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44 幸せな家族のかたち

最終話です!

おにぎりをあっという間に食べたトシ君は、「もう一つくれ」とお弁当箱に手を伸ばした。でもそれより早く先生の手がお弁当箱を引く。

「なんだよ! 一個で腹が膨れるわけないだろ。そんなにあるんだから、別にいいじゃんか」

「のんちゃんが二つ、ちぃちゃんが一つ、で、残りは僕です。俊樹にはさっき僕の分から貴重な一個をあげたでしょう」

「いくつ食うんだよ! 先生、この前の焼肉の時とかだって、そんな大食いじゃなかっただろ」

お弁当箱にぎっしり詰められたおにぎりを指差してトシ君が騒ぐ。


「トシ君、先生はご飯ものが大好きなの」「せんせー、ごはん、すき!」

「のんちゃんのおにぎりは何個でもいけそうです」

「聞いてねえよ! そんなこと。

・・・なあ、のぞみ、俺の好物は? 知ってるか?」

え!?

急にこっちにそんなことを投げかけられても何も浮かんでこない。

「ごめん、知らないわ」「ちさも!」

「即答かよ!」

トシ君のツッコミも早い。横から先生がおにぎりを頬張りながら答えた。

「俊樹はラーメンが好きなんですよ、のんちゃん」

「そうなの?」「なんで知ってんだよ!」


「食生活を見直すために食べたものを聞いたじゃないですか。俊樹、週五でラーメン食べてます」

「ウソぉ・・」「らーめんばっか?」

「・・・いいだろ、別に」

「構いませんけどね。それ以外に野菜も何も食べていないので、偏りが・・」

「先生だって、パンばっか食ってたんだろ! 俺と一緒じゃん!」

「失礼な。僕はバランスも配慮していましたよ。野菜ジュース飲んでましたし。

箱買いしてました」

「お、俺だって、五目ラーメンとか、選んでるぞ」

「ちなみに昨晩は? 何を食べたんですか?」

「・・・カップラーメン」

「・・・」

「で、でもシーフードだぞ。ほら、なんか身体に良さそうだろ? 魚介類・・」

だんだん声が小さくなるトシ君が、なんだかせつなくなってくる。


「パパ、ちさのウインナーあげるから、げんきだして」

「ち、千沙っ! ありがとうなー」

フォークにささったタコさんウインナーを前に、トシ君が感動している。

なんだ、これ。



みんなでわいわい喋りながら食べているうちにお弁当はなくなった。

先生は自分の分のおにぎりのラスト一個を大事にとっておいて、最後にゆっくり味わって食べていた。

それを呆れながらも笑いながら見ていたトシ君は、デザートのりんごを渡すと、「お、ウサギだぁ」と喜んだ。千沙もフォークに刺して、ぴょーんぴょーんと動かしてる。かわいい。


食べ終わったら先生がカメラを構えて、みんなで思い思いにポーズをとって撮影してもらった。

トシ君がおかしなポーズばっかりして、先生は「俊樹だけで写真集が出せそうですね」なんて言いながらシャッターを切ってた。

先生、絶対、トシ君のこと気に入ってるよね。おかしいのー。


「ママ、こっちこっち。おはなばたけのまえで、しゃしん、とろ!」

「ちぃちゃん、待って待って! わわっ」

千沙に手を引かれて走ったら、芝生に足を取られてこけそうになった。

「おっと」トシ君の腕が支えてくれて、コケるのは免れた。

目の前にトシ君の顔があって、少し驚く。


「のぞみ。しつこいって思われるかもしれねえけど、俺、まだしばらくはお前のこと、諦めそうにねえからさー・・・。

だから、・・・先生に飽きたらいつでも俺に言えよな」

なんて、ニシシと歯を見せて笑うトシ君に、そばに駆け寄って来た先生がすかさず言い返す。


「そんなことは有り得ないので、のんちゃんには触らないように。あ、今のは別ですけど。ありがとうございました。

次、のんちゃんに触ったら、俊樹は自分を見つめ直す更生の旅にでも出かけて下さい。あ、旅でラーメンの食べ歩きをしてはいけませんよ。ラーメンは週に二回くらいがいいと思います」

「うるせえな! しねえよ!」

二人の漫才みたいなやりとりがおかしくて、私も千沙もお腹が痛くなるくらい笑った。







車に戻る帰り道。アスファルトは夕日に照らされて、私と先生の影が長く伸びている。ふたつの影は仲良く手を繋いでいて、嬉しくて顔がにやけてしまう。

千沙は遊び疲れて寝てしまった。トシ君がおんぶしてくれて何メートルか先を歩いてる。大きな背中にちょんとのっかてる千沙は、足がぷらぷらと揺れてる。

ついこの間まで赤ちゃんだったように思えるのに、もうあんなに大きくなったんだなあってしみじみ感心する。


「今日は楽しかったなー。千沙もいっぱいいっぱい笑ってたし」

「のんちゃんは? のんちゃんも楽しかったですか?」

「うん! もちろん」

緩んだ顔のまま私が答えると、先生も目を細めて笑う。


「のんちゃん。千沙ちゃんが最近ゴキゲンに見えるのはね、のんちゃんが幸せそうに笑ってるからですよ。

のんちゃん。これからは、僕も、俊樹もいます。千沙ちゃんのことも自分のことでも何でも、のんちゃんが一人で抱え込むことはありませんから」


少し足を止め、先生は真っ直ぐ私を見つめた。


「分かち合って、いきましょう」

「うん。ありがとう、先生。・・・だいすきっ!」


嬉しさがこみ上げてきて、先生の腕にぎゅうってしがみついた。

「わ、わ、のんちゃんっ」



「こらあ、そこのバカップル! 人前でいちゃつくなって言ってんだろうが!

うらやましいぞ!」


すかさず前方からツッコミが入って、私と先生は顔を見合わせてぷっと吹き出した。








*****


ねえ、先生。私の方がずっとずっと先に、先生のこと、好きだったんだよ。

だから、この恋がこんな風に形になって、本当にうれしい。

ありがとう、先生。


私が好きなものは、大人になった今でも、真っ赤なイチゴの甘いパフェ。

でも、もっと好きなのは、先生。

あまい、あまい、私のだいすきな先生。




これで完結です。

どうもありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ

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