番外編 (俊樹) トシ君は、がんばる 5
あれから、ちょっと、俺は周りにも目を向けるようにした。
というか、寄って来る女性社員に対して、少し態度を改めた。
態度・・というより気持ちというか。
今までも、表面上では愛想良く取り繕っていた。でも、心の中では、見下したりバカにしたりしてたかも。どうせお前らが俺を好き好きって騒ぐのも俺の外見だけなんだろって。
そう言う俺だって、彼女らの内面も見ようとしなかったのに。
それを先生に言ったら、やたら大袈裟に喜ばれた。
「ようやく俊樹も成長しましたね」
なんて、俺の頭を撫でやがった。くそっ。恥ずかしいマネしやがって。
俺はあんたの弟じゃねえってーの。
二ヶ月後、ウェディングドレス姿の写真が出来上がったと聞いてさっそく見に行った。
千沙ものぞみも、俺が行くと当たり前みたいに歓迎してくれる。
今夜も鍋を四人で囲んで、デザートに俺が買ってきたフルーツを食べた。
食べ終わってリビングのソファに移動してから、のぞみがアルバムになった写真を出して見せてくれた。
最初のページには千沙を挟んで三人で笑ってる写真。
分厚いページをめくると、先生と見つめ合って笑う、のぞみの幸せそうな花嫁姿。
「白のドレス姿、素敵です。王道ですよね。でも、ああ、ピンクのドレスもとっても良く似合っていましたね、のんちゃん。とっても綺麗です。千沙ちゃんとお揃いなのがまた可愛くて・・」
「ちょ、ちょっと、先生っ」
先生が写真をマジマジと眺めながらどんどん褒めていく。砂を吐きそうなほど甘いセリフを平然と。
それを聞いたのぞみが顔を赤くして口を塞ごうとしている。
お二人さん、それはただイチャついているようにしか見えないんっスけど。
くっそ、うらやましいぞ!
しばらくそうやって皆でアルバムを眺めた後で、 のぞみが隅の棚においてある自分のバッグの中を見て、しまったーと眉毛をハの字にした。
「私、上着を置いてきちゃったみたい。今度の週末にでも取りに行って来なくちゃ」
「んじゃあ、俺、そろそろ帰るし、 帰り道に取ってきてやるよ。この時間ならまだ空いてるだろ」
時計を確認して、席を立つ。
「悪いですね、俊樹。ありがとうございます」
「ありがとう、トシ君。白いカーディガンなの。スタッフの方に言えば分かると思うから。次また来る時に持ってきてくれればいいからね」
「オッケー、オッケー。じゃあな」
バタンとドアを閉めて、一人で駐車場に向かう。
・・・いつも、ここから帰る時は少し寂しい。
んで、誰もいない真っ暗な部屋に帰るのは、もっと寂しいんだよな。
写真館は営業時間を終えて、スタッフが片付けをしているようだった。
受付で事務作業をしているお姉さんに声をかけようとすると、奥からパタパタと女の人が走ってきた。この前しゃべったショートカットの人だ。
その手には、白いカーディガン。
「あ」
「わ、忘れ物を取りにいらしたんですよね。ありがとうございます!
私共も先ほど気づいて・・今連絡を入れようとしたところです。よかったです、本当に」
わざわざお店の袋にいれて渡してくれた。
玄関を出ると、その人も一緒に出てくる。お見送りをしてくれるのか。客でもないのに丁寧だな。
「あー、今日、アルバム見させてもらったよ」
「あ、は、は、はい!」
「すごく、綺麗に撮れてたよ。・・・本当に。今、あいつが幸せなんだなってのが、見てて伝わる良い写真ばかりだった。ありがとう」
なんで俺がお礼を言ってるんだろう。
俺のじゃ、ないのにな・・。出そうになるため息をぐっと飲み込んだ。
「あの、大丈夫、ですか?」
じっと俺を見上げてくるその目は、真剣そのもの。俺のことを、心配してくれてるのか。
「・・・少し、話を聞いてもらっていいかな?」
自分でも意図せずに、そう、懇願してた。




