マオの父
「ただいま帰りました。」
「マオお嬢様、お帰りなさい。」
マオの帰宅に一番に応えたのは住み込みの家政婦である花江恵理子であった。
「お父さんはどちらへ?」
「ご主人様は書斎にいらっしゃいますよ。」
マオの父・杉田義氏は自宅の二階にある書斎で仕事をしているらしい。
「では、今は書斎には入れませんね。」
「どうかしたのですか?」
「いや、大丈夫ですよ。急用ではないので。」
本当は今回のミッションの件について尋ねたかったのだが。
「お嬢様、お風呂とお食事、どちらになさいますか?
どちらも準備が整っております。」
「そうだなぁ…じゃあ、食事を先にします。」
「かしこまりました。」
花江が食堂へ行くとマオはため息をついた。何気なくケータイを見ると星汰からメールが来ていた。
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マオ、お父様に今回の件、聞いたか?
俺も聞いてみたが、今回の件はマオのお父様
が単独で依頼したらしい。
何かあったらメールしてくれ。
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これは……お父さんの単独依頼は初めてだ。
というか、依頼は単独でして良かったのだろうか?
幾つかの疑問が頭をよぎる。
今すぐに問い正したい。何かが起きているのだろうか、それともただ偶然単独になったのか。
でも、明日が実行日。考えているヒマはない。
マオは星汰に返信した。
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なんか、お父さん、書斎にこもって出てこないんだ。
何かあったのか知らないけど、何かおかしい。
とりあえず、出てきたら聞いてみるよ。
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マオにとって考えすぎるのはタブーである。
何故なら頭を使うからだ。
マオは考えるのを止めて食堂へ向かう。
「お嬢様、お食事の支度が整いました。」
「ありがとうございます。」
マオは椅子につくと、並べられた食事に「いただきます。」と、言い、箸を握る。
そして、箸で惣菜をつまみ、口に運ぶ。
「美味しいです。」
素直に雇いのコックに言う。
「ありがとうございます。」
褒められたコックは顔を赤くして照れる。
「そういえば、お父さんは食事は何処で?」
「あぁ、ご主人様はもう済まされましたよ。」
義氏はマオの帰宅前に食事を済ませたらしい。
お父さんは私のことを避けてるのかな?
そんな、嫌な妄想が頭に浮かぶ。
「何かあったら降りてきますよ!」
花江はマオの気持ちに気づいたのか明るい声で言う。
「そう...ですよね。」
マオは嫌な妄想を考えるのをやめた。