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番外編 (俊樹) トシ君は、がんばる 4

のぞみと先生は籍を入れ、正式に夫婦になった。

式はいらないと断固として言い張るのぞみと、ドレス姿が見たいという先生と千沙と俺の意見の間をとって、写真館で記念写真を撮ることになった。


真っ白なウェディングドレスに身を包んだのぞみは、それはそれは綺麗だった。


「こんなお美しい花嫁さんはなかなかいませんね。今日はスタッフも張り切ってます」

いつもはどんなか知らないけど、確かにスタッフがやたら多い。

撮影を手伝っているようには見えない隅の方の人達なんて、うっとりしながらのぞみを見てる。



背景を変え、衣装も二回変えて、どんどん撮影が進んだ。

千沙も可愛い服と小物に囲まれてきゃっきゃとゴキゲンに笑顔を振りまいている。

のぞみと先生は、見つめ合って微笑み合って、・・・絵に描いたような幸せな夫婦だ。


当然俺はあの輪には入れない。

ドレス姿が見たくてつい、くっ付いて来てしまったけど、なんで俺、こんなところに来ちゃったんだろ。




「あの、お兄さん、ですか? 次は庭での撮影になりますので、移動になります」

「あ、ああ、ありがとう」

スタッフの人について動こうとした時、千沙が俺の方に駆け寄って来た。


「パパーっ! こんなかわいいドレス、きるのはじめて! ねね、どう?」

「ああ。ものすごく可愛いよ。パパの携帯で写真撮りまくってるよ、千沙」

「ふふふー」

抱き上げてやると両手を上げて喜び、俺のほっぺにちゅっとキスをしてくれた。

ああ、娘さいこう。

なんて可愛いんだろう。千沙が嫁に行く日が来たら、俺・・・泣くかも。



またカメラマンに呼ばれて、千沙はふわふわのドレスを翻して駆けて行った。

俺のすぐ横にいた女性スタッフが申し訳なさそうに肩を竦めているのが分かった。

さっき俺に新婦のお兄さんだと言ってしまったからだろう。


「なんか、悪いね。気ィ遣わせちゃって」

「いえ! すみません。早とちりをしてしまって」

ぺこりと頭を下げるスタッフは、なかなか可愛らしい女性だった。

歳は俺より若いかな。

短い髪とくりっとした目が親しみやすい印象を与える。


「・・俺は元ダンナなんだ。

いつまでも未練がましい、情けない男だよ・・・って何言ってんだろうな。ごめん」

つい、言わなくていいことまでポロリとこぼれる。


「あのっ!」

!?

いきなり腕に手をかけられて驚いた。

真っ直ぐに見つめられる。


「わ、私、素敵だと思いました!皆さん、仲が良くて。ちさちゃんもとっても幸せそうで。

それも、あなたが温かく見守っていらっしゃるからだって思ってました!」

「そ、う。ありがとう」


驚く俺に、その女性はハッと我に返って、ばっと頭を下げる。

「す、すみません。余計なことを言って」

「いや。・・・嬉しいよ。ありがとう」


すんなりと言葉が出た。

頭を上げた女性の顔を覗き込むと、俺の顔を見てみるみる赤く染まる。

わ、すげ。イイ反応。

この子も、俺の顔だけに惚れちゃうタイプなんだろうなあ。

なんだか笑えてしまうけど、それは失礼だろうからグッと堪えた。






撮影は順調に終わって、そのまま自宅について行って晩ご飯までご馳走になった。

もうこの一家団欒を邪魔するのはやめようって思ってるのに、これだよ。


ご飯の後、皆でテレビを観て笑って。

お風呂に入った千沙は可愛くおやすみーとハグしてくれる。

のぞみが千沙を寝かせに部屋に行くと、いつも通り先生との晩酌タイムが始まる。



ビールのグラスを傾けてぐびっと飲む。なんか、苦い・・。

「・・あーあ。俺もそろそろ、新しい女、見つけよっかなあ」

「お。ついに俊樹も、のんちゃんから卒業する気になりましたか?」

「今日のはマジで効いた・・。

めっちゃ綺麗なあいつが誰のものか、思い知らされたーって感じ」


グラスを置いて、ソファにだらりと背中を預けて天井を仰いだ。


「・・・あーあ。どーすっかねえ。どっかにいい女転がってねえかなあ」

「のんちゃんよりイイ女はこの世に存在しないんじゃないですか?」

先生はつまみのピーナツをつまみながら、くすりと笑う。


「それじゃあいつまで経っても俺は、未練タラタラじゃねえかよ」

「僕にとっては、ですよ。俊樹、モテるでしょう?

色んな出会いがあるんじゃないですか?」

「モテるよ。モテ過ぎてて困るくらいだよ。

でも、言い寄ってくる女にはウンザリなんだよなあ」

会社できゃあきゃあ騒がしい女どもを思い出して、思わずため息が出る。



「俊樹。最初からそんな風に決めつけていると、先入観が邪魔して見えるものも見えなくなってしまいますよ」

「先入観、ねえ」

「俊樹の周りの女性は、本当にそんなに性格悪い方ばかりなんですか?

もっとよく見てみたらどうです? 本当にあなたのことを気にかけてくれたり、話していて楽しいと思える相手が案外近くにいるかもしれませんよ」

「・・・まあ、それはそうかもな」


最近、女と話すのも仕事の時くらいで、個人的に親しくなろうと思って話したヤツはいないかも。

どうせ皆、同じようなもんだろっていう固定観念を捨てて、もうちょっと目を向けた方がいいのかもな。


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