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番外編 (俊樹) トシ君は、がんばる 1

俊樹視点での番外編です。


俊樹の猛反省から始まります。しばしお付き合いください。

俺は取り返しのつかない過ちを犯した。

めいっぱい傷つけて、一番大事なものをこの手から取りこぼした。

気づいた時にはもう遅くて。

俺にはなーんにも残ってなかった。





今日は週に一回の、のぞみのところに行く日。

カワイイ娘の千沙にも会える。

仕事は昨日のうちから前倒しで済ませてあり、今日はノー残業で足早に会社を出た。

ちょっと寄り道して、デパ地下で美味しそうなスイーツを買って行く。

最初は買うのも恥ずかしかったけど、もう慣れた。

今では店員の女の子にオススメを聞くこともへっちゃらだ。

甘い物を見た時ののぞみの顔を思い浮かべると頬が緩む。


・・・あんな顔、今まで見たことなかったもんな。


先生と一緒にいるのぞみは、俺の知ってるのぞみとはまるで別人のように、明るく無邪気で可愛らしい。

俺が、四年間恋人として夫婦として一緒にいたのぞみは、美人でクールで口数の少ない女だったのに。




*****


のぞみは入社してきた時から男どもの間では美人だと話題に上ってた。

でも高嶺の花というか、観賞用というか、近寄り難い存在で。あまりアタックして行く奴はいなかった。


当時俺は自分で言うのもアレだけど、めちゃくちゃモテてた。

ルックスが良いのも大学の頃から自覚してたし、仕事も出来る方だと自負してた。


だから、美人で有名な彼女をモノにしてやろうと軽い気持ちで声をかけた。

グループでの飲み会に誘ったり、仕事の話をしながらランチをしたり。

のぞみはあまり人付き合いが得意でないようだけど、何度か喋るうちに笑顔を見せてくれるようになって、すっげー嬉しかった。



とにかく押せ押せでお付き合いまで持って行った。

同僚や先輩後輩、全員の男から羨ましいぞと言われて、俺は調子に乗ってた。


それまで俺に纏わり付いてた女は、自己主張の激しいタイプばかりでうんざりしてたから、控え目で冷静なのぞみみたいな女は新鮮だった。

見目麗しい彼女を連れて歩くのは優越感だったし、周りからはお似合いだとはやされた。


彼女はスタイルも良くて抱き心地もサイコーで、俺はかなりのめり込んだ。

のぞみはあまりペラペラ話さないけど、好きだと言うと好きだと返してくれる。

彼女の気が変わってしまわないうちにと、婚約、結婚をトントン拍子に進めて行った。




幸せだった。

なのになんで、どこで俺は間違えてしまったんだろう。

あんなに大事にしたくて、好きで、愛してて、一緒になったのに。

・・次第に俺は不満を持つようになった。




のぞみは自分からはちっとも愛情を示さなかった。

好きだと言うのも俺が聞かなきゃ言わないし、どこかに行きたい、こうして欲しい、もナシ。俺に対してもここは直して欲しいとか一切何も言ってこない。だから一体何を考えているのかよくわからない。

まるで俺ばっかりが好きなようで、モヤモヤした感情が湧き始めた。


抱いてる時にも、消極的で受け身な態度ばかりでイラついた。

・・ほかの女なら悦んで俺の上で腰を振るだろうに。なんて、今から思うとサイテーなことを思ってた。





そこから俺は、徐々に自分を見失った。


プライドを傷つけられた気がした。

なんで、俺はこんなに好きなのに、お前は俺を愛さない?


わざと冷たく接して、突き放した。

そうすればのぞみの方から不満をブチまけてくるんじゃないかと思って。


仕事だと言って飲み歩き、声を掛けられれば見知らぬ女とも過ごした。

のぞみは気づいただろうか。

どんな顔をするんだろう。あの澄ました顔を崩して、泣きながら俺を責めるだろうか・・。

あの瞳に俺が映って、俺のことで頭がいっぱいになるだろうか。

馬鹿なことばっかり考えてた。


間違った方向に突っ走ったものの、のぞみからの反応は薄く、引くに引けなくなってそんな生活をだらだらと続けた。




それで挙句の果てには、力で捩じ伏せて身体だけ奪って。

本気で、サイテーだ。

完全に俺は、間違えた。

あの時の怯えた目をしたのぞみが脳裏に焼き付いて離れない。

本当にバカだ。後悔しても後悔しても、取り消せない。





今なら分かる。のぞみは俺の勢いに流されてた。

でも、確かに俺を好きだと言ってくれた時もあったんだ。

花が綻ぶように笑う、あの顔が好きだったのに。

おもしろい話を聞かせて、声を出して笑ってくれた時にめちゃめちゃ可愛かったこと、なんで忘れてしまってたんだろう。


あの時、もっともっと大事にしてたなら。

あんな馬鹿な考えを持たずに、素直な言葉でぶつかっていたなら。

そしたら、もっと違っていたのか・・?



今更な疑問を自分に投げかけ、俺は自嘲した。

・・・本当に今更だ。過去は変えられない。


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