねぇ!あ、人間は僕だけだった」
「……いてて…お前復活早いな…」
「握撃ごときに耐えられないようならグラップラーの資格はないからね。狼牙はまず山にこもるところから始めると良いよ」
「こら橘!狼牙!貴様等もさっさとせんか!」
「おい聞いたか直樹?さっき俺らを締め上げた人の台詞とは思えないよな」
「いやいや今のはきっとアレだよ。幼なじみがツンツンしてちょっと乱暴な行動にでるけど基本的には愛してるっていうツンデレなる行為」
「バッファローは俺らの幼なじみだった……?」
「だとしたら全て辻褄があう!そうだよ!バッファロー吾郎は僕らの幼なじみだったんだ!そうなんでしょバッファロー吾郎?」
「次なにか口にしたら殺す」
「「先生!僕達3番でした!!」」