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5 短い電話

ハッと気がつく。しまった、寝入っちゃった。

時計を見る。

五時半。えっと、夜中の、だよね。当たり前だ。

慌てて起き上がって寝室に行くと、ベッドにはすうすう眠る旦那さんの姿。

帰って来てる。そりゃそうだろう、こんな時間だもの。


私・・お帰りって言いたかった。

起こしてくれたらよかったのに。


わかってる。千沙の横でぐーぐー寝てたから、気を遣って起こさないでおいてくれたんだよね。

勝手に寝ちゃった私が悪いのに、ムッとしちゃいけない。



音を立てないようにそろりそろりと部屋を出て、ソファに転がってた携帯を手にした。


・・・先生との電話、慌てて切ることになっちゃったな。

明日謝ろう。

娘が起きて泣いちゃってって。

あ、私まだ、結婚したって話、してないや。



ぼおっと突っ立ってあれこれ考えていたら、携帯のアラームが鳴った。

六時。起きる時間だ。

もう起きてるけど。

いつものように、顔洗って着替えて、朝ご飯を作ろう。




*****


次の日の夜も先生と電話した。

その次の日も。

時間にして十分とか、十五分くらいの短い会話。


会話の内容もたわいない。思い出話に花が咲いた。

塾生のメンバーや先生達の話。

私は大学ではボロい寮に入ったこと、サークルでハイキングや海や川に行くオモシロおかしい活動をしていたことを話した。


先生も医大でのことを話してくれた。

「いやあ、僕も、若者に混じってキャンパスライフを楽しもうと思ってたんですけどね。現実はそんなに甘くありません。

勉強、勉強、試験、勉強、実習、勉強、みたいな毎日でした。

夏休みに近場の写真を撮るのがやっとでしたよ」


あははとゆるく笑って言うからあまり大変そうじゃないけど、医大が大変じゃないわけがない。

先生のストイックな性格はよく知ってるから、きっと誰よりも勉強したんだろうなって思う。転職先に医者を選ぶなんてすごすぎる。





毎晩交わされる、先生との短い電話。


終わりを切り出すのは、いつも私から。

娘の泣き声や、がたんと物音が二階から聞こえた時、

カーポートに車が入る、砂利を踏む音が聞こえた時、

「あ、先生、ごめんね・・・」って私が言うと、「ではまた明日」って即、電話は切れる。


泣いてる娘をほったらかしにしなくて済むし、帰ってきた旦那さんには電話のことを知られることもない。

別にやましいことをしてるわけじゃないんだから隠すことでもないんだけど、わざわざ言うことでもないかなって思う。



・・・私、まだ先生に言えてない。

結婚してることも、子どもがいることも。


普通なら、なんだよ急に切ろうとするなよって怒り出してもおかしくないのに、どうして何も聞かずに私に合わせてくれるの?


どうしてって思いながらも、答えは分かってる。

先生は、私が話すのを待ってくれているんだって。先生はそういう人だもの。



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